AIコールセンター・問い合わせ対応の導入事例11選|通販・EC企業の活用例
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AIコールセンター・問い合わせ対応の導入事例11選|通販・EC企業の活用例

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セールの翌日や、テレビCMが流れた直後は、電話がつながらなくなる。メールの返信は翌日に回り、担当者は似た質問に似た文面を書き続ける。人を増やそうにも、一人前になるまでに数か月かかる。

そこでAIを調べてみても、ツールの比較表や、社名が伏せられた「ある企業」の事例が目立ち、自社に近い通販・ECが何をAIに任せたのかは、なかなか見えてきません。

このページでは、社名、時期、AIの役割、人の役割、数字の出どころが確認できる11事例を、電話とメールを中心に並べました。ボイスボットが注文を受け付ける例、通話の要約で後処理を減らす例、メールの返信文をAIが書く例、窓口の入口を作り直した例まで含みます。

成果の数字には、何を測った数字か、誰が公表したかを添えました。数字の読み方と、通販・ECで始める手順、電話・メール・受注を1つの画面で扱える基盤の選び方まで、事例に結びつけて確認していきます。

この記事でわかること

電話、メール、チャットなどの問い合わせ窓口にAIを組み込む取り組みの総称です。電話に直接応答するボイスボット、通話の文字起こしと要約、メールの分類や回答文の下書きなどが含まれます。チャットボットは窓口のひとつで、選び方や費用は別の記事にまとめました。このページは電話とメールの事例を中心に確認します。

ディーニーズは電話が混み合ってあふれた注文の受付、大丸松坂屋百貨店は通話後の要約、アンカー・ジャパンは使い方やトラブルのメール返信に使っています。11事例を、電話の自動応答、通話の要約、メール対応、窓口全体の設計の4領域に分けて確認しました。

数字の出どころは、事業者か提供企業のものがほとんどです。「受注率83%」「約45秒短縮」のように、測っているものが事例ごとに違います。後ほどの表で、出どころと読むときの注意をそろえました。

電話かメールかを決め、問い合わせの種類を1つに絞って、AIに任せる範囲と人に戻す出口を書き出すところからです。導入前の応答率や対応時間を測り始めることと、顧客情報や注文履歴を1つの画面で見られる状態かの確認も、先に済ませておきます。

目次
  1. 01|AIコールセンターとは?チャットボットとの違い
  2. 02|AIコールセンターの導入事例11件の一覧
  3. 03|電話の自動応答の事例(3件)
  4. 04|通話の要約の事例(2件)
  5. 05|メール対応の事例(3件)
  6. 06|窓口全体を設計し直した事例(3件)
  7. 07|事例の数字の読み方
  8. 08|11事例に共通していた5つの設計
  9. 09|通販・ECの電話とメールでAIを始める手順
  10. 10|AIコールセンターを使うときの注意点
  11. 11|AIコールセンターの費用と補助金の見方
  12. 12|電話・メール・受注を1つの画面で扱うECの基盤の選び方
  13. 13|AIコールセンターに関するよくある質問
  14. 14|まとめ|AIコールセンターは「場面」「出口」「測り方」から決める

AIコールセンターとは?チャットボットとの違い

AIコールセンターとは、電話、メール、チャットなどの問い合わせ窓口に、AIを組み込む取り組みの総称です。AIが電話に直接応答する場合もあれば、オペレーターの作業を裏側で支える場合もあります。

「AIカスタマーサポート」や「問い合わせ対応のAI」と呼ばれる取り組みも、窓口にAIを入れるという意味では、同じ範囲に入ります。

AIが担う役割で分けると、ここで取り上げる11事例は次の4つの領域に整理しました。

領域 AIが担う役割 人の役割 取り上げる事例
電話の自動応答 電話に直接応答し、注文や手続きの内容を聞き取って受け付ける(ボイスボット) 混み合ったときの受け皿の外側で、複雑な内容や確認を担う ディーニーズ、ビタブリッドジャパン、大嶌屋
通話の要約 通話を文字にして要約し、対応記録の下書きを作る 要約を確認し、システムに記録する 大丸松坂屋百貨店、DMM.com(参考)
メール対応 メールを分類して担当者を決める。回答文の下書きを作る。解決方法を返信する 内容と回答の確認、複雑な問い合わせの対応 アンカー・ジャパン、SCSKサービスウェア、ネスレ日本(参考)
窓口全体の設計 窓口の入口をチャットに置き、人が受ける件数を減らす。対応案の提示や要約で担当者を支える AIでは解決できない問い合わせの対応 GMOペパボ(参考)、MISUMI、Best Buy

領域によって、AIが触れるデータも、間違えたときの影響も違います。電話の自動応答はお客様の声を直接聞き取るため、聞き取りの誤りが注文や手続きに直結します。通話の要約は社内の作業なので、お客様の目には触れません。

メールは、読む、調べる、書く、確認するという工程のどこにAIを入れるかで効果が変わります。窓口全体の設計は、問い合わせの入口そのものを変える取り組みです。

AIコールセンターの4つの領域(電話の自動応答、通話の要約、メール対応、窓口全体の設計)と、それぞれの代表的な事例を示した図解

AIコールセンターには、上の4領域のほかにも、次のような使い方があります。

  • 応対品質の自動採点:オペレーターの対応をAIが採点し、監督者が一部しか確認できなかった品質チェックを全件に広げる
  • 感情分析・カスハラの検知:通話やメールの言葉づかいから、早めに対応すべき案件や、危険な言動を見つける
  • 問い合わせ内容の分析(VOC):蓄積された問い合わせから、不満や要望の傾向をまとめる
  • 入電数の予測:呼量を予測して、オペレーターの人数配置に生かす

今回、通販・ECの企業が名前を出して成果を公表している事例は、これらの領域では確認できませんでした。事例として載せられるのは、確認できた4領域だけです。問い合わせ内容の分析については、W2 Commerceの拡張プラグインに「VOC/NPS分析」があり、基盤の選び方で改めて触れます。

チャットボットは別の記事で

チャットボットは、窓口のひとつです。定義、方式の違い、費用、ECとの連携はAIチャットボットとは?EC活用の選び方・費用・連携で扱っています。このあとの「窓口全体の設計」の3事例には、チャットを入口にした例が含まれますが、チャットボットそのものの選び方には踏み込みません。

