ダイナミックプライシングの導入事例15選|EC・小売・レジャーの業界別
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ダイナミックプライシングの導入事例15選|EC・小売・レジャーの業界別

事例

セールの前に競合の価格を見て回り、売れ残った在庫は担当者の判断で値下げする。売れ筋は、値上げの機会を逃したまま品切れになる。価格を決める作業が、個人の経験に頼りきりになっていないでしょうか。

ダイナミックプライシングを調べても、定義や仕組みの解説、航空やホテルの例えが多く、ECや小売が何を、どこまで変えたのかは見えにくくなっています。社名が伏せられた「ある企業」の話も目立ちます。

このページでは、社名、時期、価格が変わる仕組み、公表された数字、数字の出どころが確認できる15事例を、EC4件、小売4件、レジャー・スポーツ7件に分けて並べました。東京ディズニーリゾートやUSJのチケットから、スーパーの値引き、ECの価格の上げ下げまで含みます。

数字には、誰がいつ測ったものかを添えました。効果の数字を公表していた事例は少なく、読み方に注意が要るものもあります。反発を招きにくい運用のルールと、ECで始める手順、会員価格やクーポンなど既存の価格施策との関係も、事例に結びつけて確認していきます。

この記事でわかること

需要や在庫などの状況に応じて、同じ商品やサービスの価格を変える価格設定です。ECでは、コスメパンプキン、セシール、KONDO、Amazonの出品者向け機能の4件を確認しました。ECの事例は、時期が確認できる3件が2017〜2020年に集中し、結果の数字があるのは1件だけです。

EC4件のほか、スーパーの値引きを最適化したロッキー、バロー、イオン九州、藤三の4件と、チケット価格を日付や席ごとに変えるUSJ、東京ディズニーリゾートなど7件を、時期と仕組みつきで整理しました。

効果の数字を公表していたのは、15件のうち3件です。そのうち2件は、1店舗・4週間の結果を全店・年間に広げた推計と、複数の施策を合わせた結果でした。読み方を、後ほどの表にまとめています。

価格を変える理由を1つに絞り、上限と下限を決め、価格を変えない比較対象を残して測ります。客への見せ方と、購入後の扱いも、先に決めておきます。会員価格やクーポンとの関係も整理が必要です。

目次
  1. 01|ダイナミックプライシングとは?事例の見方
  2. 02|ダイナミックプライシングの導入事例15件の一覧
  3. 03|ECのダイナミックプライシング事例(4件)
  4. 04|小売(スーパー)のダイナミックプライシング事例(4件)
  5. 05|レジャー・スポーツのダイナミックプライシング事例(7件)
  6. 06|事例の数字の読み方
  7. 07|ダイナミックプライシングで起きやすい反発と、事例にみる運用のルール
  8. 08|ECでダイナミックプライシングを始めるときの選び方
  9. 09|ダイナミックプライシングの事例に関するよくある質問
  10. 10|まとめ|ダイナミックプライシングは「理由」「範囲」「見せ方」から決める

ダイナミックプライシングとは?事例の見方

ダイナミックプライシングとは、需要や在庫などの状況に応じて、同じ商品やサービスの価格を変える価格設定です。「変動価格制」「価格変動制」とも呼ばれ、東京ディズニーリゾートやF・マリノスの公式ページも、これらの言葉を使っています。

あらかじめ決めた期間ごとに価格を変える季節料金や、担当者が判断して行うセールとは、価格を決める材料とタイミングが異なります。ただし、実際の事例では境目があいまいです。期間や日付で段階を決める方式も、報道ではダイナミックプライシングと呼ばれています。

このページでは、価格が変わる理由で、15事例を3つの型に分けました。

型 価格が変わる理由 変わる単位 取り上げる事例
日付・席ごとの需要予測 その日、その席の混み具合の予測 来場日、座席 USJ、東京ディズニーリゾート、サンリオピューロランド、富士急ハイランド、レゴランド・ジャパン、福岡ソフトバンクホークス、横浜F・マリノス
消費期限・在庫の残り 売れ残りの見込み 時間帯、商品 ロッキー、バロー、イオン九州、藤三、セシール
事前に決めたルールや外部の指標 在庫残数、販売件数、為替、競合価格など 商品 コスメパンプキン、KONDO、Amazon

型ごとに、客が価格を目にする場面は別々です。チケットは、購入した時点の価格が確定します。スーパーの値引きは、売り場の値札やラベルを見て、客が判断します。ECは、商品ページの価格が、見るたびに変わりうる点が特徴です。

EC事業者が参考にしやすいのは、事前に決めたルールや外部の指標の型です。ただし、事例が少なく、数字の公表も限られています。日付・席ごとの型と、消費期限・在庫の型は、ECに置き換えたときの考え方の材料になります。

