ユニファイドコマースにおいてAR(拡張現実)技術の導入で実現できること

AR(拡張現実)技術とは

 ARとは、拡張現実(Augmented Reality)の略称で、現実世界にデジタル情報を重ね合わせる技術のことです。AR技術は、スマートフォンやタブレット、またはゴーグルなどの専用端末を使って、現実世界に立体的な仮想オブジェクトや情報を表示させることができる技術です。

 AR技術を使った代表的なサービス例としては、アメリカのNiantic(ナイアンティック)とポケモンカンパニーが共同開発した「ポケモンGO」があります。モバイルデバイス向けAR技術を活用したゲームで、2016年のリリース時は日本でも、大流行し社会現象を巻き起こしました。
 これまでAR技術は、ゲームなどのエンターテインメントの分野で利用されてきましたが、近年では、GoogleのAR技術を活用したビデオ会議システム「Project Starline」やMicrosoftの仮想現実を複数ユーザーで共有するプラットフォーム「Microsoft Mesh」が話題となりました。AR技術は、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)などの世界経済に大きな影響を与える超巨大IT企業も開発に注力している注目のテクノロジーです。今後もARは、オンラインショッピングや接客などあらゆる方面で活用されていくことが期待されており、ユニファイドコマースを目指すにあたっても、欠かせない技術と言えるでしょう。

ユニファイドコマースにおけるAR(拡張現実)技術導入のメリット

 企業が自社のユニファイドコマース戦略にAR技術を導入するメリットは、以下の3点です。

  1. オンラインとオフラインのシームレス化
     ユニファイドコマース戦略において、AR技術はオンラインとオフラインの境い目をなくす役割を果たします。例えば、オンラインショッピングでは仮想的な商品の試着や試用の実施、実店舗では商品にスマートフォンをかざし現実世界にデジタル情報を重ねることで、商品情報を表示させるなど顧客へ与える情報量を増やすことができます。
  2. オンラインショッピングにおける顧客の購買意欲の向上
     ユニファイドコマースの戦略におけるAR技術の導入は、顧客の購買意欲の向上に役立ちます。オンラインショッピングではイメージがしにくい場合でも、顧客は自信を持って購買を進めることができます。例えば、洋服の試着や化粧品の色味の確認、家具の試し置きなどが、AR技術の導入で可能となります。
  3. 顧客行動データの収集
     AR技術の導入は、顧客データの収集に役立ちます。例えば、顧客がECサイトやモバイルアプリ・専用端末を介してAR機能を使うことで、どのような商品を選んだのか、どのような色味や大きさを好むのかなどの情報を得ることができます。このような行動データは、より緻密なデータ分析に役立ち、パーソナライズされたマーケティング施策を打つ上で重要な情報となります。

ユニファイドコマースにおいてAR(拡張現実)技術の導入で実現できること

 企業がユニファイドコマースを目指すにあたって、AR技術を導入することでどのようなことができるのかを挙げていきます。「Unified Commerce(ユニファイドコマース)」とは、オンライン・オフラインという概念にこだわらず、ECサイトや実店舗で取得したデータ(顧客情報・行動履歴など)を統合し活用する、お客様一人ひとりに価値ある購買体験を提供するマーケティング手法のことです。
ARの特徴は、様々な情報を視覚的にわかりやすく相手に伝えられることです。企業は自社のユニファイドコマース戦略にARを導入することで、次のような取り組みが可能となります。

  1. オンラインショッピングでの試着や試用
     企業は、ECサイトやモバイルアプリにAR機能を組み込むことで、顧客に仮想的に商品を試してもらうことができます。例えば、洋服の試着やコスメの試用、家具の試し置きなどがあげられます。
    実際に商品を見たり触ったりすることができないオンラインショッピングでも、顧客は購入前に仮想的に商品を試すことで、安心・納得感を持って購入することができます。返品率の減少も期待できます。
  2. モバイルアプリを活用した実店舗の接客
     企業は、AR機能を搭載したモバイルアプリを顧客に提供することで、実店舗の接客に役立てることもできます。例えば、顧客は来店時にモバイルアプリを起動させることで、店舗内の商品の陳列位置や商品情報を確認することができます。これにより、顧客は店舗スタッフに尋ねることなくスムーズに目的の商品やセクションにたどり着くことができたり、商品の値段やレビュー・成分情報などをモバイルアプリを通じて確認することができます。
  3. イベントやキャンペーンの実施
     AR技術は、エンターテインメント性が高く、イベントやキャンペーンと相性の良いテクノロジーです。ゲームやクイズ、仮想展示などの施策にその特徴を生かすことができます。AR技術を活用した顧客体験は、参加者とのエンゲージメントを高め、ブランドの認知度向上へとつながります。また、AR技術は顧客が写真や動画で共有しやすく、SNSとの相性も良いため、パブリシティ効果やSNSでの拡散効果も期待できます。
  4. ARを活用した顧客サポート
     ARは顧客サポートにも役立ちます。例えば、ARを使用して顧客に商品の組み立てや設置方法、トラブルシューティングのガイドを提供します。顧客は。ARを通じてリアルタイムのサポートや手順を視覚的に確認でき、効率的かつ正確なサポートを受けることができます。

ユニファイドコマース戦略におけるAR(拡張現実)技術の活用の事例

 AR技術はECや店舗での接客、イベント、キャンペーンなどと組み合わせて使用することができます。オンラインショッピングでは商品のシミュレーションが可能であり、実店舗ではモバイルアプリなどを使用して補足情報をデジタル表示させることもできます。ユニファイドコマース戦略においても重要な技術であり、顧客へ新しい購買体験を提供します。続いて、ユニファイドコマースにおける代表的なARの導入事例をご紹介します。