AIコールセンターの導入事例11件の一覧

11事例を、領域、時期、AIの役割、公表された成果の数字でそろえました。数字の欄は、発表資料や記事の表現を写しています。

事例 業種 領域 時期 AIの役割 公表された成果の数字(出どころ)
ディーニーズ テレビ通販 電話の自動応答 2023年11月に開始 あふれた注文の電話を、ボイスボットが受け付ける 受注率83%程度(開始当初は40%程度、人が受けた場合は約80%)(提供企業の事例ページ)
ビタブリッドジャパン DtoCの定期通販 電話の自動応答 2025年8月に導入 定期購入の変更・解約、返品の電話を、本人確認から手続きまで受け付ける 応答率が10%以上改善(提供企業の事例ページ)
大嶌屋 食品通販 電話の自動応答 2026年5月1日に本稼働 受注電話に、リアルタイムの音声対話AIが応答する 実証実験で約60%の電話が折り返し不要(報道)
大丸松坂屋百貨店 百貨店のECサイトの窓口 通話の要約 2024年10月に開始 通話の文字起こしを、生成AIが要約する 受電1回あたりの後処理が11月に7秒、12月に13秒短縮(提供企業の事例ページ)
DMM.com(参考) 30以上のサービスを運営するネット企業 通話の要約 2023年7月に導入 通話を文字にして要約する。メールの要約にも拡大 電話1件あたり約45秒短縮。電話とメールで月163時間(取材記事)
アンカー・ジャパン 直販サイトを持つ家電・周辺機器メーカー メール対応 2023年11月1日に開始 使い方やトラブルのメールに、AIが解決方法を返信する なし(同社のリリース)
SCSKサービスウェア アパレルEC(BPO事業者が検証) メール対応 2024年9月に公開 メールごとの担当者を、生成AIが割り振る 正答率約80%。判断時間は1件約1.5分(手作業は約5分)(実施企業の検証記事)
ネスレ日本(参考) 食品メーカーの窓口 メール対応 2026年1月に公開 回答文の作成を支援。のちに要約と回答案の作成まで広げる 1件あたり約25%削減、のちに約45%削減と記載。後者は記載の所要時間から計算すると約3割(運用支援企業の記事)
GMOペパボ(参考) ECサイト構築サービスなど11サービスの運営企業 窓口全体の設計 2024年1月に導入完了 窓口の最初の導線を、AIチャットボットに変更 有人対応が2.5万件から1.6万件(7サービス、前年同月比)(同社社員の寄稿)
MISUMI 工業部品のECサイト 窓口全体の設計 技術サポートは2024年11月に先行導入、2025年8月に本格導入を発表 生成AIのチャットが、技術相談とキャンセル・返品の可否判定に答える 平均回答時間は40秒(従来1時間)と10秒(従来比97%減)(報道)
Best Buy 米国の家電量販店(EC・アプリ・コールセンター) 窓口全体の設計 2024年4月に発表 顧客の自己解決と、担当者への対応案の提示を担う 担当者の平均対応時間が約5%短縮する見込み(CEOの説明、報道)

「参考」の3件は、通販・ECの窓口と確認できなかった事例です。DMM.comとGMOペパボは複数のサービスを運営する企業、ネスレ日本は食品メーカーのコンタクトセンターです。電話・メールのAI活用が数字つきで確認できる事例が、通販・ECの外にも広がっていたため、判断材料として載せました。

数字の欄を見比べると、測っているものが事例ごとに違うことがわかります。ディーニーズとビタブリッドジャパンの数字は、受注率と応答率という売上や取りこぼしに関わる指標です。大丸松坂屋、DMM.com、ネスレ日本は、1件あたりの作業時間という工数の指標です。

SCSKサービスウェアは精度、GMOペパボは人が受ける件数を示しています。同じ「AIの効果」でも、並べて優劣をつけられる数字ではありません。

出どころも確認しておく必要があります。11件のうち、第三者が測定した数字はなく、事業者、提供企業、実施企業、運用支援企業、報道のいずれかによる公表です。提供企業の事例ページは、導入した企業の担当者へのインタビューを含みますが、提供企業にとって都合のよい数字が載りやすい媒体でもあります。

電話の自動応答の3件は、すべての電話をAIに任せた例ではありません。ディーニーズは混み合ってあふれた電話、ビタブリッドジャパンは体制を超える入電でオペレーターが受けられないとき、大嶌屋は実証実験で約60%の電話に限られます。

AIコールセンターの11事例の数字を、売上・取りこぼし側、工数側、精度側、件数側の4つに分け、いずれも第三者の測定ではないことを示した図解

電話の自動応答の事例(3件)

電話にAIが直接応答する3事例です。注文を受ける、定期購入の手続きを受ける、という違いはありますが、どの会社も、全部の電話ではなく、限った場面から始めています。

ディーニーズ|テレビ通販のあふれた電話を、ボイスボットが受け付ける

  • 時期:2023年11月に、あふれ呼の一次対応をボイスボットへ切り替え。2025年5月からクレジットカード決済にも対応
  • AIの役割:オペレーターが対応しきれずにつながらなかった注文の電話(あふれ呼)を、「PKSHA VoiceAgent」が受け付ける
  • 人の役割:氏名と住所は正確さを追わず、オペレーターが録音を聞き直して確認する
  • 公表された数字:受注率は開始当初の40%程度から83%程度まで改善。コールバック対応では60〜65%、人が受けた場合は約80%
  • 出どころ:PKSHA(提供企業)の導入事例ページ(2025年12月8日時点)

ディーニーズは、「青汁三昧」などの健康食品や補正下着をテレビ通販で販売しています。お客様は60代から80代が中心で、電話での注文が主です。受注拠点は5つ、常時20名ほどのオペレーターが対応し、繁忙期は最大100名になることもあります。

導入前は、オペレーターが受けきれなかった電話をIVR(自動音声応答)で受け、あとからかけ直すコールバックで対応していました。コールバックの対象のうち15%は、かけ直してもつながらず、受注の機会を逃していたそうです。

つながった場合も、受注率は60〜65%にとどまり、電話を受けた場合の約80%を下回っていました。数時間後に電話をすると、お客様の熱が冷めていたり、ほかで似た商品を買っていたりしたといいます。

ボイスボットに切り替えたあとは、コールバックになる比率が30%程度から10ポイントほど改善しました。待たせずに注文を受け付けた場合の受注率は83%程度で、人が受けた場合の約80%とほぼ同じ水準です。

改善の転機として語られているのは、氏名や住所の聞き取りの扱いです。当初は、聞き取った内容をボイスボットが復唱して確認していましたが、復唱の確認でつまずき、注文が完了しないという問題が出ました。

そこで、正確な取得をあきらめ、あとからオペレーターが録音を聞き直す流れに変えたことが、受注率を大きく上げたと説明されています。

商品の確認も「ご注文の商品は〇〇ですね?」と、「はい」「いいえ」で答えられる聞き方にそろえました。

見ておきたい点は、適用範囲です。現在の運用は特定の放送枠や商品に限られ、理想は受注の100%自動化と語られているものの、全入電が対象ではありません。83%は、あふれ呼をボイスボットで受けた注文の受注率で、期間や件数は示されていません(PKSHAの導入事例)。