ダイナミックプライシングの3つの型(日付・席ごとの需要予測、消費期限・在庫の残り、事前に決めたルールや外部の指標)と、それぞれの代表的な事例を示した図解

ダイナミックプライシングの導入事例15件の一覧

15事例を、業種、公式の呼び方、時期、価格が変わる仕組み、公表された数字でそろえました。数字の欄は、発表資料や記事の表現を写しています。

事例 業種 公式の呼び方 時期 価格が変わる仕組み 公表された数字(出どころ)
コスメパンプキン(日光企画) 化粧品EC ダイナミックプライシング 2017年のセミナーで紹介 在庫残数、販売件数、商品の価値の下落に合わせて、値上げと値下げを自動で行う 不良在庫率が41%から18%に(日光企画の講演を伝える記事)
セシール(ディノス・セシール) アパレル通販 ダイナミックプライシング 2020年5月に発表 訪問者数と購買確率の予測、在庫数から、最適な販売価格を求める なし(開発・検証段階の発表)
KONDO(三協石油) 家具EC 価格変動制(ダイナミックプライシング) 2020年10月13日に導入 為替、原料の希少性、輸送費、競合価格などを数値化して、実売価格を出す なし
Amazon(出品者向け) ECモール 自動価格設定(Automate Pricing) 開発者向け文書に掲載 出品者が選んだルールと上下限の範囲で、Amazonが価格を自動で調整する なし
ロッキー スーパー(熊本) ダイナミックプライシング 2025年8月に1店舗で実証 消費期限に応じた値引き率を、POSで自動設定する ロス率1.3pt減、値引き工数83.3%減。年間約9,900万円は推計(提供企業のリリース)
バロー スーパー(惣菜) ダイナミックプライシング(値引き最適化) 2026年1〜3月に20店舗で実証 販売進捗、在庫、来店客数の予測から、値引きの時期と価格をAIが推奨する 食品廃棄量12.6%減、売上総利益4.1%増(発注などと合算、実施企業のリリース)
イオン九州 スーパー(惣菜) AI値引き 2023年春から順次展開 販売実績、在庫、客数予測、天候から、AIが値引き率を予測する なし(242店舗に導入)
藤三 スーパー(惣菜) AI値引き 2026年3月に全26店舗へ導入 値引きアラートの表示を見て、担当者がラベルを発行する なし
USJ テーマパーク 日別の価格調整 2026年9月1日来場分から 発売後も、需要に応じて日別の価格を調整する 公式のお知らせに価格の記載はなし。報道は最低8,400円の価格帯を新設と報じる
東京ディズニーリゾート テーマパーク 変動価格制 2021年3月20日入園分から 時期や曜日によって、チケット価格が異なる 1デーパスポート大人の最高価格は、導入時の8,700円から2026年10月に12,400円へ(発表資料、報道)
サンリオピューロランド テーマパーク 来場日により異なる料金(報道は変動価格制) 2026年8月1日入館分から10段階に 来場日によって、パスポート料金が異なる デイパスポート大人は3,900〜5,900円から3,900〜6,900円へ(報道)
富士急ハイランド テーマパーク シーズナリティ料金 2022年に導入と報道 ワンデイパスの料金が、日によって変わる ワンデイパス大人は6,000〜7,900円(2026年10〜12月、公式)
レゴランド・ジャパン テーマパーク 来場日により異なる料金(2018年の報道はダイナミックプライシング) 2018年7月に導入と報道 ピーク期とオフピーク期、購入時期で、価格の段階が決まる パーク1日券は大人4,900円から(公式)
福岡ソフトバンクホークス プロ野球 ダイナミックプライシング 2016年に一部で導入、2020年に全試合へ 試合ごと、1席ごとの需要をAIで予測し、価格を更新する なし
横浜F・マリノス Jリーグ ダイナミックプライシング(価格変動制) 2019年シーズンから 試合日程、席種、天候などの分析から、試合ごとの需要を予測して価格を変える なし

「公式の呼び方」の列を見ると、15件すべてが「ダイナミックプライシング」と名乗っているわけではないことがわかります。イオン九州と藤三は「AI値引き」、富士急ハイランドは「シーズナリティ料金」で、USJも「日別の価格調整」と書いています。

このページでは、価格を決める判断を、需要や在庫の状況に合わせて動かす取り組みとして並べました。

数字の欄は、種類が3つに分かれます。ひとつは効果の数字で、コスメパンプキン、ロッキー、バローの3件です。ふたつめは価格帯の数字で、USJ、東京ディズニーリゾート、ピューロランド、富士急ハイランド、レゴランドの5件です。残る7件は、数字を公表していません。

効果の数字は、いずれも事業者か提供企業、実施企業の公表です。第三者が測定した数字は、確認できませんでした。

ECのダイナミックプライシング事例(4件)

ECの4件のうち、時期が確認できる3件は2017〜2020年に集中し、結果の数字があるのは1件だけです。進め方は、自社でルールを作った例、メーカーと予測モデルを開発した例、独自の指標で価格を出す例、モールが出品者に提供するツールと、それぞれ違います。

コスメパンプキン(日光企画)|在庫の残りと販売件数で、価格を上げ下げ

  • 時期:2017年のセミナーで紹介(記事は2018年2月8日)
  • 価格が変わる仕組み:在庫が残り2個以下で2%値上げ。販売件数が急増したら自動で値上げ。売れ残りは、商品の価値の下落に合わせて段階的に値下げ
  • 公表された数字:不良在庫率が41%から18%に下がった
  • 出どころ:日光企画の担当者の講演を伝える、ネットショップ担当者フォーラムのセミナーレポート(ページに「Sponsored」の表示あり)

日光企画は、ブランド化粧品のECサイト「コスメパンプキン」を運営しています。自社サイトとECモールで、当時は計6店舗を展開していました。はじめは需給に合わせた価格調整を手作業で行っていましたが、人力では効率が悪いため、自動化する自社システム「throough」を開発したそうです。

値上げのルールは2つです。ひとつは、在庫が残り2個以下になったら価格を2%上げるもので、希少性が上がるはず、という考えに基づきます。もうひとつは、テレビなどで紹介されて注文が急増したとき、コンバージョン件数を見ながら自動で値上げするものです。

担当者は、値上げ幅と在庫の残数を試行錯誤し、売上を落とさずに利益が増える水準を見つけたと説明しています。条件は、値上げ幅が適正な範囲にあることと、希少性をサイトでしっかり伝えることの2つでした。

値下げは、化粧品に使用期限があり、発売から日数が経つほど価値が下がる、という考え方で設計されています。価値の下落に合わせて価格を段階的に下げた結果、不良在庫率は41%から18%になったと説明されています。それまでは、年2回の大型セールで在庫を処分していました。

読むときの注意が3つあります。2017年の講演であること、期間や対象商品の範囲が示されていないこと、数字が自社の報告であることです。2%値上げで利益が500円から600円(20%増)になる、という説明も、売価5,000円の商品を使った計算例で、実績ではありません(セミナーレポート)。

セシール(ディノス・セシール)|在庫と購買確率の予測から、最適な価格を求める

  • 時期:2020年5月に、ブレインパッドとの開発着手を発表
  • 価格が変わる仕組み:商品ページの訪問者数と、訪問者の購買確率の2つを予測し、在庫数と合わせて、最適な販売価格を求める
  • 公表された数字:なし。一定の効果が見込めることを確認したと記載
  • 出どころ:ネットショップ担当者フォーラム(2020年5月25日)

「セシール」では、値引きのタイミングと率を、担当者の経験とノウハウで決めていました。需要を捉えきれず、在庫が残る場合があったため、ダイナミックプライシングに着目したとされています。背景には、アパレル業界で問題になっている、余剰在庫と大量廃棄の「衣服ロス」があります。

既存のツールは、ホテルの宿泊費や航空券に特化したものが多く、アパレルは商品の独自性が強く、トレンドも加味するため、SKU単位の需要予測が必要でした。そのため、独自のモデルを、ブレインパッドと開発する判断をしています。

