仕切り価格とは、BtoB取引においてメーカーや卸売業者が小売業者に商品を販売する際の「卸売価格」を指します。この価格設定は、取引先との関係性や発注数量、市場環境などによって変動するため、企業の利益率を左右する重要な要素となります。
本記事では、仕切り価格の基本的な意味や計算方法から、業界別の相場、さらに現場でおこる課題と最新の価格管理手法まで、実務で即活用できる知識を網羅的に解説します。データに基づいた価格戦略の構築により、貴社の競争力向上と利益最大化を実現しましょう。
この記事の監修者
神戸大学在学中にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行、広告運用、物流手配に至るまで、EC運営の全工程をハンズオンで経験。売上を大きく伸ばしたのち、事業譲渡を実現。
大学卒業後はW2株式会社に新卒入社し、現在は、ECプラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進を担う。一貫してEC領域に携わり、スタートアップから大手企業まで、あらゆるフェーズのEC支援に精通している。
仕切り価格(仕切り値)とは?
仕切り価格とは、メーカー(生産者)から問屋(卸売業者)へ商品を販売する際の「取引価格」のことです。流通業界のBtoB取引(企業間取引)で日常的に用いられる用語で、「仕切り値(しきりね)」とも呼ばれます。
一般的な商品の流通経路は「メーカー→卸売業者→小売業者→消費者」という流れをたどります。この流れの中で、最初の段階である「メーカー対卸売業者」の間で取り決められる価格が仕切り価格にあたります。
仕切り価格に関連する業界用語
仕切り価格の言葉の由来としては、商売の勘定を区切る(仕切る)ことからきていると言われています。また、消費税や諸経費を含まない純粋な商品価格として「ネット(Net)」や「ネット価格」と表現されることもあります。
さらに、流通業界特有の用語として、定価などの販売価格を「上代(じょうだい)」と呼ぶのに対し、仕入れ価格である仕切り価格を「下代(げだい)」と呼ぶケースも一般的です。海外との取引や外資系企業では、英語表現として「Wholesale Price(ホールセールプライス)」や「Invoice Price(インボイスプライス)」が用いられることがあります。
仕切り価格と「定価・卸値・原価」の違い
ビジネスの現場では、上記で述べた同義語以外に仕切り価格と似た言葉が数多く飛び交います。特に「定価」「卸値」「原価」などの意味や関係図は混同しやすいため、以下ではそれぞれの定義や違いについて解説します。
仕切り価格と「定価(上代)」の違い
「定価(上代)」と「仕切り価格」の決定的な違いは、誰が購入する価格かという点にあります。
定価(上代)は、最終的に一般消費者が商品を店舗などで購入する際の価格を指します。これに対し、仕切り価格は、卸売業者が商品を仕入れる際の取引価格です。
なお、定価はメーカーが定める価格ですが、独占禁止法の観点から販売価格を拘束することは原則として禁止されています。そのため、実務上は「メーカー希望小売価格」として提示されるケースが一般的です。
仕切り価格と「卸価格(下代)」の違い
厳密な定義において、メーカーが一次卸などの最初の業者へ売る価格が「仕切り価格」、その卸売業者が小売業者へ売る価格が「卸価格(卸値)」と区別されます。
しかし、メーカーが小売店と直接取引する場合や、業界の慣習によっては、これらが同義として扱われることも少なくありません。また、どちらも仕入れ価格という意味で「下代」と呼ばれることがあります。
言葉の意味を取り違えないためには、その価格が「メーカーからの出荷価格」なのか、それとも「卸売業者から小売への販売価格」なのか、文脈や視点を確認することが大切です。
仕切り価格と「原価(仕入れ値)」の違い
買い手(卸売業者や小売店)の視点に立つと、メーカーから提示された「仕切り価格」が、自社にとっての「原価(仕入れ値)」となります。つまり、金額としては同じものを指しています。
ただし、会計上の「仕入れ価格(原価)」には、商品本体の価格だけでなく、送料や手数料などの諸経費が含まれる場合があります(グロス価格)。一方で、「仕切り価格」は純粋な商品本体価格(ネット価格)を指すケースが多いため、見積もりの際は諸経費が含まれているかどうかを確認する必要があります。
仕切り価格と「オープン価格」の違い
家電製品などでよく見られる「オープン価格」は、メーカーが定価や希望小売価格を設定せず、小売店が自由に販売価格を決める方式です。