ビタブリッドジャパン|定期購入の返品・解約を、電話だけで完結する

  • 時期:2025年8月に導入(2026年4月28日時点の情報)
  • AIの役割:定期購入の変更・解約、返品の電話を、本人確認から手続きまでボイスボットが受ける。EC-CUBEとAPIでつなぎ、通話後のシステム登録まで自動で行う
  • 使う場面:営業時間内に、入電が体制を超えてオペレーターが受けられないときだけ
  • 人の役割:通常の電話の対応。自動化で生まれた余裕を、一言を添える対応や、誕生月の挨拶に使う
  • 公表された数字:応答率が、導入前の過去最低水準から10%以上改善し、目標を達成
  • 出どころ:PKSHA(提供企業)の導入事例ページ

美容やヘルスケアの商品をDtoCで定期販売するビタブリッドジャパンでは、電話の半数以上が、定期購入の変更や解約でした。事業が伸びるほど増える問い合わせで、導入前は、コールセンター全体の応答率が目標に大きく届かず、過去最低水準まで落ちていました。

人を増やす案もありましたが、採用が難しいうえ、一人前になるまでに最低2か月、十分なレベルまでは3〜4か月の研修が必要でした。同社は、チャットボットなど文字での対応にAIを入れる例は多いと見ながら、年齢の高いお客様や電話を好む層が多いため、電話の自動応答を選んだと説明しています。

最大の特徴は、自動応答が本人確認から返品・コース変更・解約の手続きまで完結し、通話後にオペレーターが入力し直す作業もない点です。EC-CUBEとのAPI連携があるため、通話の内容がそのままシステムに登録されます。

結果として、応答率は10%以上改善しました。同社は、今後さらに入電が増えても、以前のように大きく落ち込むリスクを抑えられると見ています。取材時点では、システム上の処理漏れもほとんど起きていないとのことです。

数字で見ておきたい点が2つあります。ひとつは、解約を考えているお客様へのポイントの利用の案内で、継続して使ってもらえる割合が、オペレーターの対応の成功率に対して、自動応答では50%程度にとどまることです。

同社は当初ゼロに近いと想定していたため、想定より高い結果でした。それでも、継続を促す力は人の対応のほうが高い、という事実は残ります。

もうひとつは、応答率の「10%以上」が、ポイントなのか比率なのか、記載がないことです(PKSHAの導入事例)。

自動化で空いた時間は、お客様の過去の問い合わせ履歴や誕生月を見ながら、一言を添える対応に使われています。2026年2月のランダム調査では、過半数の通話で、こうした情報に基づく対応ができていたそうです。

大嶌屋|食品通販の受注電話に、音声対話AIを導入

  • 時期:2026年5月1日に本稼働
  • AIの役割:Verbexのリアルタイム音声対話AIが、通信販売の受注電話に応答する
  • 人の役割:判断や配慮が必要な対応に集中する
  • 公表された数字(実証実験):約60%の電話について、折り返しが不要でAIが対応。取得精度は注文商品98%、注文個数95%、広告媒体94%
  • 出どころ:コールセンタージャパン.comのニュース(2026年5月1日)

大嶌屋は、熊本県宇城市の食品通販です。農家直送のフルーツや馬刺しを全国に販売しています。繁忙期、人気商品の販売、インフォマーシャルの放映のたびに入電が集中し、電話がつながらないことによる受注機会の損失が課題でした。

本稼働の前に行った実証実験では、高齢の顧客や方言で話す人を含む電話注文を、決まった選択肢に答えさせるのではなく、自由な会話で受け付ける形で検証しています。その結果が、約60%の電話で折り返し不要、注文情報の取得精度が高い水準、という数字です。

注意したいのは、これが実証実験の数字だという点です。本稼働後の受注率や応答率は、確認できた記事に載っていません。ディーニーズが運用の中で受注率を40%から83%まで引き上げたように、実際の効果は運用の改善を経て決まります(コールセンタージャパン.com)。

通話の要約の事例(2件)

通話を文字にして要約する取り組みです。お客様に直接関わる自動応答に比べて、リスクが小さく、後処理の時間という測りやすい数字が出ます。

大丸松坂屋百貨店|通話の文字起こしを、生成AIが要約

  • 時期:2023年2月にコンタクトセンターの基盤を刷新。2024年10月から要約を活用し、2024年冬の繁忙期に全席へ広げた
  • AIの役割:通話の文字起こしを生成AIが要約する。Amazon ConnectとZendeskを組み合わせたクラウドコンタクトセンターのパッケージの標準機能として提供
  • 人の役割:繁忙期は、要約のZendeskへの入力をスーパーバイザーが担当し、オペレーターは受電に集中する
  • 公表された数字:受電1回あたりの後処理時間が、11月に7秒、12月に13秒短縮
  • 出どころ:サーバーワークス(提供企業)の導入事例ページ(2025年8月6日掲載)

大丸松坂屋百貨店は、ECサイト「大丸松坂屋オンラインストア」の問い合わせを受けるコンタクトセンターで、通話の文字起こしを先に自動化していました。ところが、文字になった内容を要約してZendeskに入力する作業は、オペレーターの手入力のまま残り、後処理の負担は大きく変わらなかったそうです。

そこで、パッケージに要約の機能が加わることを知り、一部の席で実際の業務に当てて検証しました。担当者は、要約が正確で必要な項目を網羅していたと評価しています。2024年冬の繁忙期のピークに合わせて全席に広げ、繁忙期はスーパーバイザーが要約の入力を担当する運用に改めました。

成果は、後処理時間が11月に7秒、12月に13秒短縮という数字です。短い時間に見えますが、1か月に1万件もの電話を受ける繁忙期に、10秒前後が積み重なり、応答率の向上につながったと説明されています。

数字以外の変化もあります。人が書く要約は経験やスキルに左右され、報告に抜けや漏れが出がちでした。自動化のあとは、すべてのオペレーターから正確な報告が上がるようになり、情報が足りない場合は文字起こしにさかのぼれるため、聞き取りや録音の聞き直しも減ったといいます。

百貨店という業態も、背景のひとつです。AWSのセミナー報告(2024年5月)では、問い合わせのチャネルで電話の構成比が高いことが、百貨店ならではの特性として挙げられています。電話が主力の窓口ほど、通話後の作業を減らす効果が大きいと読めます(サーバーワークス、AWSブログ)。

DMM.com(参考)|電話のメモを要約に置き換え、メールにも広げる

  • 時期:2023年7月に導入。2024年5月28日にITmedia AI+が報道
  • AIの役割:通話音声を自動でテキストにし、内容を要約する。のちにメール問い合わせの要約にも使う
  • 公表された数字:電話1件あたり約45秒短縮(手作業のメモは約160秒)、月平均で約93時間。メールの要約で約70時間。合計で月163時間
  • 出どころ:ITmedia AI+の取材記事

