顧客体験を向上させる店舗試着(クリック&トライ)とは

 店舗試着(クリック&トライ)とは、オンラインショッピングにおける新しいアプローチ方法の一つです。オンラインショッピングでは、商品購入時に試着することができないため、実際に商品が届いた際にサイズや質感など思っていたものと異なる場合があります。その問題を解決できるのが店舗試着です。
 店舗試着は、お客様が気になる商品をオンラインサイトで選び、実店舗で試着してみてから購入できるサービスです。アパレルブランド等で導入されはじめており、ユニファイドコマースを目指す取り組みとしても注目されています。
似たようなサービスに店舗受取(BOPIS)がありますが、店舗受取はオンラインショップで購入した商品を店舗で受け取ることに対して、店舗試着はオンラインショップで気になる商品を店舗に取り寄せ、試着・試用し納得してから購入するサービスです。ECサイトから試着を予約し、実店舗で試着してみてサイズ感やイメージが合わない場合は購入を見送ることもできます。この記事では、店舗試着について紹介していきます。

店舗試着(クリック&トライ)導入のメリット

 店舗試着は、お客様が商品購入前にオンラインショップで予め商品を取り寄せて、実店舗で試着し、サイズや質感・色味などを確認し納得してから商品を購入するサービスです。近年では、AR(拡張現実)によるバーチャル試着の技術が進歩しているものの、「気になるブランドの初回購入は実店舗」という声は根強いです。多様化する消費者ニーズとライフスタイルの変化を見極めながら、導入を検討しましょう。

初めてのブランドでの購入は、約6割が「実店舗」、理由として「商品を実際に試せるから」が66.7%で最多

・調査概要:実店舗・ECにおけるアパレル購入者の行動実態調査
・調査方法:インターネット調査
・調査実施機関:株式会社IDEATECH
・調査期間:2022年11月25日〜同年11月26日
・有効回答:3ヶ月に1回以上、衣服・アクセサリーを購入している人111名
※構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはなりません。

出典元:Recustomer株式会社
初めて購入するブランドを買う場所は「実店舗」が約6割、自宅で試着が可能となれば、ECでも1万円以上の高額商品を購入したいと約8割が回答

 店舗試着を導入した際の、お客様(顧客側)と企業(事業者側)のメリットをそれぞれ挙げていきます。

お客様(顧客側)のメリット

  • 試着し納得してから商品を購入できる
     店舗試着を利用すると、お客様は商品を実際に試着・試用してから購入することができます。サイズ感や色味、質感など、オンラインサイト上ではわからないことも、実際に手に取って試着し納得してから購入できます。例えば、「同じMサイズでもデザインによっては試着してから購入したい」「オンラインサイトでは外国人モデルが着用しているので、自分が着たの時のイメージがわかない」「晴れの日用の高価な洋服を購入するので、実際に着てみてから購入を判断したい」といった場合、試着ができるととても便利です。
  • 実店舗にない商品も試着できる
     店舗試着では、オンライン限定商品など実店舗では取扱のない商品も試着できる場合があります。オンラインショップにしかないサイズやカラー、限定商品も手に取って試し、納得してから購入できます。欲しいブランドの店舗が近隣にない場合も、同じ企業が展開するブランドであれば、近くの系列店舗に取り寄せて試着ができる場合もあります。
  • 無駄な買い物の回避
     お客様は「せっかく買った洋服が似合わずにタンスの肥やしになってしまった」ということなく、お買い物をお楽しみいただけます。また、試着をしてみて「イメージと合わない」「サイズ感がしっくりこない」といった場合は、購入を見送ることもできます。また、店舗で購入を見送っても、一度試着しているのですぐオンラインサイトから購入することもできます。店舗試着はお客様にとってとても便利なサービスです。
  • 配送料の節約
     オンラインショップからの試着予約後は、自身の都合に合わせて近隣の店舗で、試着することができます。店舗試着では、ほとんどの場合が配送無料です。送料を気にすることなく、気軽に試着することができます。