定価が存在しないため、定価を基準とした一律の「掛け率」で仕切り価格を算出することができません。相場が一律に決まりにくく、市場動向に応じた柔軟な価格交渉が求められるのが特徴です。
また、メーカーから卸売業者、そして小売店や最終消費者へと商品が流通していく全体像を理解することで、仕切り価格の位置づけがより明確になります。特に近年注目されているBtoBtoC(Business to Business to Consumer)モデルでは、メーカー・卸・小売の連携が重要です。各段階での価格設定や流通の仕組みについて詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
仕切り価格の計算方法と業界別の掛け率(相場)
実務において仕切り価格を算出する際は、定価に対する比率である「掛け率」を用いるのが一般的です。仕切り価格は、以下の計算式で簡単に算出できます。
仕切り価格 = 定価 × 掛け率
たとえば、定価1,000円の商品で、取引先との掛け率が60%(6掛け)の場合を考えてみます。 この場合、「1,000円 × 0.6 = 600円」となり、仕切り価格は600円です。
反対に、提示された仕切り価格から掛け率を逆算したい場合は、「仕切り価格 ÷ 定価」で求めることができます。600円 ÷ 1,000円 = 0.6(60%)となります。
仕切り価格の業界別の掛け率相場
掛け率の相場は業界によって大きく異なります。あくまで目安ですが、一般的な傾向を知っておくことは価格設定の参考になります。
アパレル業界
アパレル業界の掛け率は、50〜60%(5掛け〜6掛け)程度が一般的とされています。季節性が強く、売れ残りリスクを考慮する必要があるため、比較的低めに設定される傾向があります。
食品業界
食品業界では、70%(7掛け)前後が目安です。ただし、賞味期限の短い生鮮食品や、保存のきく加工食品など、商材によって変動します。加工食品の場合は60%前後になることもあります。
自動車業界
自動車業界の掛け率は約90%(9掛け)前後と言われており、他の業界に比べて非常に高い水準です。これは、車両本体での利益幅が薄く、販売後のメンテナンスやオプション販売、メーカーからのインセンティブで利益を確保する独自の収益構造になっているためです。
これらの数値はあくまで一般的な目安であり、実際の取引では取引量や企業間の力関係、市場環境によって変動することに留意してください。
適正な仕切り価格の決め方
仕切り価格は、ビジネスの利益を確保するための生命線です。単に業界の相場に合わせるだけでなく、自社の戦略に基づいた適正な価格を設定することが、利益最大化の鍵となります。
ここからは、以下の戦略的な価格決定のポイントを解説します。
- 市場調査と競合分析を行う
- コストと利益率のバランスを見る
- 取引先ごとの販売ボリュームと関係性を考慮する
1. 市場調査と競合分析を行う
収益を最大化するためには、市場の需要と供給のバランスを正確に把握することが欠かせません。ターゲットとなる顧客がどの程度の価格なら購入するかという「価格感度」や、市場のトレンドを調査します。
同時に、競合他社の価格設定や販売戦略を徹底的に分析することも重要です。競合よりも安易に価格を下げれば、価格競争に巻き込まれ、利益を圧迫する恐れがあります。品質、機能、ブランド価値などで差別化を図りながら、市場の中で競争力を発揮できる適正な価格帯を見極める視点を持つことが大切です。
また、市場調査や競合分析を効果的に進めるための具体的な手法については、以下の資料で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
2. コストと利益率のバランスを見る
メーカーや販売者の利益は、「仕切り価格」から「製造原価(または仕入れ値)」と「販売経費(販管費)」を差し引いた残りの金額です。
そのため、製造にかかるコストや、販売活動に必要な人件費、広告費などを正確に把握し、損益分岐点を割らない最低ラインを明確に設定しなければなりません。売上を優先するあまり安易な値引きを行うことは長期的な経営の悪化につながります。
また、ビジネスで売上を伸ばすには、価格(Price)だけでなく、商品(Product)、販促(Promotion)、流通(Place)といった複数の要素を総合的に最適化することが重要です。売上の方程式や具体的な施策については、以下の記事で詳しく解説しています。合わせてご一読ください。
関連記事:ECサイト売上の方程式とは?具体的な施策や見直しポイントを解説!