DMM.comのカスタマサポート部は、30以上のサービスの問い合わせを担い、月平均2万7000件に対応しています。その約3割が電話ですが、導入前は録音を保存し、オペレーターが手作業でメモを取るだけで、データを生かせていませんでした。

2023年卒の社員が主導し、約1か月でオペレーター向けのAI基盤をリリースしています。基盤はAzureで運用し、要約を実行する前にリクエストをためる仕組みを入れて、大量の依頼が来ても要約できなくなるリスクを抑えました。

AIの出力が現場の求める形式になるよう、カスタマーサポートの担当者がプロンプトを自分で検証できる環境も用意しています。

通販・ECの窓口とは確認できなかったため「参考」にしましたが、電話の件数と時間の数字がそろっているため、後ほど数字の読み方で使います(ITmedia AI+)。

メール対応の事例(3件)

メールは、読んで、調べて、書いて、確認するという工程が全部作業時間になります。AIが関われる範囲が広く、事例も段階を踏んだものが多い領域です。

アンカー・ジャパン|使い方やトラブルのメールに、AIが返信

  • 時期:2023年11月1日に運用を開始
  • AIの役割:公式サイトに届く、製品の使い方やトラブルに関するメールに、ChatGPTをベースにした「Anker AI Assistant」が解決方法を返信する
  • 人の役割:それまでは全件を人が対応。複雑で、人の対応が必要な問い合わせの待ち時間を短くすることも目的
  • 公表された数字:なし
  • 出どころ:アンカー・ジャパンのリリース

アンカー・ジャパンは、設立から10年で売上高が350億円まで伸びました。製品が増えたことで、使い方やトラブルの問い合わせは、2020年からの3年間で約2倍になったと説明しています。電話、メール、チャットで対応してきたなかで、メールにAIを導入しました。

背景として挙げられているのは、営業時間外の待ち時間です。それまでは全件を人が対応していたため、早朝、深夜、土日祝日には返信を待たせることがありました。AIが解決方法を返信することで、待ち時間を短くするだけでなく、複雑で人の対応が必要なお客様への対応も早められる、という狙いです。

リリースには、効果の数字が載っていません。送信前に人が確認するのか、AIが誤った案内をしたときにどうするのかも、書かれていません。数字が出ていない事例を載せたのは、電話より先にメールから始める判断を、公式に説明している数少ない例だからです(アンカー・ジャパンのリリース)。

SCSKサービスウェア|アパレルECのメールの担当割りを、生成AIで検証

  • 時期:2024年9月に公開
  • AIの役割:問い合わせの内容、緊急度、状況と、担当者のスキルの対応表を生成AIに学習させ、メールごとに担当者を割り振る
  • 人の役割:通常は、管理者が1件ずつ確認して割り振る。誤分類は次の工程で気づける運用
  • 公表された数字:正答率は約80%。判断時間は1件あたり約1.5分で、手作業の約5分から約70%短縮
  • 出どころ:SCSKサービスウェア(BPO事業者)の検証記事

アパレルECでは、返品や交換の問い合わせが多く、返信の遅れが満足度の低下につながります。SCSKサービスウェアは、メールの内容ごとに適した担当者を選ぶ作業に時間がかかる点に着目し、生成AIで自動化できるかを検証しました。メールは個人情報が分からないようにマスキングをしたうえで、AIに見せています。

結果は、正答率が約80%、判断にかかる時間は約70%短縮でした。一方で、約20%の分類の誤りがあり、特にキーワードの誤認が目立ちました。たとえば「緑のブラウスの到着日を教えて」というメールが、色の言葉に引きずられて「色変更」に分類された例が挙げられています。

同社の整理では、今回の検証は実用化で期待するレベルには達しませんでした。次の工程で気づけるため、大きな問題にはならないとしつつ、実際の運用では誤りを補う運用のルールが必要だと述べています。成功例だけでなく、足りなかった点が数字つきで書かれた貴重な事例です(SCSKサービスウェア)。

ネスレ日本(参考)|回答文の作成から、要約と回答案の作成まで段階的に

  • 時期:2026年1月16日に公開
  • AIの役割:フェーズ1は回答の文章化を生成AIが支援。フェーズ2は、要約AIが問い合わせ内容をまとめ、FAQも参照して生成AIが回答文を作る
  • 人の役割:内容の確認と最終確認
  • 公表された数字:1件あたり約9〜13分かかっていたものが、フェーズ1で約7〜10分(約25%削減)、フェーズ2で約6〜9分(約45%削減と記載)
  • 出どころ:トランスコスモス(運用支援企業)の記事

ネスレ日本のコンタクトセンターの運用を支援するトランスコスモスが、メール問い合わせ対応の取り組みを紹介しています。それまでのメール対応は、情報の確認、文章の作成、最終確認の全工程をオペレーターが行い、回答内容が決まっている場合でも文章にする時間がかかっていました。

フェーズ1では、回答の内容は人が決め、文章にする部分を生成AIが支援しました。フェーズ2では、問い合わせの要約はネスレ日本が内製した要約AIが担当し、オペレーターが不足がないかを確認したうえで、FAQを参照した生成AIが回答文を作ります。人が行うのは、回答を作る前の内容確認と最終確認です。

注目したいのは、AIに任せる範囲を2段階で広げ、そのたびに所要時間を測っている点です。今後は完全自動化に向けて、他の窓口にも広げる予定とされています。

数字の読み方には注意が必要です。フェーズ2の「約45%削減」は、記事に載った所要時間(9〜13分が6〜9分)から計算すると約3割で、記載とは一致しません。算出の根拠は記事にありません。ここでは、記載の数字と計算した数字の両方を示しています。

通販・ECの窓口かどうかは記事にないため「参考」としました(トランスコスモス(trans+))。

窓口全体を設計し直した事例(3件)

電話やメールに届く前の入口を変えたり、担当者の作業を支えたりして、窓口全体を作り直した事例です。3件とも、AIチャットを入口に使っています。チャットボット自体の選び方はAIチャットボットの解説に任せ、ここでは、電話やメールの件数や時間にどう響いたかを確認します。

GMOペパボ(参考)|窓口の最初の導線をAIチャットに変更

  • 時期:2023年11月にプロジェクトを開始し、2024年1月に全サービスの問い合わせ対応へ導入
  • AIの役割:すべての窓口の最初の導線をAIチャットボットに変更。解決できなければ、電話窓口や問い合わせフォームへ案内する
  • 公表された数字:有人対応件数は、7サービスの合計で2023年4月の2.5万件から、2024年4月に1.6万件。2024年1〜5月の5か月で、電話やメールを含む顧客対応業務が1,620時間減。顧客満足度は86%から88%
  • 出どころ:GMOペパボの社員によるコラム。同社はAI導入支援サービスの運営元でもある

GMOペパボは、全11サービスを対象にAIの問い合わせ対応を進めました。コラムの筆者は、有人対応が3割減った一方で、顧客満足度は導入前の86%から88%へ2ポイント上がった、と説明しています。