最初に取り組んだのは、データの準備です。整備されていなかった購買履歴などは、DMPの「Rtoaster」とGoogle Analyticsで調べ、補完や推計をしてモデルに生かしました。

予測モデルは、商品ページの訪問者数と、訪問者の購買確率の2つです。この2つと在庫数から、最適な販売価格を求める数理最適化のアルゴリズムを開発し、一定の効果が見込めることを確認した、というのが発表時点の到達点です。

このあとは実地での検証とシステム化が予定されていました。今回確認した範囲では、その後の成果を数字で公表した資料は見つかりませんでした。価格を変えるモデルより前に、データの整備が必要だった点が、この事例の参考になります(ネットショップ担当者フォーラム)。

KONDO(三協石油)|為替や原料の希少性など、独自の指標で実売価格を出す

  • 時期:2020年10月13日に導入
  • 価格が変わる仕組み:家具に関する株価、為替、商品原料の希少性、輸送費の変動、競合他社の価格、ヴィンテージ品の現存数などを数値化し、その変動に基づいて実売価格を提示
  • 公表された数字:なし
  • 出どころ:ネットショップ担当者フォーラム(2020年10月14日)

三協石油の自社ECサイト「KONDO」は、デンマークなど北欧家具のヴィンテージ品を中心に販売しています。商品は、デンマークのオークションで調達して直輸入しているため、仕入れ側の条件が動きます。

ヴィンテージ品は、同じモデルでも、製造したメーカーや保存状態で価格が変わります。そこに、為替や輸送費といったリアルタイムの要因を加えて、適正な価格を算出する仕組みです。

多くの事例が、客の需要を材料にするのに対し、KONDOは仕入れ側の要因を材料にしています。需給に合わせる、という説明より、仕入れのコストと希少性に合わせて価格を出す、という説明が近いでしょう。

記事は、適正価格の算出によって変動しない場合もある、とも書いています。常に価格が動くわけではありません。導入時点の発表で、結果の数字は載っていません(ネットショップ担当者フォーラム)。

Amazon|出品者がルールと上下限を決めて、価格を自動調整

  • 時期:開発者向けドキュメントに掲載(掲載日は不明)
  • 価格が変わる仕組み:出品者がSKUにルールを割り当てると、Amazonが選ばれた価格戦略を24時間実行する。ルールには、特集オファー、最安価格、外部価格、売上に基づくものと、カスタムがある
  • 公表された数字:なし
  • 出どころ:Amazon Selling Partner APIの開発者向けドキュメント

Amazonの事例は、Amazon自身が自社の販売価格をどう決めているか、という話ではありません。出品者が自分のSKUに価格のルールを割り当て、Amazonに実行を任せる機能(Automate Pricing)の説明です。

ルールの種類は、特集オファー(Featured Offer)に基づくもの、最安価格に基づくもの、外部価格に基づくもの、売上に基づくものと、Seller Centralで作るカスタムルールです。1つのSKUに、同時に割り当てられるルールは1つで、B2Bのルールは対象外とされています。

自社ECで参考になるのは、SKUごとに最低価格と最高価格を設定する点です。ルールを任せても、動く範囲に上下限という歯止めを置く設計になっています。コスメパンプキンが値上げ幅を2%に抑えていた点と、考え方が近いといえます。

なお、このドキュメントはAPIの使い方の説明で、日本のAmazon.co.jpでの提供範囲や、価格調整の効果は書かれていません。日本のセラー向けの機能として使えるかどうかは、この調査では確認していません(Amazon SP-APIドキュメント)。

小売(スーパー)のダイナミックプライシング事例(4件)

小売の4件は、いずれも食品スーパーの惣菜や精肉で、消費期限に合わせた値引きを最適化する取り組みです。ロッキーとバローの発表資料は「ダイナミックプライシング」と書き、イオン九州と藤三は「AI値引き」と呼んでいます。

定価そのものを動かすのではなく、値引きの時期と率を動かす点が、チケットのダイナミックプライシングとは異なります。それでも、価格を決める判断を、需要や在庫の状況に合わせて動かす点は共通するため、ここに並べました。

ロッキー|消費期限に応じた値引き率を、POSで自動設定

  • 時期:2025年8月25日〜9月21日の4週間、1店舗で実証。発表は2026年2月4日
  • 価格が変わる仕組み:需要予測サービス「sinops-R」が算出した、カテゴリ別・消費期限別の値引き率を売り場に掲示し、POSが消費期限に応じて自動で値引きする。値引きシールの貼付は不要
  • 公表された数字:店舗のロス率が1.3pt減少、店舗の廃棄率が0.3pt減少、値引き工数が83.3%削減。ロス額と人件費の改善額で、年間約9,900万円の削減と推計(全28店舗)
  • 出どころ:シノプス(提供企業)のプレスリリース

ロッキーは、熊本県で28店舗を運営するスーパーです。農林水産省の食品ロス削減の支援事業に採択された実証の一部として、精肉の全商品(冷凍品を除く)を対象に、値引きの自動化を試しました。

リリースは、小売店舗の値引き業務は作業負荷が高く、処理の遅れが食品ロスの一因になる、と説明しています。実証では、値引き率を売り場に掲示し、POSで消費期限に応じた値引き率が自動で設定される仕組みに変えました。

客に値引きを伝える工夫も、実証に含まれました。売り場に値引き率を掲示し、ポップで自動の値引きを知らせ、タブレットでバーコードを読み取ると、いくら割引されるかを事前に確認できます。

数字で注意したいのは、「年間約9,900万円」です。これは、1店舗・4週間の結果から、全28店舗・年間に当てはめて推計した金額で、全店で実施した結果ではありません。リリースは、今後、精肉部門への導入や他の店舗、他のカテゴリへの展開を検討するとしています。

同じリリースには、需要予測を製造拠点と共有する別の実証(全28店舗、1年間のシミュレーション)の推計として、約4,400万円の削減も載っています。値引きとは別の取り組みの数字です(シノプスのリリース)。

バロー(中部フーズ)|値引きのタイミングと価格を、AIが推奨

  • 時期:2026年1月23日〜3月12日に、惣菜部門の20店舗で実証。発表は2026年8月19日
  • 価格が変わる仕組み:当日の販売の進み具合、在庫、来店客数の予測から、各商品の値引きのタイミングと価格をAIが推奨する
  • 公表された数字:同地域・同規模の比較店舗との対照分析で、食品廃棄量12.6%減、発注・計画作業時間36.5%減、売上高2.9%増、売上総利益4.1%増、欠品回数3.2%減
  • 出どころ:日本気象協会とソフトバンクのプレスリリース(実証の実施企業)