3. 取引先ごとの販売ボリュームと関係性を考慮する
すべての取引先に同じ価格を適用するのではなく、相手との関係性や販売力に応じて柔軟に価格を設定することも有効な戦略です。
たとえば、一度に大量の商品を発注してくれる大口顧客に対しては、「ボリュームディスカウント」として掛け率を下げ(安くし)、メリットを提供することで、他社との差別化や継続的な取引を促すことができます。
仕切り価格の運用における注意点
仕切り価格を運用する際は、税務や法務に関するリスク管理も欠かせません。トラブルを未然に防ぐために、以下の点に注意してください。
消費税の扱いを明確にする
仕切り価格にも消費税は課税されます。そのため、取引を開始する前に、提示価格が「税抜」なのか「税込」なのか、認識を明確に一致させておく必要があります。消費税の端数処理(切り上げ、切り捨て、四捨五入)や計算方法についても取引先と事前に取り決めを行い、使用しているシステムの設定も適切に対応させておくことが重要です。
インボイス制度に対応する
インボイス制度の導入以降は、税率や税額を正確に記載した請求書の発行が求められています。適格請求書発行事業者の登録番号や消費税額の明記など、制度に則った書類を作成できる体制を整えておくことが大切です。
独占禁止法に配慮する
メーカーが卸売業者や小売業者に対し、販売価格(定価)を守るように指示・拘束することは、独占禁止法で禁じられている「再販売価格維持行為」にあたります(書籍や音楽ソフトなど一部の著作物を除く)。メーカーがコントロールできるのは、あくまで自社が販売する「仕切り価格」までなので、小売価格については「希望小売価格」としての提示にとどめ、流通業者の自由な価格設定を阻害しないよう十分に注意してください。
仕切り価格の管理業務で起こりがちな課題
取引先が増え、ビジネス規模が拡大するにつれて、仕切り価格の管理業務は複雑さを増していきます。Excelなどのアナログな手法で管理を続けていると、以下のような課題に直面しやすくなります。
人的ミスの発生
取引先ごとに「A社は7掛け」「B社は特別価格」といった異なる条件が存在する場合、手作業での管理には限界があります。Excel表を目視で確認して計算する方法では、入力ミスや参照ミスが発生しやすくなります。
価格設定のミスは、誤請求などの重大なトラブルにつながるリスクがあるだけでなく、特定の担当者しか正しい価格がわからない「属人化」を招きます。担当者が不在だと見積もりが出せない、更新漏れが発生するといった事態は、組織としての信頼性を損なう原因にもなりかねません。
営業効率の低下
価格情報が一元管理・共有されていないと、社内外からの問い合わせ対応に多くの時間を奪われることになります。
取引先からは「この商品の仕切り値はいくらですか?」という電話が入り、社内の営業担当者からも「在庫はあるか」「見積もりを作ってほしい」といった連絡が頻発します。こうした確認作業に追われていると、本来注力すべき提案活動や新規顧客の開拓に時間が割けなくなり、営業効率の低下につながります。
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BtoB ECシステム活用による解決策
アナログな管理手法から脱却し、業務を効率化するためには、BtoB専用のECシステムの導入が有効です。ここでは、システム化によって複雑な仕切り価格の管理を自動化し、正確性と効率性を同時に高める具体的な方法を紹介します。
関連記事:BtoB EC(企業間取引)とは?市場規模・メリット・構築方法を完全解説