企業(事業者側)のメリット

  • 店舗送客と売上アップ効果
     店舗試着の導入は、お客様の来店促進につながります。試着で来店の際、店舗スタッフとお客様のコミュニケーション接点もできるので、新商品やキャンペーン商品をおすすめするチャンスも生まれます。また、お客様が試着をしてみて購入を見送った場合も、サイズや色味が違う別の商品を提案することもできます。
  • 競合との差別化
     店舗試着はまだ比較的新しいサービスです。いち早く導入することで競合他社との差別化につながります。
  • 在庫情報の最適化
     店舗試着を導入する際に、在庫情報を最適化をする必要があります。在庫情報を連携するシステム導入が必要となりますが、これにより在庫情報をオンラインとオフラインの双方で効率的に管理できるようになります。また、ECサイトと実店舗の在庫連携ができていれば、倉庫から商品を発送せずに店舗在庫からお客様に商品を渡すこともできます。
  • 顧客ニーズにあわせた品揃えで販売機会の損失を防ぐ
     店舗試着を導入することによって、実店舗の限らせたスペースでも、お客様のニーズに応える商品ラインナップを揃えることができます。せっかくお客様が来店した際に「サイズがない」「欲しい商品が見つからない」といった理由での販売機会の損失を防ぎます。店舗にないブランド(自社が展開する他ブランド)の店舗試着に対応することで、新規顧客の獲得も期待できます。

店舗試着(クリック&トライ)導入において注意すべきポイント

 店舗試着は比較的新しいサービスのため、まだ導入企業は多くありません。すでに店舗受取(BOPIS)などのOMO戦略に取り組んでいる企業は、次の施策として店舗試着の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

実店舗側で注意すべきポイント

  • 店舗スタッフの教育
     店舗試着を導入するためには、販売スタッフに店舗試着の手順やシステム操作、商品の保管方法などを十分に理解してもらわなくてはなりません。適切な教育体制を整え、スタッフのトレーニングやマニュアル作成などを行う必要があります。
     また、店舗試着を複数ブランドで実施する際は、自店舗以外のブランド知識を販売スタッフに教育するなど、ブランドを横断した取り組みが必要となる場合もあります。
     店舗試着は比較的新しいサービスであるため、利用規約などを定めしっかりとしたトレーニングを行いましょう。
  • 試着室の確保と接客スタッフの配置
     セール期間などの繁忙期や混雑する時間帯では、試着室が込み合う可能性があります。店舗試着を予約したお客様だけでなく、通常の店舗でお買い物中に試着を希望するお客様もいるので、試着順の適切なルール作りなどオペレーション管理が必要となります。
  • 店舗スタッフの負荷
     店舗スタッフは接客はもちろん陳列や発注業務の業務を抱えています。多忙な接客の合間でも、無理なく使用できる店舗試着システムを選定し、適切なトレーニングをおこないましょう。通常営業に加えて試着が増える分、試着商品の戻しなどの管理や破損や汚れのチェックなどの雑務が増える場合もあります。

システム導入において注意すべきポイント

  • 店舗試着システムの構築
     まず店舗試着に適したシステムの導入が必要となります。店舗試着の仕組みとしては、お客様がオンラインショップから試着する商品を選び、店舗へ試着を予約するシステムと、店舗側は、お客様が予約した商品をお客様が希望する店舗へ取り寄せるシステム、商品の取り寄せとステータスを管理するシステムが必要となります。
    また、店舗試着を導入する前に、実店舗とECサイトとの在庫連携や顧客情報の一元管理など、自社のECサイトにどのような機能が揃っているのかを確認しておきましょう。すでにOMO戦略として店舗受取(BOPIS)に取り組んでいる場合は、比較的店舗予約を導入しやすい場合もあります。これからOMOやユニファイドコマースの導入を検討する場合は、機能の拡張性を重視したシステムを選ぶと良いでしょう。
  • 在庫管理システムとの連携
     店舗試着を導入する場合は、ECサイトと実店舗の在庫情報の連携が必要です。双方の在庫状況が把握できていないと、商品の在庫切れが生じてしまったり、試着可能な日時をお客様へ伝えられないなどのトラブルが発生します。ECサイトと実店舗の在庫状況をまとめて管理ができるシステムを導入しましょう。店舗在庫をECサイトで販売し、店舗試着を行う場合は在庫情報のリアルタイム連携が必要です。
  • 試着予約から来店・購入までのステイタス管理
    店舗試着では、試着の予約受付をおこない、倉庫から店舗への商品発送・到着、商品が店舗に届いた際のお客様へのご連絡、お客様が試着のために来店する日時を正確に管理する必要があります。自社のサービスやオペレーションと相性の良い、手軽にステイタス管理ができるシステムを選びましょう。また、店舗スタッフは多くの業務を抱えているので、多忙な接客の合間でも、無理なく使用できるシステムを選定し、適切なトレーニングをおこないましょう。
  • 顧客情報・購入履歴の管理
    店舗試着では、顧客情報・購入履歴の管理が重要になります。ECサイトと実店舗の顧客データベースを一元管理し、予め整えておくことで、店舗試着をよりスムーズに導入することができます。個人情報を取り扱うのでセキュリティ対策の徹底も必要です。