バローの実証は、農林水産省の事業に採択され、ソフトバンクのAI需要予測サービス「サキミル」と、日本気象協会のモデルを使って行われました。惣菜部門で、適正な商品量の判断が各店舗の経験に頼り、食品ロスや店舗間のばらつきが出る課題に取り組んでいます。

特徴は、同じ地域で同じ規模の比較店舗と対照して測っている点です。導入以外の要因を減らして読める測り方です。実証の期間が終わったあとも、各項目の効果は維持されていると説明されています。

ただし、数字は3つの施策を合わせた結果です。AIによる自動発注、ダイナミックプライシング(値引き最適化)、推奨の理由を説明する店舗運営AIエージェントが、同時に使われました。リリースがダイナミックプライシングの役割として挙げているのは、過度な値引きの抑制と、売れ残りによる廃棄の削減です。

リリースの表現は、値引きの時期と価格をAIが「推奨する」です。その提案に現場が納得できるよう、推奨の理由を説明するAIエージェントも作られました。中部フーズは、惣菜部門の全店に広げる予定とする一方、展開に向けて残る課題があるとコメントしています(日本気象協会のリリース)。

イオン九州|値引きラベルを、AIが予測した値引き率で発行

  • 時期:2022年8月から2か月の概念検証。2023年春から順次展開。2024年1月31日の発表で242店舗
  • 価格が変わる仕組み:バーコードを読み取ると、販売実績、販売価格、在庫数、客数予測、天候などから、AIが適切な値引き率を予測し、在庫の数だけ値引きラベルが発行される
  • 公表された数字:なし
  • 出どころ:シノプスとサトーのプレスリリース

イオン九州は、総合スーパーとスーパーマーケットの計242店舗に、AIを使った値引きのソリューションを導入しました。惣菜コーナーを対象に、食品ロスの削減と、売上や利益の確保の両立に取り組んでいます。

従来の値引きの判断は、経験豊富な従業員が指示し、実施していました。それをAIに置き換え、店舗の作業性を高めるとともに、過去の実績と客数の予測に基づく値引き率で、値引きロスと廃棄ロスの削減をめざす、という位置づけです。

構成は、シノプスの「sinops-CLOUD AI値引」と、サトーのラベルプリンタです。プリンタに接続したスキャナーで商品のバーコードを読み取ると、AIが値引き率を予測し、在庫の数だけ値引きラベルが出ます。

リリースに、効果の数字はありません。参考になるのは、2か月の概念検証から展開までの進め方と、242店舗という規模です。リリースは「ダイナミックプライシング」の語を使っていないため、一覧表の「公式の呼び方」は「AI値引き」としました(PR TIMESのリリース)。

藤三|値引き判断を、熟練者の経験から標準化

  • 時期:2026年3月13日に発表。全26店舗に導入し、全店導入の前に3店舗で実証
  • 価格が変わる仕組み:販売実績、販売価格、在庫、客数予測、天候などから、AIが最適なタイミングと値引き率を予測し、「値引アラート」としてラベルプリンタの画面に表示。担当者がバーコードをスキャンして、ラベルを発行する
  • 公表された数字:なし。実証で、惣菜の売れ残りによる廃棄率の改善を確認したとだけ記載
  • 出どころ:サトーとシノプスの共同リリース

藤三が課題にしていたのは、惣菜の値引き判断が熟練者の経験に頼り、属人化していたことです。店長や副店長が値引きの作業に拘束されていたため、業務を標準化し、食品ロスの削減と収益の改善につなげることをねらいました。

運用は、AIが示す値引アラートを見て、売り場の担当者がバーコードを読み取り、ラベルを発行する流れです。価格を決めるのはAIの予測ですが、貼る作業と最終的な実行は、人が担っています。

リリースに載った専務のコメントでは、学生アルバイトでも値引きの業務を担当できるようになったこと、夕方のピーク時の欠品の防止に効果があったことが挙げられています。成果は、金額より、誰が値引きを担当できるかに表れています。

廃棄率の改善も、数字は示されていません。イオン九州と同じく、リリースは「AI値引き」と呼んでおり、「ダイナミックプライシング」の語は使っていません(サトーのリリース)。

レジャー・スポーツのダイナミックプライシング事例(7件)

レジャー・スポーツの7件は、効果の数字を公表していません。見えるのは、公式ページに載った価格帯と、価格が変わるときの約束事です。購入後に価格が変わっても差額は出ない、予告なく変更される、といった扱いが、公式ページや説明資料に書かれている例があります。

USJ|発売後も、日別の価格を需要に応じて調整

  • 時期:2026年9月1日来場分(7月1日発売開始)から。発表は2026年6月30日
  • 価格が変わる仕組み:スタジオ・パス(パーク入場券)の価格を、発売後も需要に応じて日別に調整する仕組みへ更新。年間パスを除く入場券が対象
  • 公表された数字:公式のお知らせに価格の記載はない。報道は、2025年8月以降の最低価格より500円安い、8,400円の価格帯を新設したと伝える
  • 出どころ:USJ公式のお知らせ、デイリースポーツ(Lmaga.jp配信、2026年6月30日)

公式のお知らせが挙げる目的は、ゲストの体験価値の向上と、パーク運営の効率化です。子ども価格とシニア価格も同様に変わります。ユニバーサル・エクスプレス・パスは、2018年に同様のシステムで価格を設定して以降、変更の予定はないそうです。

購入後の扱いも、公式のQ&Aに書かれています。すでに購入したチケットは、来場予定日の価格が購入時から変わっても、差額の支払いは必要ありません。購入後のキャンセルはできず、日付変更は、未使用で条件を満たした場合に限られます。

報道と公式の温度差にも触れておきます。報道の見出しは、早く買うほど安くなる、という趣旨です。公式のQ&Aは、いつ買うのがおトクかという質問に、価格が引き上げられる場合もあるため早めの購入をすすめる、と答えています。

安くなる方向だけでなく、上がる場合もあると明示している点が、公式の書き方です(USJ公式のお知らせ、デイリースポーツ)。

東京ディズニーリゾート|2021年の導入から、価格帯を広げてきた

  • 時期:2021年3月20日入園分から導入(発表は2020年12月22日)。2026年10月から、最高価格を引き上げ
  • 価格が変わる仕組み:パークチケットの価格が、時期や曜日によって異なる変動価格制
  • 公表された数字:1デーパスポート(大人)は、導入時が8,200〜8,700円。2026年10月時点の公式サイトでは8,900円から。報道によると、最高価格は10月から12,400円
  • 出どころ:オリエンタルランドの発表資料、東京ディズニーリゾート公式サイト、トラベルWatch(2026年7月30日)