簡単な問い合わせをAIが受けることで、難しい問い合わせに人が集中できるようになったことが理由とされています。AIだけで50%の問い合わせを解決している部門もある、という説明です。

条件も読み取っておく必要があります。件数の比較は前年同月で、対象は11サービスのうち7サービスです。満足度は、2023年6月の4,182名と、2024年6月の2,225名という、回答者の違うアンケートの平均です。AI以外の要因を切り分けたかどうかは、書かれていません(コマースピック)。

MISUMI|返品・キャンセルの可否判定を、生成AIが数秒で回答

  • 時期:技術サポートは2024年11月に先行導入し、2025年8月に本格導入を発表
  • AIの役割:生成AIのチャットボット。技術サポートは、商品データベースをもとに仕様の確認や選定の相談に答える。カスタマーサービスは、注文ごとのキャンセル・変更・返品の可否を判定し、手続きを案内する
  • 公表された数字:技術サポートの平均回答時間は40秒(従来は1時間、98%短縮)。カスタマーサービスは平均10秒(従来比97%削減)
  • 出どころ:ECzineの記事(2025年8月29日)

ミスミの商品点数は、他社ブランドも含めて3,000万点以上あり、従来のFAQでは仕様の確認や選定の相談に対応しにくい状況でした。キャンセル・変更・返品も、商品や注文のステータスで条件が異なり、回答に時間がかかっていたといいます。

ここで目を向けたいのは、返品や変更の可否判定がAIの対象になっている点です。ビタブリッドジャパンの返品・解約と同じく、条件の判断が必要で、電話でもメールでも手間のかかる問い合わせです。

記事に出てくる「従来」が、人の回答やFAQ検索のどれを指すのか、どう測ったのかは書かれていません。今後は、納期や出荷、配送状況の回答にも広げる予定とされています(ECzine)。

Best Buy|自己解決と担当者の支援を、生成AIで両立する計画

  • 時期:2024年4月9日に発表。2024年4月25日の報道時点では、2024年夏ごろのリリース予定
  • AIの役割:自社EC、アプリ、コールセンターで、生成AIアシスタントが問い合わせに対応する。配送スケジュールの変更、定期購入や会員アカウントの管理は、顧客が自分で解決できる。担当者には、対応の仕方をリアルタイムで提案し、会話を要約する
  • 公表された数字:CEOが2024年2月、担当者が顧客に対応する平均時間は約5%短縮すると説明
  • 出どころ:Digital Commerce 360の記事(ネットショップ担当者フォーラムが翻訳)

Best Buyは、Google CloudとAccentureと協業しています。自己解決の範囲を広げる側と、担当者を支える側の、両方にAIを使う設計です。

約5%という数字は、ほかの事例に比べて控えめに見えます。理由として考えられるのは、測る範囲の違いです。Best Buyの数字は担当者全体の平均対応時間で、DMM.comやMISUMIは、特定の作業や問い合わせに絞った時間です。

また、記事は「短縮します」と将来形で書いており、実測ではなく見込みと読めます。2024年夏のリリース後の実績は、今回確認できていません(ネットショップ担当者フォーラム)。

事例の数字の読み方

11事例の数字を、出どころと読むときの注意でそろえ直しました。

数字 事例 出どころ 読むときの注意
受注率83%程度 ディーニーズ 提供企業の事例ページ あふれ呼をボイスボットで受けた注文の受注率。特定の放送枠や商品での運用で、期間と件数は記載なし
応答率10%以上改善 ビタブリッドジャパン 提供企業の事例ページ 導入前は過去最低水準だった。ポイントか比率かの記載なし
約60%の電話が折り返し不要 大嶌屋 報道 実証実験の数字。本稼働後の数字は確認できていない
後処理が7秒(11月)、13秒(12月)短縮 大丸松坂屋百貨店 提供企業の事例ページ 繁忙期の月別の数字。閑散期や、短縮前の後処理の長さは記載なし
約45秒短縮、月163時間 DMM.com(参考) 取材記事 手作業のメモが約160秒だった作業を置き換えた数字。複数サービスの問い合わせ全体の時間
正答率約80%、判断時間が約70%短縮 SCSKサービスウェア 実施企業の検証記事 実運用ではなく検証。残りの約20%は誤分類
約25%、約45%削減 ネスレ日本(参考) 運用支援企業の記事 所要時間は9〜13分などの幅で表記。フェーズ2の約45%は、記載の所要時間から計算すると約3割で一致しない。対象件数は記載なし
有人対応が2.5万件から1.6万件 GMOペパボ(参考) 同社社員の寄稿 11サービス中7サービスの前年同月比。AI以外の要因の切り分けは記載なし
回答時間40秒、10秒 MISUMI 報道 特定の問い合わせの回答時間。「従来」の測り方は記載なし
担当者の平均対応時間が約5%短縮 Best Buy CEOの説明の報道 担当者全体の平均。将来形の表現で、見込みと読める。リリース後の実績は未確認

数字の大きさは、AIの性能だけでなく、置き換える作業の長さ、件数、測る範囲で決まります。

1件あたりの短縮時間を並べると、違いがはっきりします。大丸松坂屋の後処理は約10秒、DMM.comの電話のメモは約45秒です。

メールは分の単位になり、ネスレ日本は約2〜3分(フェーズ1)から約3〜4分(フェーズ2)、SCSKサービスウェアの担当割りは約3.5分です。ネスレ日本とSCSKサービスウェアの数字は、記事に載った所要時間の差から、こちらで計算しました。

電話は通話中の時間が残るため、AIが減らせるのは通話後の作業が中心になります。メールは、返信を書く時間そのものが対象です。

秒の単位でも、件数が多い現場では時間になります。大丸松坂屋の繁忙期は1か月に1万件規模の電話があり、1件10秒の短縮を掛けると約28時間です(概算)。

DMM.comの場合は、月平均2万7000件のうち約3割が電話とされています。約8,100件に45秒を掛けると約100時間となり、報じられた約93時間と近い水準です。

どちらも、公表された数字からこちらで計算した概算で、各社が示した計算ではありません。

売上側の数字は、工数の数字とは性質が違います。ディーニーズの受注率とビタブリッドジャパンの応答率は、削減できた費用ではなく、取りこぼしを防いだことを示します。電話がつながらず逃していた注文や、落ち込んでいた応答率を戻す話なので、人件費の削減額とは比べられません。

社内で共有するときは「ネスレ日本では、運用支援企業の記事上、メール1件あたりの対応時間が約25%(フェーズ1)減ったとされている(対象件数は非公表)」のように、出どころと条件の有無を添えると、あとから確認されても説明がつきます。記載の数字どうしが合わない場合は、そのことも書き添えます。