IKEA(家具・インテリア)

 IKEAは、低価格でスタイリッシュな家具および家庭用品を販売するスウェーデンの企業です。IKEAは、スウェーデンの部屋作りの特色を活かしながら、ARを活用した家具の試し置きやデザイン体験を提供しています。スウェーデンの部屋作りは、シンプルで機能的なデザイン、明るい色使い、自然素材の活用などが特徴です。IKEAは、ARの技術を活用し部屋作りのシュミレーションを提供することで、顧客体験を向上させています。
 IKEA Placeは、IKEAとAppleが共同開発したARアプリです。顧客は、家具やインテリアアイテムを実際の場所に仮想的に配置して、見た目やサイズ感を確認することができます。顧客はスマートフォンやタブレットを使って、家具を仮想空間に配置し、部屋のデザインや家具の配置を事前に試すことができます。
 日本では、2020年の「IKEA原宿」オープンの際に、店舗専用の「IKEA原宿」を開発し、提供したコトでも話題になりました。IKEA原宿ショップ内でのインタラクティブな買い物が楽しめるアプリで、アプリを起動して、ショップ内の家具商品にかざすと、商品が自動判別され、iPhoneの画面に、その商品の商品名が表示されタップすると、その商品の詳細情報(価格や、色違い等のバージョン)を確認することができます。類似商品も閲覧できます。
 この他にも、インテリア業界では、ニトリが提供する公式アプリでは、ARの技術を活用した「サイズwithメモ」を搭載しています。家具や家電を選ぶ際に重要なサイズを手軽に計測できるサービスで、スマートフォンのカメラをかざすことで欲しい家具の寸法を測ったり、自宅の家具を配置するスペースの寸法を測ることができる便利な機能です。

参考:IKEA原宿アプリのAR機能をつかって、インタラクティブなお買い物体験を楽しもう!

NIKE(アパレル・小売り)

 「NIKE FIT AR」は、NIKEが提供する靴のサイズ選びのためのARツールです。このツールを使用すると、スマートフォンのカメラを使って自分の足のサイズを測定し、最適なサイズの靴を選ぶことができます。「NIKE FIT AR」を使用することで、従来のサイズ選びの方法よりも正確なサイズを選ぶことができます。
 この他にもNIKEは、ARの機能を活用したキャンペーンを実施しています。「NIKE SNKRS」は、NIKEのスニーカー愛好者向けのモバイルアプリです。「SNKRS CAM」という機能が搭載されており、スマートフォンのカメラを特定の被写体ににかざすと、AR(拡張現実)でスニーカーの3Dが現れ、そのアイテムを購入できる機能です。この機能は限定商品の販売時のプロモーションで活用されており、アプリを通じて販売開始の通知を受けたユーザーが、指示に従いカメラを起動させると限定スニーカーの3Dが表示され購入できるという仕組みです。宝探し感覚で楽しめるキャンペーンで、スニーカーマニアの間で話題になりました。NIKEはARを活用しファンとのエンゲージメントを高める施策を試みています。

参考:ナイキ SNKRS アプリ 3/20(火)より日本で展開決定
参考:NIKEアプリが3周年を記念してナイキメンバー向けに特別なイベントを企画 NIKEアプリはこれからも一人一人に合ったサービスで、メンバーに最高のナイキを提供

花王(化粧品)

 化粧品業界においてもARの技術は注目されています。花王は、2021年にセルフメイクブランド「KATE」の新たな店頭テスターとして、スマートフォンのカメラをかざすとメイクの仕上がり画像が動き出す、AR機能を活用したデジタルテスター「TESTER PLAY」を導入しました。「TESTER PLAY」を使用することで、顧客は動いた時の印象を客観的に確認でき、よりリアルな色や質感に加え、全色の仕上がりも同時に比較できます。
また、花王では2020年にヘアカラー製品の毛束見本を廃止しました。店頭の毛束サンプルでなく、顧客が店頭POPや商品パッケージの裏面のQRコードを読み取ることで、ヘアカラーのイメージができるという取り組みです。これにより、花王は年間で56トン排出していたプラスチックゴミをなくし、CO2削減にも貢献しました。

参考:登録者数48万人突破!KATE公式LINE「MAKEUP LAB.」にARの技術を活用した新機能「TESTER PLAY」が7月20日より導入開始 
参考:ヘアカラー売場に設置する毛束色見本の提供を終了し、プラスチック使用量を削減

まとめ

 ARは、視覚的なエンターテインメント性が高く、ゲームなどで使われている印象が強い技術です。近年では、ゲーム・エンターテインメント業界だけでなく、ECサイトやモバイルアプリを通じた、顧客体験の向上を目指した取り組みが増えてきています。ARは、顧客を楽しませることでエンゲージメントを高め、ブランドのファン育成にもつながります。
 また、ARを導入することで「実店舗で商品に触れないことには分からない」といったオンラインショッピングならではの課題解決にもつながります。ARは、ユニファイドコマースの実現へ向けて導入を検討すべきツールのひとつです。
 ARの「情報を視覚的にわかりやすく伝えられる」という特長を生かし、ユニファイドコマース戦略の施策として検討してみてはいかがでしょうか。
 W2株式会社は、ECプラットフォーム「W2 Unified」「W2 Repeat」を展開しており、国内市場でユニファイドコマースをリードしている会社のひとつです。次世代の新しいスタイルのECに取り組みたい、課題を洗い出しをしたいなどのご相談がありましたら、ぜひ弊社へお声がけください。
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ライター:ユニファイドコマースメディア編集部

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