「SaaS(サース)」という言葉をニュースや資料でよく見かけるものの、「クラウドサービスの一種らしいけれど、具体的に何を指すのか正確に説明できない」という方は少なくないはずです。PaaSやIaaSといった似た言葉との違いも、混同しやすいポイントの一つです。
SaaSは、いまや会計処理からチームでのコミュニケーション、顧客管理まで、企業のあらゆる業務を支える存在になっています。仕組みを正しく理解しておくと、自社の課題に合わせてITツールを選ぶ際の判断がぐっとしやすくなります。
本記事では、SaaSの意味や成り立ちから、仕組み、PaaS・IaaSとの違い、導入のメリット・デメリット、そして業種・業務別の代表的な活用例までを、専門用語をかみ砕いてわかりやすく解説します。
この記事でわかること
インターネットを通じて、インストール不要でそのまま使えるソフトウェアを利用できるサービス形態のことです。「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略で、ベンダーが管理するサーバー上でソフトウェアが稼働し、ユーザーはブラウザなどからアクセスするだけで利用できます。
提供される範囲の広さが異なります。IaaSはサーバーなどのインフラのみ、PaaSはインフラに加えてアプリケーションを開発する土台まで、SaaSはインフラ・開発基盤に加えてすぐに使えるアプリケーションそのものまで提供します。SaaSがもっとも手軽に使い始められる形態です。
カスタマイズできる範囲に制約があること、データがベンダーのサーバー上に保存されるためセキュリティ対策をベンダーに依存すること、特定のサービスに依存し続ける「ベンダーロックイン」のリスクがあることなどが挙げられます。導入前にこれらを理解しておくことが重要です。
SaaSとは?意味と成り立ち
SaaS(サース、まれに「サーズ」とも)とは、「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略称で、インターネットを通じてソフトウェアを利用できるサービス形態を指します。従来のように自分のパソコンにソフトウェアをインストールする必要はなく、Webブラウザなどからアクセスするだけで、必要な機能をすぐに使い始められる点が最大の特徴です。
なぜSaaSという言葉が広まったのか
SaaSという呼び方が一般化する以前、2000年代前半には「ASP(Application Service Provider)」という言葉が使われていました。ASPは主にサービスを提供する事業者やそのビジネスモデルを指す言葉として使われていたのに対し、SaaSは提供される「ソフトウェアそのもの」を指す言葉として区別されることが多いのですが、実務上は同じような意味で使われる場面も少なくありません。
ASPサービスについてもっと詳しく知りたい方は、身近な例としてECサイトを構築する無料ASPカートの特徴やメリット・デメリットをまとめた以下の記事をご参考ください。
関連記事:無料ASPでECサイトを構築するメリットや選定軸、利用時の注意点を徹底解説
SaaSという概念を広めた存在としてしばしば挙げられるのが、1999年に創業した米国の企業向けソフトウェア企業です。「ソフトウェアの終焉(The End of Software)」を掲げ、ソフトウェアをパッケージとして販売するのではなく、インターネット経由でサービスとして提供するビジネスモデルを打ち出したことで、その後のクラウドサービス市場全体の潮流を作ったといわれています。2000年代後半以降、クラウドコンピューティング技術の進化とインターネット回線の高速化が重なったことで、SaaSは一部の先進企業だけのものから、あらゆる規模の企業が日常的に利用するインフラへと変化しました。
SaaSの仕組み
SaaSがどのような仕組みで成り立っているのかを理解すると、メリット・デメリットの背景がつかみやすくなります。主なポイントは次の6つです。
①ホスティング:SaaSベンダーが自社のサーバーやクラウド基盤上でアプリケーションを運用します。利用する側は、サーバーやハードウェアを自社で用意・管理する必要がありません。
②インターネット経由のアクセス:ユーザーは、インターネットに接続されたパソコンやスマートフォンから、ブラウザや専用アプリを通じてサービスにアクセスします。インストール作業は基本的に不要です。
③マルチテナント方式:多くのSaaSは、一つのソフトウェアの基盤を複数の利用企業(テナント)で共有しながら、それぞれのデータは安全に分離して管理する「マルチテナントアーキテクチャ」を採用しています。この仕組みにより、ベンダーは効率的にサービスを提供でき、利用側は低コストでの利用が可能になります。
④保守・アップデート:ソフトウェアのバージョンアップやセキュリティパッチの適用は、基本的にベンダー側が担当します。利用側は、常に最新の状態のソフトウェアを、特別な作業をすることなく利用できます。