オリエンタルランドは、2020年12月22日の発表で、時期や曜日によって価格を変えることで、入園者数の混雑と閑散の差を平準化するねらいを示しました。導入時の1デーパスポートは、大人が8,200円から8,700円の幅で、土日祝日や春休み、ゴールデンウィークの期間が8,700円の予定でした。

現在の公式サイトは、日別の価格と取り扱うチケットを確認してから日付指定券を買うよう案内し、価格は予告なく変更される場合があると書いています。表示されている価格は、各対象期間の最低価格です。

2026年7月30日には、決算資料で、10月10日から価格帯の構成比を変え、さらに高価格帯のチケットを加えることが明らかになりました。報道によると、1デーパスポートの最高価格は10,900円から12,400円に上がります。

読むときは、数字を分けて見ます。8,700円から12,400円への変化は、価格改定と価格帯の設計変更を含んだ数字です。ダイナミックプライシングそのものの効果とは言えません。

また、報道は、高価格帯チケットの追加について、現時点の公式発表は決算資料だけだと書いています(オリエンタルランドの発表資料、公式サイト、トラベルWatch)。

サンリオピューロランド|料金の段階を、7段階から10段階に

  • 時期:2026年8月1日入館分から、料金を10段階に改定
  • 価格が変わる仕組み:来場日によって、パスポート料金が異なる。報道は、新旧ともに変動価格制を採用と伝える
  • 公表された数字:デイパスポート(大人)は、3,900〜5,900円(7段階)から3,900〜6,900円(10段階)へ。2026年10月26日〜31日の公式カレンダーでは、4,300〜5,600円
  • 出どころ:トラベルWatch(2026年7月30日)、サンリオピューロランド公式サイト

サンリオピューロランドは、価格の段階を増やす理由を、来場者数の繁閑差をより平準化するためと案内しています。6,300円、6,600円、6,900円の設定日が加わり、8月はお盆期間や土日を中心に14日間に新料金が設定されていました(7月28日時点)。

公式サイトのパスポート購入ページでは、料金が来場日で異なること、カレンダーで確認することが案内されています。2026年10月26日から31日の6日間を見ると、デイパスポート(大人)は4,300円から5,600円の間で、同じ週でも日によって違います。

来場には、パスポートに加えて来場予約が必要です。価格を決める仕組み(需要予測を使うかなど)は、確認した範囲では公表されていません(トラベルWatch、公式サイト)。

富士急ハイランド|「シーズナリティ料金」で日により変動

  • 時期:2022年に導入と報道(2022年3月22日)。公式ページに導入時期の記載はない
  • 価格が変わる仕組み:ワンデイパスの料金が、日によって変わる。月ごとの料金表で確認する
  • 公表された数字:ワンデイパス(大人)は、2026年10〜12月分で6,000〜7,900円。アフタヌーンパス(大人)は4,100〜6,000円
  • 出どころ:富士急ハイランド公式サイト、時事通信配信の記事(2022年3月22日)

富士急ハイランドの公式ページは、「ダイナミックプライシング」の語を使わず、「シーズナリティ料金」と書いています。ワンデイパスの料金は日により変動し、月ごとの料金表で利用日の価格を確認する形です。

2022年3月22日の報道によると、4月に当日窓口販売のフリーパスで導入し、6月にはオンラインにも広げる予定でした。公式ページに導入時期は書かれていないため、時期は報道に基づきます。

大人のワンデイパスは、2026年10〜12月で6,000円から7,900円と、1,900円の幅があります。年間パスポートは、大人26,300円と、ひとつの金額で案内されています。

購入後の扱いは、一部のパスについて、払い戻しと、日付、人数、年齢区分の変更ができないと書かれています。料金は予告なく変更される場合がある、という注意書きもあります(富士急ハイランド公式サイト、時事通信配信の記事)。

レゴランド・ジャパン|期間と購入時期で、価格の段階を決める

  • 時期:2018年7月19日の価格改定から(2018年の報道)
  • 価格が変わる仕組み:ピーク期(約120日)とオフピーク期(約160日)に分け、1デイパスポートは購入時期でも3段階の割引がある(2018年の報道)。現在の公式サイトは、来場日によって価格が異なると案内
  • 公表された数字:パーク1日券は、大人4,900円から、こども3,700円から(公式サイトの表示)。導入時の報道では、大人のピーク期が6,200〜6,900円、オフピーク期が4,500〜5,000円
  • 出どころ:トラベルボイス(2018年7月19日)、レゴランド・ジャパン公式サイトと公式資料

2018年の報道は、この価格改定を、需給状況に合わせた価格設定として、ダイナミックプライシングと説明しています。家族連れが主な客層のため、ピーク期でも子ども料金を最大1,300円割り引く設計でした。

一方、2019年9月の公式資料(消費税率引き上げに伴う価格改定のお知らせ)は、ピークとオフピークの価格表と、購入時期による割引を載せていますが、ダイナミックプライシングの語は使っていません。現在の公式サイトも、来場日により価格が異なる、という案内です。

つまり、当日の需要予測で毎日動く方式ではなく、期間と購入時期で価格の段階を決める方式と読めます。ECでいえば、セールの期間を先に決める方法に近い考え方です。

この事例は、ダイナミックプライシングと呼ばれる範囲の広さを示す例として入れました(トラベルボイス、レゴランド・ジャパン公式サイト、公式資料)。

福岡ソフトバンクホークス|席ごと、時間ごとに価格を更新

  • 時期:2016年から一部で導入。2019年1月にオープン戦10試合で拡大し、2020年シーズンは福岡PayPayドームの主催全試合に
  • 価格が変わる仕組み:試合ごと、1席ごとの需要をAIで予測して価格を変える。先行先着順、一般販売(タカチケット)、当日券は、価格の変更が1時間に3〜4回。プレイガイドは1日1回
  • 公表された数字:なし
  • 出どころ:ホークス公式のチケット価格のページ、球団の発表(2019年11月21日)、ヤフーの発表(2019年1月24日、現LINEヤフーのサイトに掲載)