大丸松坂屋とDMM.comの電話の後処理は秒単位、ネスレ日本とSCSKサービスウェアのメール対応は分単位で短縮されたことを比べた棒グラフ

11事例に共通していた5つの設計

事例の領域は違っても、設計の考え方には重なる部分がありました。

1. AIに任せる場面を、限って決めている

ディーニーズはあふれた電話、ビタブリッドジャパンは体制を超える入電のとき、大嶌屋は実証で約60%の電話、アンカー・ジャパンは使い方やトラブルのメール、MISUMIは技術相談と可否判定です。全部ではなく、AIが答えやすく、取りこぼしの影響が大きい場面から始めています。

2. 人に戻す出口と、確認の工程を残している

ディーニーズは氏名と住所を録音で聞き直し、SCSKサービスウェアは誤分類を次の工程で気づく運用、ネスレ日本は内容確認と最終確認を人が行います。大丸松坂屋は、要約の入力をスーパーバイザーが担いました。AIの精度を100%に近づけることより、間違いが出たときに誰が気づくかを決めています。

3. 既存のシステムとつないでいる

ビタブリッドジャパンはEC-CUBEとAPIで、大丸松坂屋はZendeskと、ネスレ日本はFAQを参照させる形で、MISUMIは商品データベースを使って、AIを業務の仕組みにつないでいます。AIが答えるための材料と、結果を書き込む先が、同じ流れの中にあります。

4. 小さく始めて、数字を見ながら広げている

ディーニーズは受注率を40%から83%まで改善し、大丸松坂屋は一部の席で検証してから繁忙期に全席へ広げました。ネスレ日本は2段階、MISUMIは技術サポートの先行導入から本格導入へ進んでいます。最初から完成形を目指した事例は、確認できた範囲にありません。

5. 空いた時間の使い道を決めている

ビタブリッドジャパンは、自動化で生まれた余裕を、一言を添える対応や誕生月の挨拶に使っています。大丸松坂屋は、オペレーターを受電に専念させる運用に改めました。

GMOペパボは、11名のメンバーが新しい役割に移ったと説明しています。時間を減らすだけでなく、その時間で何をするかまで決めている事例は、数字以外の変化も報告していました。

通販・ECの電話とメールでAIを始める手順

事例を自社に置き換えるときの手順です。

課題から領域を選ぶ

最初に決めるのは、電話とメールのどこに困っているかです。課題と領域、参考になる事例、最初に測る数字を、次の表に対応させました。

課題 向く領域 参考にした事例 最初に測る数字
電話が混み合い、つながらずに注文を逃している 電話の自動応答(受注) ディーニーズ、大嶌屋 応答率、あふれ呼の件数、コールバックの成約率
定期購入の変更・解約の電話が多い 電話の自動応答(手続き) ビタブリッドジャパン 応答率、変更・解約の電話の割合、継続案内の成功率
通話のあとの記録に時間がかかる 通話の要約 大丸松坂屋、DMM.com 1件あたりの後処理時間、記録の抜けや漏れ
メールの返信と振り分けに時間がかかる メール対応 アンカー・ジャパン、SCSKサービスウェア、ネスレ日本 1件あたりの対応時間、初回返信までの時間、誤分類の割合
電話やメールで受ける件数そのものを減らしたい 窓口全体の設計 GMOペパボ、MISUMI、Best Buy 有人対応の件数、チャネル別の件数、満足度

表の右端の数字は、導入前に必ず測っておきたい指標です。導入後の数字だけでは、何が変わったのかを説明できません。たとえばビタブリッドジャパンは、電話の半数以上が定期購入の変更・解約だと把握していたからこそ、そこにAIを当てる判断ができました。まず自社の電話とメールを、種類別に数えるところから始めます。

進め方の5ステップ

  1. 問い合わせの種類と件数を、電話とメールで分けて数える:上位の種類を3つほど挙げ、1件あたりの対応時間も記録します
  2. AIに任せる場面と、人に戻す出口を書き出す:ディーニーズのように「聞き取れなかった内容は録音で確認」と、人に戻す条件まで決めておきます
  3. 顧客情報と注文履歴を、AIに渡せるか確認する:ビタブリッドジャパンのEC-CUBEや、大丸松坂屋のZendeskのように、AIの回答や要約を書き込む先を決めます
  4. 小さな範囲で試し、間違いを記録する:特定の時間帯、特定の商品、特定の種類のメールから始めます。SCSKサービスウェアのように、誤りの内容を残します
  5. 導入前の数字と、同じ条件で比べる:期間と対象を決め、導入前後を同じ条件で比べます
AIコールセンターを通販・ECで始める5ステップ(種類別に数える、担当を決める、情報をつなぐ、小さく試す、導入前の数字と比べる)と対応する事例を示した図解

AIコールセンターを使うときの注意点

任せる範囲の線引き

事例から読み取れる、AIに任せやすい点と、人に戻したい点を整理しました。

場面 AIに任せやすい点 人に戻したい点 根拠にした事例
電話の注文受付 商品と数量の聞き取り。「はい」「いいえ」で答えられる質問 氏名と住所の正確な取得(録音を聞き直す) ディーニーズ
定期購入の変更・解約 本人確認から手続きまで(限った場面で) 継続を勧める案内(成功率は人の対応より低い) ビタブリッドジャパン
通話後の記録 要約の下書き 要約の確認とシステムへの入力 大丸松坂屋
メールの振り分け 内容と緊急度の分類(正答率約80%) 誤分類の確認(約20%) SCSKサービスウェア
メールの返信 回答文の作成支援(フェーズ1で約25%削減) 内容の確認と最終確認 ネスレ日本

表のとおり、聞き取りの正確さが求められる情報、お客様の気持ちに働きかける対話、誤りが次の工程に流れる作業は、人に戻す設計になっています。逆に、定型的な手続き、下書き、記録は、AIに任せやすい場面です。

ただし、これは確認できた事例の傾向で、どの会社でも同じとは限りません。自社の問い合わせで、同じ線引きになるかは、小さな範囲で試して確かめるほかありません。

高齢のお客様や、電話を好む層への配慮

ディーニーズのお客様は60代から80代が中心で、ビタブリッドジャパンも、年齢の高いお客様や電話を好む層が多いと説明しています。

両社とも、お客様から否定的な反応は、取材時点でほとんどなかった(ビタブリッドジャパンは1回もなかった)と話しています。自動音声に驚いて一度電話を切る人が少数いても、かけ直す人が多い、という説明です。

ただし、これは事業者の説明で、お客様への調査ではありません。自社の客層で同じ結果になるかは、導入後の離脱や苦情の件数を測って確認します。

聞き取りの誤りと、誤分類

ディーニーズは復唱確認でつまずき、SCSKサービスウェアは約20%を誤分類しました。どちらも、精度の高さより、間違いが出たときの運用が結果を左右しています。AIの精度は、自社の音声やメールで試して、実測するのが確実です。方言や高齢の話し方が多い場合は、大嶌屋のように、そうした電話を含めて実証します。