⑤サブスクリプション課金:多くのSaaSは、月額または年額の定額制(サブスクリプション)で提供されます。利用人数や機能範囲に応じてプランが分かれていることが一般的です。
⑥外部サービスとの連携:多くのSaaSは、他のSaaSやツールと連携するための機能(API連携など)を備えており、複数のサービスを組み合わせて業務を自動化することができます。
SaaSとクラウド、IaaS・PaaSとの違い
SaaSについて調べていると、「クラウド」「IaaS」「PaaS」といった言葉も頻繁に登場します。それぞれの関係を整理しておきましょう。
SaaSとクラウドの違い
「クラウド」と「SaaS」は同じ意味で使われることもありますが、正確には異なる概念です。クラウドコンピューティングとは、インターネットを通じて提供されるITサービス全般を指す、非常に広い概念です。この大きな枠組みの中に、後述するIaaS・PaaS・SaaSといった複数の提供形態が含まれています。つまり、SaaSはクラウドという大きなカテゴリの中の一つの形態、という関係になります。
SaaS・PaaS・IaaSの違い
クラウドサービスは、提供される範囲の広さによって主に3つの形態に分けられます。
| 名称 | 提供される範囲 | 主な利用者 |
|---|---|---|
| IaaS(Infrastructure as a Service) | サーバーやストレージ、ネットワークなどのITインフラ | インフラエンジニア、システム管理者 |
| PaaS(Platform as a Service) | ITインフラに加えて、アプリケーションを開発・実行するための基盤 | 開発者、エンジニア |
| SaaS(Software as a Service) | ITインフラ・開発基盤に加えて、すぐに使えるアプリケーションそのもの | 一般のビジネス担当者 |
イメージとしては、「IaaSを含む形でPaaSがあり、PaaS(とIaaS)を含む形でSaaSがある」という包含関係で捉えると分かりやすくなります。IaaSやPaaSは、システムを自社で組み立てたい開発者やエンジニア向けの選択肢であるのに対し、SaaSは技術的な知識がなくても、契約してすぐに業務で使い始められる点が最大の違いです。
なお、これらをまとめて「XaaS(X as a Service)」と呼ぶこともあり、特定の処理だけを必要なときに実行できる「FaaS(Function as a Service)」や、複数のクラウドサービス同士を連携させる「iPaaS(integration Platform as a Service)」など、派生した形態も登場しています。まずはSaaS・PaaS・IaaSという基本の3分類を押さえておけば、実務上は十分でしょう。
SaaSとオンプレミス・パッケージソフトの違い
SaaSとよく比較されるのが、自社でサーバーを保有し管理する「オンプレミス」や、CD-ROMなどで購入し自分のパソコンにインストールする従来型の「パッケージソフト」です。
| 比較項目 | SaaS | オンプレミス/パッケージソフト |
|---|---|---|
| 導入コスト | 低い(月額課金が中心) | 高い(サーバー購入・ライセンス購入が必要) |
| 導入スピード | 早い(契約後すぐに利用可能) | 遅い(サーバー構築や設置作業が必要) |
| カスタマイズ性 | 制限あり | 高い(自由に改修できる) |
| 保守・アップデート | ベンダーが対応 | 自社で対応する必要がある |
| アクセス環境 | インターネット環境があればどこからでも | 社内ネットワークや特定端末に限定される場合が多い |
オンプレミスやパッケージソフトは、自社の要件に合わせて自由にカスタマイズできる反面、初期投資や保守の手間が大きくなります。一方SaaSは、既製の機能を効率的に利用できる代わりに、カスタマイズの自由度は一定の範囲に制限されます。自社にとってどちらが適しているかは、求めるカスタマイズ性と、かけられるコスト・工数のバランスで判断することになります。
SaaS導入のメリット
導入コストが低く、スピーディーに始められる
SaaSは自社でサーバーやソフトウェアを一から用意する必要がないため、初期費用を大幅に抑えられます。契約してアカウントを発行してもらえば、早ければ即日から利用を開始できる手軽さも大きな魅力です。
保守・運用の手間がかからない
ソフトウェアのアップデートやセキュリティパッチの適用は、基本的にベンダー側が担当します。利用側は専門のシステム担当者を置かなくても、常に最新の状態のソフトウェアを使い続けられます。
場所を選ばずアクセスできる
インターネット環境さえあれば、オフィス以外の場所からでも同じようにサービスを利用できます。リモートワークや外出先での業務、複数拠点間での情報共有とも相性がよい仕組みです。
事業の成長に合わせて柔軟に拡張できる
利用人数の増減や必要な機能の変化に応じて、プランを柔軟に変更できるサービスがほとんどです。小さく始めて、事業の成長に合わせて段階的に機能を拡張していくといった使い方がしやすくなっています。