2019年1月の発表では、過去の販売実績、リーグ内の順位、対戦成績、試合日時、席種、席位置、チケットの売れ行きなどのデータから、AIが試合ごとの需要を予測するとされていました。対象は、ヤフオクドームのオープン戦10試合で、6席種、1試合あたり約1,500席でした。

同年11月の発表では、2020年シーズンのオープン戦と公式戦の全試合が対象になり、各座席の価格は15分単位で変動するとされました。先行抽選と当日券は、従来の5段階の料金で売る方針でした。

現在の公式ページでは、更新の頻度が違います。先行先着順、一般販売(タカチケット)、当日券の価格の変更は1時間に3〜4回で、プレイガイドは1日1回です。先行抽選は、申込数に応じて価格が変わり、上限価格を決めて申し込む方式です。

同じ球団でも、時期によって更新頻度の説明が変わっています。運用の実態は、その時点の公式ページの記載に従って読みます。クラブホークス会員には5%の割引があり、価格の更新方式ごとに、買い方の選択肢が分かれています(ホークス公式、球団の発表、ヤフーの発表)。

横浜F・マリノス|指定席と自由席の価格が逆転することも明記

  • 時期:2018年11月29日に、翌シーズン(2019年)からの導入を発表
  • 価格が変わる仕組み:試合日程、席種、市況、天候、個人の嗜好などのビッグデータ分析から、試合ごとの需要を予測し、チケット価格を自動で変える。ダイナミックプラス社の価格算出技術を使用
  • 公表された数字:なし。会員優先販売は、変動後の価格から、一般500円、小中学生300円を引く
  • 出どころ:F・マリノス公式のチケットページ、Jリーグの説明資料、サッカーキング(2018年11月29日)

F・マリノスのホームゲームでは、ファミリーシートと一部の企画チケットを除く全席種が対象です。シーズンチケットは対象外です。現在は、席種ごとの価格変動に加えて、通路側、最前列、ブロック中央など、座席の位置による差額(個席差額設定)も採用しています。

公式ページは、会員優先販売や一般販売の開始時から価格が変わり、標準価格より安くなる場合があること、販売状況によっては指定席と自由席の価格設定が逆転する場合があることを、明記しています。

Jリーグが公開している説明資料(対象クラブの記載はありません)には、運用の約束事が具体的に書かれています。予約した時点の価格が適用され、購入後に価格が変わっても、差額の請求や返金はありません。購入後の変更やキャンセルはできず、価格の変更は不定期で、1日最大1回です。

導入の目的として資料が挙げているのは、完売試合での高額な転売を抑えることです。需要に応じた価格で売れば、転売サイトでの差額利益が生まれにくくなる、という考え方です(F・マリノス公式、Jリーグの説明資料、サッカーキング)。

事例の数字の読み方

15事例のうち、効果の数字があるのは3件です。そのほかに目立つ数字を、出どころと読むときの注意でそろえました。

数字 事例 出どころ 読むときの注意
年間約9,900万円の削減 ロッキー シノプス(提供企業)のリリース 1店舗・4週間の結果を、全28店舗・年間に当てはめた推計。全店で実施した結果ではない
値引き工数83.3%削減 ロッキー 同上 値引きの作業時間の数字。売上や利益の数字ではない
不良在庫率41%から18% コスメパンプキン 日光企画の講演を伝える記事(2017年) 自社の報告で、期間と対象商品が不明。ページに「Sponsored」の表示がある
利益500円から600円(20%増) コスメパンプキン 同上 売価5,000円の商品を使った計算例で、実績ではない
食品廃棄量12.6%減、売上総利益4.1%増 バロー 日本気象協会とソフトバンクのリリース 自動発注、値引き最適化、AIエージェントを合わせた結果。比較店舗との対照分析
最高価格が8,700円から12,400円 東京ディズニーリゾート オリエンタルランドの発表、報道 導入時から現在までの上限の変化。価格改定と価格帯の設計変更を含む
更新が15分単位、1時間に3〜4回 ホークス 球団の発表(2019年)、現在の公式ページ 時期によって説明が違う。先行抽選とプレイガイドは別の方式

表の数字から、3つのことが言えます。

ひとつめは、効果の数字が、事業者、提供企業、実施企業の公表にとどまることです。測り方と範囲が公開されている例は、バローの対照分析のように一部です。

ふたつめは、金額の推計と実績が混ざることです。9,900万円は、1店舗・4週間の結果が出発点です。実証から全店の展開に進んだあとの数字は、確認できませんでした。

みっつめは、価格帯の数字を効果と取り違えやすいことです。東京ディズニーリゾートやピューロランドの価格は、事業者が設定した範囲を示すもので、売上や来場者数がどう変わったかは公表されていません。

ダイナミックプライシング15事例の数字を、効果の数字3件、価格帯の数字5件、数字の公表なし7件に分け、効果の数字は第三者の測定ではないことを示した図解

ダイナミックプライシングで起きやすい反発と、事例にみる運用のルール

価格が動く仕組みは、客に不公平だと受け取られることがあります。海外の調査と事例から、何が反発につながったかを確認し、15事例の運用のルールと並べます。

消費者の見方と、海外で起きた反発

YouGovの調査(17市場の成人、各511〜2,054人)では、ライブコンサートのダイナミックプライシングを「不公平」とした人が49%でした。「公平」とした人は、テーマパークで38%、スポーツイベントで35%にとどまります。調査の対象市場に日本が含まれるかは、記事から確認できませんでした。

米国のウェンディーズは、2024年2月の決算説明会で、2025年早期からダイナミックプライシングなどを試験導入すると述べました。混雑時に価格を上げる「サージプライシング」と報じられて反発を招き、同社は、サージプライシングは導入しないと説明し、閑散時の割引に使える可能性も示しました。

英国では、競争・市場庁(CMA)が2025年9月25日に、TicketmasterのOasisのチケット販売の調査結果を発表しました。多くのファンは、需要に応じてリアルタイムで価格が変わる仕組みだったと考えましたが、CMAはそうした証拠を見つけられず、問題の中心は段階価格の説明不足だとしています。

Ticketmasterは、段階価格を使うときは販売の24時間前までに通知すること、待機列に入った時点で価格帯を示すことなどを約束しました。この約束は、法律違反を認めたものではありません(YouGov、NPR、CMA)。