「取引先ランク」機能で価格設定を自動化する
BtoB ECシステムには、取引先を「ランク」分けし、そのランクに応じた掛け率や割引率を
自動適用する機能が搭載されています。
たとえば、「Sランク会員は常に10%OFF」「Aランク会員は5%OFF」といったルールをシ
ステムに設定しておけば、取引先がログインした際に自動で計算された価格が表示されま
す。
担当者が都度Excel表を確認して計算する必要がなくなるため、属人化によるブラックボッ
クス化や、入力ミスによる誤請求といったリスクを未然に防ぐことができます。誰が担当し
ても正確な取引が可能になる点は、組織運営において大きなメリットです。
「価格の出し分け」機能で見積もり業務を効率化する
システム導入のもう一つの大きなメリットは、ログインした取引先ごとに、事前に設定され
た「正しい仕切り価格」を自動で出し分けできる点です。
取引先は、Web上で自社の仕入れ価格を即座に確認でき、そのまま見積書の発行や発注を行
うことができます。24時間365日、いつでも価格確認と注文が可能になるため、取引先に
とっても利便性が向上します。
また、メーカー側の営業担当者は、電話やメールでの価格確認や在庫確認の対応から解放さ
れ、本来の提案業務や戦略立案に集中できるようになります。
仕切り価格の管理化による成功事例
実際にシステムを導入し、仕切り価格の管理を一元化したことで、業務効率化と売上拡大を実現した企業の事例を紹介します。
株式会社ホリ・コーポレーション様
タイヤ・ホイールのオンライン販売を行う株式会社ホリ・コーポレーション様は、BtoBとBtoCで異なる価格体系や商品管理を、一つのシステムで一元管理できる環境を構築しました。
取引先ごとに最適な商品を提案し、個別の仕切り価格を自動で「出し分け」ることで、顧客体験を大きく向上させました。結果として、業務効率化が進むと同時に販売力が強化され、リニューアルからわずか3ヶ月で売上5倍という飛躍的な成長を達成しています。
大東建託株式会社様(業務工数75%削減)
大東建託株式会社様は、全国のLP(パートナー企業)向けの資材調達サイトをモール型ECとして構築し、約3,500社に及ぶ取引先の商品登録や価格管理をシステム化しました。
従来のアナログな手法では膨大だった受発注や商品管理のコストに対し、システムによる一元管理を推進。取引先自身が商品を登録・管理できる仕組みや、会員ランクに応じた価格表示などを活用することで、業務工数を約75%削減することに成功しています。
まとめ:仕切り価格を戦略的に管理し、ビジネスを成長させよう
仕切り価格は、メーカーと卸売業者、双方が適正な利益を確保するための「ビジネスの起点」となる価格です。単なるコスト計算にとどまらず、市場環境や取引先との関係性に応じた戦略的な価格設定が、企業の競争力を左右します。
正しい知識を持ち、システムで煩雑な管理業務を自動化すれば、価格設定のミスを防ぎながら営業の生産性を大きく向上させることが可能です。
仕切り価格に関するよくある質問
Q. 仕切り価格の計算式を教えてください。
A .「定価 × 掛け率 = 仕切り価格」で算出できます。例えば定価1,000円で掛け率が70%の場合、仕切り価格は1,000×70%で700円となります。
Q. 仕切り価格と卸値の違いは何ですか?
A .一般的に、メーカーから最初の卸売業者へ売る価格を「仕切り価格」、卸売業者が小売店へ売る価格を「卸値」と呼びます。ただし、業界や文脈によっては同義で使われることもあります。