SaaS導入のデメリット・注意点
カスタマイズの自由度に制約がある
多くのSaaSは、複数の企業で基盤を共有しているため、自社独自の業務フローに完全に合わせた大幅な改修は難しいことがあります。標準機能や、外部連携・拡張機能で対応できる範囲かどうかを事前に確認しておくことが重要です。
セキュリティ対策をベンダーに依存する
利用企業のデータはベンダーのサーバー上で管理されるため、セキュリティ対策の多くをベンダーに依存することになります。信頼できるベンダーかどうか、第三者機関によるセキュリティ認証を取得しているかなどを見極める必要があります。
ベンダーロックインのリスクがある
特定のSaaSに業務が深く依存すると、他のサービスへ乗り換えたくなった際に、データ形式の違いなどから移行が難しくなることがあります。これを「ベンダーロックイン」と呼びます。契約前に、データをどのような形式でエクスポートできるかを確認しておくと安心です。
インターネット環境に依存する
SaaSはインターネット経由で利用するサービスであるため、通信環境が不安定な場所ではサービスの利用体験が損なわれることがあります。また、ベンダー側の障害によって、一時的にサービスを利用できなくなるリスクもあります。
また、SaaS導入にあたって自社に最適なシステムの選び方やセキュリティ要件を確認したい方は、ぜひ以下のチェックシートをご活用ください。
代表的なSaaSの活用例【分野別】
SaaSは特定の業種に限らず、あらゆる業務領域で活用されています。代表的な分野ごとの例を紹介します。
グループウェア・コミュニケーション
社内外とのコミュニケーションや情報共有を効率化するSaaSです。ビジネスチャットの「Slack」「Chatwork」「LINE WORKS」、Web会議の「Zoom」「Google Meet」、業務全体をまとめる「Microsoft 365」「Google Workspace」などが代表例です。
会計・バックオフィス
経理処理や請求書発行、経費精算などをクラウド上で完結できるSaaSです。「freee会計」「マネーフォワード クラウド」などが広く利用されています。電子帳簿保存法への対応が求められる中、多くの企業が導入を進めている分野です。
営業支援・顧客管理(SFA/CRM)
営業活動の進捗管理や、顧客情報を一元管理するためのSaaSです。「Salesforce」「HubSpot」などが世界的に広く利用されており、営業担当者の属人化しがちな情報を組織全体で共有できるようになります。
人事労務
勤怠管理や給与計算、入退社の手続きといった人事労務業務を効率化するSaaSです。「SmartHR」「jinjer」などが代表例で、法改正への対応もベンダー側で随時アップデートされる点がメリットです。
プロジェクト・タスク管理
チームの進捗状況やタスクを可視化し、共同作業を支援するSaaSです。「Backlog」「Asana」「Trello」などが代表例で、リモートワークが広がるなかで導入が進んでいる分野です。
ファイル共有・オンラインストレージ
ファイルをクラウド上に保管し、複数人で共有・編集できるSaaSです。「Dropbox」「Box」「Google ドライブ」などが該当し、常に最新のファイルをチームで共有できる点が特徴です。
EC・通販領域での活用
これらの業務系ツールに加えて、ECサイトの構築・運営そのものをSaaSとして提供するサービスも広く普及しています。ECサイト構築におけるSaaSの活用(SaaS型EC)について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:SaaS型のECサイトとは?おすすめのECプラットフォーム10選もご紹介
なお、SaaS型に限らず、パッケージ型やフルスクラッチなども含めたEC構築サービス全体を比較検討したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
自社に合ったSaaSを選ぶための5つのポイント
数多くのSaaSの中から自社に合ったものを選ぶ際は、次の5つの視点で検討すると失敗しにくくなります。
①解決したい課題と必要な機能を明確にする:SaaSは種類ごとに得意分野が異なります。まず自社がどの業務を効率化したいのか、必須の機能は何かを整理してから探し始めることが出発点です。
②料金体系と総コストを確認する:月額・年額の基本料金に加えて、利用人数やデータ容量に応じた従量課金が発生しないかを確認します。無料プランや試用期間で実際の使用感を確かめてから本格導入するのも有効です。
③セキュリティ対策の水準を確認する:ISMS(ISO27001)などの第三者認証を取得しているか、データの暗号化やバックアップ体制が整っているかを確認しましょう。重要なデータを預ける以上、優先度の高い確認項目です。