2つの事例に共通するのは、仕組みの中身より、説明の仕方と、客が知らされるタイミングが問われた点です。

15事例に見られる運用のルール

公式ページや発表資料に書かれていた約束事を、6つにまとめました。

ルール 実例 出どころ
購入後に価格が変わっても、購入時の価格のまま Jリーグの説明資料(差額の請求も返金もない)、USJ(差額の支払いは不要) Jリーグの説明資料、USJ公式のQ&A
予告なく変わる場合があることを書く 東京ディズニーリゾート、富士急ハイランド 各公式ページ
価格を決める材料と、更新の頻度を示す ホークス(1時間に3〜4回)、F・マリノス(試合日程、席種、天候などの材料) 各公式ページ
価格の上限と下限を決める Amazon(SKUごとに最低価格と最高価格) SP-APIドキュメント
売り場で、値引き率を客に見せる ロッキー(掲示、ポップ、確認用タブレット) シノプスのリリース
固定価格の商品を残す USJの年間パス、F・マリノスのシーズンチケット(いずれも対象外) 各公式ページ

これらは、客が納得できる範囲を決めるためのルールといえます。上限と下限があり、価格の決まり方がわかり、固定価格の選択肢が残っていると、客は価格の動きに備えやすくなる、と読めます。

ECに置き換えると、比較の基準になる価格の表示にも注意が必要です。通常価格と並べて価格を示す二重価格表示について、消費者庁は、過去の販売価格を比較対象にする場合、最近相当期間にわたって販売されていた価格かどうかが問われると説明しています。

価格を頻繁に変える場合、何を通常価格として示せるかが論点になります。「最近相当期間」の長さは、消費者庁の価格表示ガイドラインで確認し、自社の表示は法務で確認してください(消費者庁の二重価格表示のページ)。

ダイナミックプライシングで価格を動かすときに先に決める6つのルール(購入後の差額、予告なく変わる旨の明記、材料と更新頻度、上限と下限、値引き率の掲示、固定価格の用意)を示した図解

ECでダイナミックプライシングを始めるときの選び方

事例の約束事と数字の読み方から、ECで始める前に確認したい5項目をまとめました。ECの事例は少なく、公表された成果も限られるため、自社で測れる形にしてから始めることが前提になります。

確認項目 見る理由 根拠にした事例
価格を変える理由を、1つに絞れるか 在庫の残り、消費期限、販売件数の急増、仕入れコストなど、理由ごとにルールを分け、1つずつ始めると、どのルールの結果かを見分けられる コスメパンプキン(在庫残数、販売件数、価値の下落を別々のルールに)、ロッキー、KONDO
変える幅と、上限・下限を決められるか 動く範囲に歯止めがないと、利益を損ねたり、客の不信を招いたりするおそれがある Amazon(最低価格と最高価格)、コスメパンプキン(値上げ幅を2%に)
価格を変えない比較対象を残して、測れるか 価格を変えた結果か、時期や天候の影響かを、見分けるため バロー(比較店舗との対照分析)、コスメパンプキン(価格のA/Bテスト)
客への見せ方と、購入後の扱いを決めたか 価格が変わる理由と、購入後に価格が変わったときの扱いが不明だと、反発につながる F・マリノス(Jリーグの説明資料)、ロッキー(値引き率の掲示)、CMAのOasis調査
会員価格、クーポン、ポイント、セールとの関係を整理できるか 価格が動くと、割引の計算の起点となる価格も動き、割引が重なる F・マリノス(会員優先販売は変動後の価格から一律に割引し、決済時に再度の割引はしない)

5項目のうち、理由、幅、比較対象は、効果を測るための前提です。見せ方と既存の価格施策との関係は、客との関係に関わります。どれも、価格を動かすツールを決める前に整理できる内容です。

始め方は、小さく試す形が目立ちます。ロッキーは1店舗の4週間、バローは20店舗の約7週間の実証で、展開は検討や予定の段階です。イオン九州は2か月の概念検証を経て242店舗に、藤三は3店舗の実証を経て全26店舗に導入しました。

コスメパンプキンも、はじめは手作業で価格を調整したあとに、システム化しています。

値上げの方向は、反発を受けやすい点にも注意が必要です。ウェンディーズの例では、混雑時の値上げと受け取られたことが反発につながりました。コスメパンプキンの値上げ幅は、2%でした。

W2 Commerceで揃える場合

選択肢のひとつは、W2 Commerceの構成です。W2 Commerceは、BtoCから定期通販、BtoB、海外ECまで対応するECプラットフォームです。

事例のように、需要や在庫に合わせて価格を自動で動かす仕組みは、外部の価格最適化のサービスと、APIでつなぐ設計になります。W2 Commerceは、基幹システム、在庫管理システム、会計管理システムなどの外部システムと、API連携が可能です。どのサービスとどうつなぐかは、要件に応じて個別に整理します。

一方、価格を動かす前に整えておきたい、会員価格やクーポンといった既存の価格施策は、公開されている情報で確認できる範囲が次のとおりです。

価格まわりの論点 W2 Commerceの公開情報で確認できること 選び方の確認項目との対応
会員ごとに特典や価格を出し分ける 会員ランク機能は、購入金額や回数に応じて会員のランクを判定し、特典を自動で適用する機能(ECサイトの機能一覧の解説)。クローズドサイトの解説では、企業別価格、ボリュームディスカウント、会員ランクによる特別価格を設定できると説明している 会員価格との関係
ポイントやクーポンで、価格以外の割引を出す ポイント・クーポン機能は、購入金額や回数に応じてポイントやクーポンを付与する機能(同上)。W2 Commerce Repeatには、解約意向の顧客に割引クーポンを自動で発行する機能がある クーポン、ポイントとの関係
属性ごとに、価格や決済を出し分ける リコーイメージングは、一般、有料会員、社員、株主、一部の販売店を、W2 Commerce Unifiedで扱っている 客への見せ方
外部のサービスと価格のデータをやり取りする 基幹、在庫管理、会計管理などの外部システムとのAPI連携 価格を動かす仕組みとの接続

リコーイメージングは、複数の属性を1本の会員軸で管理していた旧システムから、W2 Commerce Unifiedにリプレイスしました。会員軸を有料会員かどうかの2区分に整理し、社員、株主、販売店はタグで扱う形です。

販売店には、卸条件に合わせた専用価格と専用ページで、注文を受け付けています。社販の専用商品をカートに入れると、給与天引きの決済方法と社員番号の入力フォームが表示される運用です。需要に応じて価格が動く例ではなく、属性ごとに価格や決済を出し分ける例です(リコーイメージングの導入事例)。