個人情報と録音の扱い

電話の自動応答は氏名や住所を扱い、要約は通話の内容を文字にして保存します。SCSKサービスウェアは、個人情報が分からないようにマスキングしてから、AIに見せていました。

録音と文字起こしについては、利用目的、保存期間、委託先、AIの学習への利用の有無を整理し、個人情報保護法に沿っているかを、自社の法務で確認してください。

AIコールセンターの費用と補助金の見方

11事例のうち、導入費用を公表した例は確認できませんでした。費用は、領域と構成、通話や処理の量で大きく変わるため、見積もりを取るときは、次の項目をそろえて聞くと比べやすくなります。

聞く項目 確認する内容 関わる領域
初期費用と月額 導入時の費用、月額の固定費、契約期間 全領域
従量の条件 通話の本数や時間、文字起こしの分数、要約や回答文の作成回数に応じた課金の有無 電話の自動応答、通話の要約、メール対応
システム連携 ECや基幹、CRMとの受け渡し方式と、連携にかかる開発費 全領域
認識精度の検証 自社の音声やメールでの実測の可否、高齢の話し方や方言への対応 電話の自動応答、通話の要約
運用体制 フローの組み替え、回答や要約の確認、データの更新を誰が担うか 全領域
個人情報の扱い 録音と文字起こしの保存期間、学習への利用の有無、削除の方法 電話の自動応答、通話の要約

12か月の総額で比べると、初期費用が安くても、従量課金や連携の開発費で総額が逆転していないかを確かめられるのが利点です。ビタブリッドジャパンのようにAPI連携が必要な構成では、連携の開発費が総額を左右しやすくなります。

補助金が使える場合もあります。IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わり、通常枠の補助率は1/2以内(賃上げ等の条件を満たすと2/3以内)です。

対象になるのは、事務局に登録されたITツールを、登録された支援事業者を通じて導入する場合に限られます。導入を検討するサービスが登録されているかは、公募の時期ごとにIT導入補助金のサイトで確認してください(J-Net21)。

電話・メール・受注を1つの画面で扱うECの基盤の選び方

事例を見ると、AIの機能そのものは、外部のサービスで足せる場合があります。ビタブリッドジャパンのボイスボット、大丸松坂屋の要約、ネスレ日本の要約AIは、いずれも業務のシステムにつなげて使われていました。

一方で、AIに渡せる情報がどこにあるか、結果をどこに書き込むかは、ECと問い合わせ対応の基盤側で決まります。

確認項目 見る理由 根拠にした事例
着信時に、顧客情報と注文履歴が画面に出るか 本人確認や履歴の聞き取りの時間が減る。AIの回答や要約も、この情報を材料にする ビタブリッドジャパン、大丸松坂屋
電話、メール、オンラインの注文と問い合わせを、1つの管理画面で扱えるか 窓口ごとに履歴が分かれると、AIに渡すデータも分かれる 大丸松坂屋(電話、メール、FAQの窓口を一元化)
対応状況と担当者を、まとめて更新・集計できるか 要約の入力を誰が行うか、担当割りをどう変えるかといった運用の組み替えに必要 大丸松坂屋、SCSKサービスウェア
AIで処理しきれない場合に、承認や引き継ぎをシステム上で完結できるか 人に戻す出口がなければ、AIの導入が客の不満につながる ディーニーズ、ネスレ日本
外部のAI(ボイスボット、要約、回答案)とAPIでつなげるか AIのサービスを、あとから足したり入れ替えたりできる ビタブリッドジャパン

5つの確認項目は、AIのツール単体ではなく、受注と問い合わせの基盤が担う部分です。表の1つ目と2つ目が整っていないと、AIを足しても、オペレーターは複数の画面を行き来することになります。

データの受け渡しの方式はAPI連携とは、ECサイト全体でのAI活用の進め方はECサイトのAI活用完全ガイドにまとめました。ECサイトに必要な機能の全体像は、ECサイトの機能一覧が参考になります。

W2 Commerceで揃える場合

選択肢のひとつは、W2 Commerceの構成です。W2 Commerceは、BtoCから定期通販、BtoB、海外ECまで対応するECプラットフォームで、受注管理だけでなく、問い合わせ対応も1つの管理画面で完結できる機能を備えています。

W2 Commerceの機能 できること 上の表との対応
CTI連携 着信時に、顧客情報と注文履歴を自動で表示する 1行目
オフライン・オンライン一元管理 受注、問い合わせ、メール返信を、1つの画面で完結する 2行目
インシデント管理 対応のステータスと担当者を一括で更新し、対応件数を集計する 3行目
エスカレーション・オペレータ転送 承認や引き継ぎを、システム上で完結する 4行目

5行目のAPI連携は、W2 Commerceと外部のAIをつなぐ設計の話になります。電話の自動応答や通話の要約といったAIそのものは、ここで見た事例のように、各社が選んだ外部のサービスです。W2 Commerceと、どのAIサービスをどうつなぐかは、要件に応じて個別に整理します。

W2 Commerce Repeatを導入した福太郎の事例は、電話注文の場面をよく説明しています。福太郎は、福岡土産の「めんべい」を店舗、ECサイト、電話通販で販売しており、選定の比較ポイントとして、ECサイトのオンライン注文と電話注文の両方を1つのシステムで一元管理できるかを挙げていました。

選定の決め手の一つは、電話応対中にワンクリックで顧客情報を確認でき、その情報を見ながら注文を生成できる点だったそうです。複数の配送先が指定された場合も、1画面で注文を作れます。

AIの導入事例ではありませんが、電話で受けた注文を、オンラインの注文と同じ管理画面で扱う運用の例です(福太郎の導入事例)。

利用者の声もあります。ITreviewには、W2 Repeat(旧:リピートPLUS)を使う通信販売の事業者から、2025年11月に投稿されたレビューがあります(従業員20〜50人未満、社内情報システムの担当者)。

CS機能が充実しており、VOC(顧客の声)を細かく設定して改善に生かせること、担当者別やキーワードで過去の問い合わせをすぐに探せることが、良い点として挙げられています。

一方で、定期通販のため商品の数量で絞り込みたいが、数量を指定した検索ができないこと、担当者が頻繁に交代して引き継ぎが十分でない場面があることは、改善してほしい点です(ITreviewのレビュー)。

BtoC向けのW2 Commerce Unifiedは、集客、CRM、サイト統合、OMOの機能を標準で備えたモデルです。

サブスクや定期通販向けのW2 Commerce Repeatは、受注処理から決済、出荷指示、在庫管理、次回配送まで、定期通販に必要な業務を標準で備えています。SaaSモデルの紹介に挙がっているのは、「問い合わせ一元管理」と「マイページ作成/SNS連携」です。