顧客体験を向上させる店舗試着(クリック&トライ)の導入事例

 店舗試着は、お客様にとって便利なだけでなく、企業にとってもメリットのある施策です。店舗試着を導入し、顧客体験の向上に成功している事例をご紹介します。

オンワード樫山

 アパレル関連事業のオンワード樫山は、2022年に自社が展開するブランドの垣根を越えて店舗に取り寄せ、試着・購入ができる「クリック&トライ」のサービスリニューアルをおこないました。オンワード樫山の「クリック&トライ」は、OMO(Online Merges with Offline)型の新業態「オンワード・クローゼットストア/セレクト」のコンテンツの一つです。新店に加え既存店へのサービス導入が進み、「クリック&トライ」は2023年2月期末の段階で、340店までに導入を拡大しています。既存店の導入店舗の売上高はコロナ前の19年度の水準に回復し、未導入店舗は19%下回っており、店舗試着サービス導入の効果がうかがえます。

“ネットで取り寄せ、お店で試着・購入”OMOサービス「クリック&トライ」リニューアル

オンワード樫山の「クリック&トライ」サービス 来店や購買のきっかけ増やす

オンワード樫山 クリック&トライで成果、導入店舗の成果が顕著、ECの拡大にも貢献へ

ワコール

 インナーウエアの製造・販売等をおこなうワコールでは、2023年10月中旬より商品の取り置き・取り寄せができるサービスを開始しました。
 このサービスはワコールのオンラインストはもしくは公式アプリ「WACOAL CARNET(ワコールカルネ)」から、お客様が気になる商品の「取り置き・取り寄せ」を申し込むことで、希望の店舗で実際の商品を確認・試着して着用感を確かめてから、購入することができます。この「取り置き・取り寄せ」サービスは、全国の百貨店で約50店舗、直営店で約100店舗で展開しています。

「取り置き・取り寄せ」の導入背景として、ワコールのプレスリリースでは、

昨今お客様の購買行動に変化があり、ワコールウェブストアで在庫を調べてから店舗にお越しいただく方が増えています。一方で、お客様がご来店いただいた際に時間をかけて選んでいただいてもご希望のサイズやカラーが無い場合があります。そこで、オンライン上でご希望の商品をご希望の店舗で在庫を確保した状態(※5)でご来店いただき、店舗で商品を確認した上でご購入いただけることにより、お客様がより便利に快適にお買い物を楽しんでいただけるよう当サービスの開始に至りました。(※5)ご希望の在庫の手配完了通知が届いてから7日間お取り置き可能です。

としています。下着などのインナーウエアは、洋服よりもサイズ選びが複雑です。自身のサイズが手に入りにくい、試着して納得してから購入したいという顧客ニーズに対応した取り組みです。

お客様がより快適にお買い物を楽しめる新サービスワコールウェブストアが百貨店・直営店での「取り置き・取り寄せ」を開始

 また、ワコールの公式アプリ「WACOAL CARNET(ワコールカルネ)」は、購入履歴だけでなく試着履歴も残すことができます。お客様が過去に試した商品を確認できることはもちろん、これまでは販売員の経験則でしか把握できなかった情報が、データ上から読み取れるようになり、実店舗、オンラインストア双方の販売戦略に役立てています。

ワコール お客さまの「あったらいいな」に応えるために ~「深く・広く・長く」つながる関係づくり~

まとめ

 店舗試着(クリック&トライ)は、オンラインショッピングの弱点を補ってくれるサービスで、「購入前に試着して、商品に納得してから購入したい」というお客様のニーズに応え、顧客体験を向上させる取り組みです。オンラインとオフラインをシームレスにつなぐ、ユニファイドコマースを目指すにあたっても、重要な取り組みのひとつです。店舗試着は、お客様の購入履歴はもちろん、試着履歴も含めてデータ活用することで、顧客行動の可視化をはじめ、お客様一人ひとりに最適な商品提案を行うマーケティングへの活用も期待できます。

 W2株式会社は、ECプラットフォーム「W2 Unified」「W2 Repeat」を展開しており、国内市場でユニファイドコマースをリードしている会社のひとつです。
次世代の新しいスタイルのECに取り組みたい、課題を洗い出しをしたいなどのご相談がありましたら、ぜひ弊社へお声がけください。
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ライター:ユニファイドコマースメディア編集部

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「ユニファイドコマースメディア」は、OMOやオムニチャネルの進化系であるユニファイドコマースに関する情報を発信するWEBメディアです。 ユニファイドコマース(Unified Commerce)とは、オンライン・オフラインという概念にこだわらず、ECサイトや実店舗で取得したデータ(顧客情報・行動履歴など)を統合し活用する、顧客一人ひとりに価値ある購買体験を提供するマーケティング手法を指します。

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