需要や在庫の状況に応じて価格を自動で変える機能は、W2 Commerceの標準機能として紹介していません。ダイナミックプライシングを入れる場合は、外部のサービスと組み合わせる前提で、連携の要件を整理します。

BtoC向けのW2 Commerce Unifiedは、集客、CRM、サイト統合、OMOの機能を標準で備えたモデルです。

サブスクや定期通販向けのW2 Commerce Repeatは、受注処理から決済、出荷指示、在庫管理、次回配送まで、定期通販に必要な業務を標準で備えています。ポイント・会員ランク制度や、解約を考えている顧客への割引クーポンの自動発行も、機能として紹介されています。

拡張プラグインの一覧には、施策を実行したときの売上と利益への影響を試算する「インパクト試算機能」といった機能もあります。ここまでの機能が、W2 Commerceのどのエディションで標準なのか、どこからが追加かは、資料や個別相談でご確認ください。

2026年9月15日には、EC・店舗・基幹・メディアのデータとAIをつなぐAIエージェント基盤「W2 SmartHub」を正式リリースしました。個別の要件に合わせたAI機能の開発は、AIカスタマイズ開発 AI buddyで案内しています。

ダイナミックプライシングの事例に関するよくある質問

Q. ダイナミックプライシングとは何ですか?

需要や在庫などの状況に応じて、同じ商品やサービスの価格を変える価格設定です。「変動価格制」とも呼ばれます。事例は、日付や席ごとの需要予測、消費期限や在庫の残り、事前に決めたルールや外部の指標の3つの型に分けて整理できます。

Q. ダイナミックプライシングの事例には、どんなものがありますか?

ECは、コスメパンプキン、セシール、KONDO、Amazonの出品者向け機能です。小売は、ロッキー、バロー、イオン九州、藤三が、食品スーパーの値引きに使っています。

レジャー・スポーツは、USJ、東京ディズニーリゾート、サンリオピューロランド、富士急ハイランド、レゴランド・ジャパン、ホークス、F・マリノスです。時期と数字は、上の一覧表にまとめています。

Q. ECサイトでも導入できますか?

事例はあります。ただし、公表された時期は2017〜2020年が中心で、結果の数字があるのはコスメパンプキンの1件です。同社の数字は、2017年の講演での自社の報告で、期間や対象商品は示されていません。始めるなら、一部の商品で、価格を変えない商品と比べながら試す形が現実的です。

Q. ダイナミックプライシングのデメリットは何ですか?

客に不公平だと受け取られるおそれがあります。YouGovの調査では、ライブコンサートで「不公平」とした人が49%でした。ウェンディーズやTicketmasterの例では、仕組みそのものより、説明の仕方と通知のタイミングが問われました。

そのほか、通常価格と並べて価格を示すなら、二重価格表示の考え方も確認が必要です。

Q. 購入後に価格が下がった場合、差額は返金されますか?

事業者の規定によります。Jリーグの説明資料では、購入後に価格が変動しても、差額の請求も返金もありません。USJは、購入済みのチケットの価格が購入時から変わっても、差額の支払いは必要ないとしています。自社で導入するなら、購入後の扱いを先に決めて、客に示します。

Q. セールや値引きとは、何が違いますか?

セールは、担当者が時期と値引き率を決めます。ダイナミックプライシングは、需要や在庫のデータを材料に、価格や、値引きの時期と率を動かします。ただし、境目はあいまいです。ロッキー、バロー、イオン九州、藤三は、消費期限に合わせた値引きの最適化で、発表資料の呼び方が分かれています。

Q. 中小規模のECでも始められますか?

コスメパンプキンは、当時、自社サイトとECモールで計6店舗を運営する化粧品ECで、はじめは手作業で価格を調整していました。15事例のなかに、導入費用を公表した例は確認できませんでした。費用は、価格を動かす範囲と、使うサービスで変わるため、見積もりで確認します。

Q. 効果は何で測ればよいですか?

価格を変える理由に合わせて選びます。事例では、コスメパンプキンが不良在庫率、ロッキーがロス率と値引きの作業時間、バローが食品廃棄量と売上総利益を測っていました。価格を変えない比較対象を残さないと、効果を説明できません。

まとめ|ダイナミックプライシングは「理由」「範囲」「見せ方」から決める

ダイナミックプライシングは、需要や在庫などの状況に応じて価格を変える価格設定です。15事例では、日付や席ごとの需要予測、消費期限や在庫の残り、事前に決めたルールや外部の指標の3つの型で、EC、小売、レジャー・スポーツが取り組んでいました。

共通していたのは、価格を変える理由を絞り、上限と下限や更新の頻度を示し、購入後の扱いを決め、小さな範囲で試してから広げる設計でした。

効果の数字を公表した事例は15件のうち3件で、いずれも第三者の測定ではありません。推計や、複数の施策を合わせた数字が含まれるため、出どころと条件を確かめて読み、自社では変更前の数字から測り始めるのが確実です。

次にとる行動は、次の3つです。

  1. 価格を変える理由を1つ選び、変更前の数字を記録する:在庫の残り、売れ残りの日数、不良在庫率のうち2〜3つを測る
  2. 変える幅、上限と下限、比較対象を決める:一部の商品に限り、価格を変えない商品を残す
  3. 客への見せ方と購入後の扱い、会員価格やクーポンとの関係を1枚にまとめる:価格が重なって下がり過ぎないか、計算の起点も書く

ECサイト全体のAI活用はECサイトのAI活用完全ガイド、AIによるEC運営の全体像はAIコマースとは?で整理しています。会員ランクやクーポンなど、ECサイトに必要な機能の全体像はECサイトの機能一覧、外部システムとのデータの受け渡しはAPI連携とはが参考になります。

顧客ごとの価格の出し分けは、クローズドサイトの解説でも扱っています。

会員価格、クーポン、ポイントなど、価格まわりの仕組みを整えるなら、W2 Commerce Unified、W2 Commerce Repeat、拡張プラグインの一覧からご覧いただけます。

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この記事の監修者

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樽澤寛人 マーケティング部 部長

神戸大学在学中にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行、広告運用、物流手配に至るまで、EC運営の全工程をハンズオンで経験。売上を大きく伸ばしたのち、事業譲渡を実現。
大学卒業後はW2株式会社に新卒入社し、現在は、ECプラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進を担う。一貫してEC領域に携わり、スタートアップから大手企業まで、あらゆるフェーズのEC支援に精通している。

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