拡張プラグインの一覧には、よくある質問と回答を事前に登録して即答する「ナレッジ・回答誘導管理」や、顧客の声から頻出キーワードを抽出する「VOC/NPS分析」といった機能もあります。

ここまでの機能が、W2 Commerceのどのエディションで標準なのか、どこからが追加かは、資料や個別相談でご確認ください。

ビタブリッドジャパンでは、電話の半数以上が定期購入の変更・解約でした。お客様自身がマイページで手続きできる範囲を広げれば、電話で受ける件数そのものを減らす余地があります。電話の自動応答に進む前に、マイページとFAQで解決できる問い合わせを増やす順序も、検討に値します。

2026年9月15日には、EC・店舗・基幹・メディアのデータとAIをつなぐAIエージェント基盤「W2 SmartHub」を正式リリースしました。個別の要件に合わせたAI機能の開発は、AIカスタマイズ開発 AI buddyで案内しています。

AIコールセンターに関するよくある質問

Q. AIコールセンターとは何ですか?

電話、メール、チャットなどの問い合わせ窓口にAIを組み込む取り組みの総称で、「AIカスタマーサポート」とも近い意味で使われます。電話に直接応答するボイスボット、通話の文字起こしと要約、メールの分類や回答文の下書き、窓口の入口に置くチャットなどが含まれます。

Q. AIと電話で話すことはできますか?

できます。ディーニーズ、ビタブリッドジャパン、大嶌屋は、ボイスボットや音声対話AIが電話に応答し、注文や手続きを受け付けています。ただし、3社とも、すべての電話ではなく、混み合ったときや特定の放送枠、実証実験での範囲に絞った運用です。

Q. AIによる電話応答のデメリットは何ですか?

事例からは、3つ挙げられます。聞き取りの誤りがあること(ディーニーズは復唱確認で注文が完了しにくくなりました)、継続を促す案内の成功率が人の対応より低いこと(ビタブリッドジャパンは、オペレーターの成功率に対して50%程度)、自動音声に驚いて電話を切る人が少数いることです。

いずれも、人に戻す出口と、限った場面での運用で対処している例です。

Q. お客様に嫌がられませんか?

ディーニーズは、クレームを心配する声が社内にあったものの、実際にはほとんどなかったと話しています。ビタブリッドジャパンは、取材時点で否定的な反応は1回もなかったそうです。ただし、いずれも事業者の説明で、お客様への調査ではありません。導入後は、苦情の件数や、途中で電話を切られる割合を測ります。

Q. 中小規模の通販でも導入できますか?

事例のなかでは、ディーニーズは常時20名ほどのオペレーターで、繁忙期は最大100名になる規模です。大嶌屋は熊本県の食品通販ですが、従業員の規模は記事に書かれていません。費用は公表されていないため、導入できるかどうかは、見積もりと、混み合う時間帯の取りこぼしの大きさで判断します。

Q. AIを入れると、オペレーターは不要になりますか?

確認した事例では、人の役割が残っています。ビタブリッドジャパンは「人とAIの協働」を目指すと述べ、ディーニーズは理想として受注の100%自動化を掲げつつ、現在は特定の枠や商品に限っています。

GMOペパボは、11名のメンバーが別の役割に移った、という説明です。人数の変化は事例によって違い、一律には言えません。

Q. 効果が出るまで、どのくらいかかりますか?

効果が出るまでの期間を公表した例は、確認できませんでした。公表されていたのは、運用開始までの期間です。

DMM.comは約1か月でAI基盤をリリースし、GMOペパボは、プロジェクトの開始から約2か月で、全サービスの問い合わせ対応に導入しています。ディーニーズの受注率は、開始当初の40%程度から運用の改善で83%程度まで上がっています。

Q. 通話の録音や文字起こしは、個人情報の面で問題ありませんか?

氏名や住所を含む通話を扱う場合は、利用目的、保存期間、委託先、AIの学習への利用の有無を整理し、個人情報保護法に沿っているかを自社の法務で確認します。SCSKサービスウェアは、メールの個人情報をマスキングしてから、AIに見せていました。

Q. チャットボットとの使い分けはどう考えればよいですか?

お客様がどの窓口を使うかで考えます。ビタブリッドジャパンは、文字での対応にAIを入れる例は多いと見ながら、電話を好む層が多いため、電話の自動応答を選びました。チャットの選び方と費用はAIチャットボットの解説で扱っています。

Q. 効果は何で測ればよいですか?

課題に合わせて、電話の自動応答は応答率と受注率、通話の要約は1件あたりの後処理時間、メールは1件あたりの対応時間と初回返信までの時間、窓口全体は有人対応の件数と満足度を、導入前から測ります。導入前の数字がないと、あとから効果を説明できません。

まとめ|AIコールセンターは「場面」「出口」「測り方」から決める

AIコールセンターは、電話、メール、チャットなどの窓口にAIを組み込む取り組みです。11事例では、電話の自動応答、通話の要約、メール対応、窓口全体の設計の4領域で、AIが担う範囲はさまざまでした。

共通していたのは、AIに任せる場面を限り、人に戻す出口を残し、既存のシステムにつなぎ、小さく始めて数字を見ながら広げ、空いた時間の使い道を決める設計でした。

成果の数字は、第三者が測ったものではなく、測っているものも事例ごとに違います。出どころと条件を確かめたうえで読み、自社では導入前の数字から測り始めるのが確実です。

次にとる行動は、次の3つです。

  1. 電話とメールの問い合わせを種類別に数え、導入前の数字を記録する:応答率、1件あたりの対応時間、初回返信までの時間を2〜3つ選ぶ
  2. AIに任せる場面と、人に戻す出口を1枚にまとめる:聞き取れなかった場合や、解約の継続案内など、人に戻す条件まで書く
  3. 顧客情報と注文履歴を1つの画面で見られるか確認する:AIの回答や要約を書き込む先と、承認や引き継ぎの流れを決める

AI活用の全体像はAIコマースとは?、窓口の入口に置くチャットはAIチャットボットとは?で整理しています。定期通販の事例はサブスクECの成功事例、健康食品の通販は健康食品EC・通販で成功する10の事例もあわせてご覧ください。

電話やメールの問い合わせ対応を改善するなら、受注と問い合わせを1つの画面で扱えて、AIにも情報を渡せる基盤かどうかで、できることが決まります。W2 Commerce Unified、W2 Commerce Repeat、拡張プラグインについては、拡張プラグインの一覧からご覧いただけます。

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この記事の監修者

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樽澤寛人 マーケティング部 部長

神戸大学在学中にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行、広告運用、物流手配に至るまで、EC運営の全工程をハンズオンで経験。売上を大きく伸ばしたのち、事業譲渡を実現。
大学卒業後はW2株式会社に新卒入社し、現在は、ECプラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進を担う。一貫してEC領域に携わり、スタートアップから大手企業まで、あらゆるフェーズのEC支援に精通している。

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