④サポート体制を確認する:導入時や運用中にトラブルが起きた際、電話・チャット・メールなどどの手段でどの程度迅速にサポートを受けられるかを確認します。SLA(サービス品質保証契約)を公開しているサービスは、信頼性を判断する材料になります。
⑤データの移行しやすさ(ポータビリティ)を確認する:将来的に他のサービスへ乗り換える可能性も見据え、データをどのような形式でエクスポートできるかを事前に確認しておくと、ベンダーロックインのリスクを軽減できます。
特にECサイトの基盤となるカートシステムは、事業の成長とともに乗り換え(リプレイス)を検討するケースも少なくありません。ECシステムのリプレイスで失敗しないためのポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。
2026年、SaaSを取り巻く新しい動き
SaaS市場は年々進化を続けており、2026年現在、特に注目されているのが「AIエージェント」との融合です。従来のSaaSは、人間が画面を操作して情報を入力・確認するものが主流でしたが、近年はAIエージェントが複数のSaaS間を横断してタスクを自動的に処理する動きが広がっています。たとえば、問い合わせ内容をチャットツールが受け取り、顧客管理システムへ自動で記録し、対応状況を人事労務システムの稼働状況と照らし合わせて担当者を割り振る、といった連携が実用化されつつあります。
また、特定の業種・業務に特化した「バーティカルSaaS」の広がりも見逃せません。汎用的な機能を幅広くカバーする従来型のSaaSに加え、特定の業界特有の商習慣や規制に対応した専門性の高いSaaSが、さまざまな分野で登場しています。SaaSを選ぶ際は、汎用性の高さだけでなく、自社の業種特有の要件にどこまで対応しているかも、今後ますます重要な判断軸になっていくでしょう。
なお、AIを活用した最新のEC戦略や実践ノウハウについては、以下の資料で詳しく解説しています。
まとめ
SaaSとは、インターネットを通じてソフトウェアを利用できるサービス形態であり、ベンダーが提供するサーバー上でアプリケーションが稼働するため、利用者はインストールや保守の手間なく、すぐに機能を使い始められる点が最大の特徴です。
IaaS・PaaSと比べると、SaaSは提供される範囲がもっとも広く、専門知識がなくても導入しやすい形態といえます。一方で、カスタマイズ性の制約やベンダーロックインのリスクなど、事前に理解しておくべき注意点もあります。
会計、コミュニケーション、営業支援、人事労務など、SaaSはすでにあらゆる業務領域に浸透しています。自社の課題を明確にしたうえで、機能・コスト・セキュリティ・サポート体制・データの移行しやすさという5つの視点から比較検討することが、失敗しないSaaS選びの第一歩です。
なお、ECサイトの構築・運営にSaaSを活用する「SaaS型EC」について詳しく知りたい方は「SaaS型のECサイトとは?おすすめのECプラットフォーム10選もご紹介」をあわせてご覧ください。
SaaSに関するよくある質問
Q. SaaSはどのように発音しますか?
A. 一般的には「サース」と発音されますが、「サーズ」と発音されることもあります。どちらの読み方も広く使われているため、どちらが正しい・誤りということはありません。
Q. SaaSとASPは同じものですか?
A. 厳密には、ASPは主にサービスを提供する事業者やビジネスモデルを指す言葉、SaaSは提供されるソフトウェアそのものを指す言葉という違いがあるとされています。ただし実務上は、ほぼ同じ意味で使われることも多く、明確に使い分けられているわけではありません。
Q. 無料で使えるSaaSはありますか?
A. あります。多くのSaaSは、機能や利用人数を制限した無料プランを提供しており、実際の使用感を確かめたうえで有料プランへ移行するかどうかを判断できます。ただし、無料プランではセキュリティ機能やサポート体制が限定されている場合が多いため、本格的なビジネス利用の際は有料プランの内容もあわせて確認しましょう。
Q. SaaSを導入する際、最も注意すべき点は何ですか?
A. カスタマイズの制約とベンダーロックインのリスクです。自社の業務フローとSaaSの標準機能がどこまで合致するか、また将来的に他サービスへ乗り換える際にデータを円滑に移行できるかを、契約前に確認しておくことが重要です。
この記事の監修者
神戸大学在学中にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行、広告運用、物流手配に至るまで、EC運営の全工程をハンズオンで経験。売上を大きく伸ばしたのち、事業譲渡を実現。
大学卒業後はW2株式会社に新卒入社し、現在は、ECプラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進を担う。一貫してEC領域に携わり、スタートアップから大手企業まで、あらゆるフェーズのEC支援に精通している。






























