【業界別】AI活用事例30選|製造・小売・金融・医療など企業の導入例と成果
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【業界別】AI活用事例30選|製造・小売・金融・医療など企業の導入例と成果

事例

「AI活用事例」で検索すると、「業務を大幅に効率化」「工数を90%削減」といった言葉は、いくらでも見つかります。それなのに、どの会社が、どの業務をAIに任せ、何と比べてその数字になったのかまでは、たどり着けないことが多いのではないでしょうか。

この記事は、製造・小売・金融・医療・建設・自治体など12の業界から、ビジネスの現場で使われているAIの事例を、企業名と出典がそろう30件に絞って一覧にしたものです。成果の数字には、運用後の「実績」なのか、試験段階の「実証」なのか、見込みの「試算」なのか、まだ「目標」なのかを、1件ずつ書き添えました。

自社と同じ業界の事例を探している方もいれば、「うちの業務にも使えるのか」「上司に見せる根拠がほしい」という方もいるでしょう。ただ、事例の数字をそのまま自社に当てはめると、期待と結果がずれがちです。「最大」の値だったり、前年との比較だったり、AI以外の要因が混ざっていたりするためです。

まずは30件の早見表で、自社に近い事例を探してください。気になる事例は、数字の読み方とあわせて確かめます。最後に、最初に試す業務の選び方と、導入したあとに効果を確かめる方法も用意しました。

この記事でわかること

製造・小売・金融・医療・食品・建設・物流・通信・教育・メディア・自治体・農業の12業界から、企業名と出典がそろう30の事例を取り上げています。社内の生成AIで年78.8万時間の削減を推計したパナソニック コネクト、発注をAIが提案するイオンリテール、不正被害が導入前から3割以上減った三菱UFJニコス、要約の作成時間が平均47%短くなった東北大学病院の検証など。使い道は、文章を扱う生成AIと、予測や判定をする従来型のAIに大きく分かれます。

数字には性質の違いがあります。運用後に公表された「実績」、試験段階の「実証」、計算や見込みによる「試算」、これからの「目標」、現場の「実感」などです。30事例のうち、運用後の実績にあたるのは15件。残りは検証や試算、目標、数字の非公開で、比べている基準も事例ごとに違います。1件ずつ、数字の種類と読み方の注意を添えています。

数字が出ている事例が多いのは、文書の作成と要約、問い合わせ対応、需要予測と発注、検査と異常検知、全社でのAI利用の5つです。業務別の整理は本記事の「04|業務別のAI活用事例:業務効率化につながった使い道」にあります。JR西日本カスタマーリレーションズの通話要約では、元の所要時間が長い区分ほど短縮率が高くなっており、業務を選ぶときの目安になります。

件数が多く、結果を数字で測れて、AIが間違えても人が確認できる業務を1つに絞り、導入前の基準値を取ってから小さく検証します。事例で確認できる検証期間は6週間から4か月ほど。手順と、導入後の確認方法は、本記事の「AI活用の始め方と、導入後の確認方法」にまとめました。

目次
  1. 01|AI活用事例30選の早見表
  2. 02|事例の数字の読み方:実績・実証・試算・目標の違い
  3. 03|業界別のAI活用事例30選
  4. 04|業務別のAI活用事例:業務効率化につながった使い道
  5. 05|30事例から見える、成果が出た導入の共通点
  6. 06|AI活用の始め方と、導入後の確認方法
  7. 07|W2のAI活用:W2 Commerceのコンテンツ・検索・分析
  8. 08|AI活用事例に関するよくある質問
  9. 09|まとめ:次にとる行動

AI活用事例30選の早見表

次の表は、本文で取り上げる30事例を、業界順に並べたものです。左端の企業名を押すと、該当する事例へ移動します。

企業・団体 業界 AIの使い道 成果の数字(種類)
パナソニック コネクト 製造 社内の生成AIアシスタント 年78.8万時間の削減、総労働時間の3.4%【実績・推計】
旭鉄工 製造 工場データを毎朝判定する「AI製造部長」 AI単独の数字は公表なし【数字なし】
日立製作所 大みか事業所 製造 圧着端子の外観検査 不良検出率100%、過検出13%【実証】
ENEOS 川崎製油所 エネルギー 蒸留装置の自律運転 効果の数字は公表なし【数字なし】
イオンリテール 小売 発注量と価格の提案 発注時間 平均50%減、在庫 平均30%減【実績】
マルイ 小売 日配品の需要予測と発注 発注時間50%減、和日配の予測精度96.3%【実証】
オンワードデジタルラボ 小売 商品検索と商品説明文の作成 検索あたり購入金額+14.2%【ABテスト】
パル 小売 フリーワード検索 セッションあたりCVR 約2倍【実績】
メルカリ 小売 全従業員のAI利用と開発 エンジニア1人あたり開発量が2年前の7.6倍【実績】
三菱UFJニコス 金融 カードの不正検知 不正被害が導入前比で3割以上減【実績】
三菱UFJ銀行 金融 提案書のデータレイクと全行向け対話AI 年20万時間の削減をめざす【目標】
横浜銀行 金融 融資稟議書の作成支援 年最大1万9,500時間の削減見込み【試算】
損保ジャパン 保険 機械学習モデルの実験をAIエージェントで自動化 最大1週間の作業が約1日に【実感】
東北大学病院 医療 紹介状・退院サマリの要約 作成時間 平均47%減【実証】
関西医科大学 医療 看護サマリーなどの作成補助 約30分が約5分に短縮可能【試算・見込み】
オイシックス・ラ・大地 食品 メルマガの作成と校正 月333時間の削減(作成133+校正200)【実績】
竹内製菓 食品 設備の故障予兆検知 復旧72時間が2時間に(1回の例)【実績】
大林組 建設 法令確認とBIM問い合わせの対応 法令確認が週4.3時間から1.4時間に【実績】
LIFULL 不動産 全社の生成AI活用と現場主導の改善 半年で約5万時間を創出【実績】
日本通運 物流 出荷予測 予測の計算時間が約1〜2時間から約5分に【実績】
JR西日本カスタマーリレーションズ 運輸 通話内容の要約 介助申込の要約が14.1分から6.5分に【実績】
ソフトバンク 通信 全社員によるAIエージェントの作成 250万超のエージェントを作成【実績】
KDDI 通信 問い合わせ対応と応対品質管理 応対品質管理で年約24,000時間の削減【実績】
超個別指導塾まつがく 教育 AI教材での個別学習 国公立大の合格者が6名から42名に【実績・因果は未検証】
グレイプ メディア 記事の校正とタグ付け 校正の工数60%減【実績・自己申告】
横須賀市 自治体 全庁での生成AI利用 年22,700時間の改善を見込む【試算】
都城市 自治体 文書の作成・校正・要約 年約1,800時間の削減を見込む【試算】
別府市 自治体 市民意見メールの要約と分類 約2週間が約2日に【実感】
当別町 自治体 議事録の作成 2〜3時間が約30分に【実感】
大隅ファーム 農業・畜産 牛舎のAIカメラによる異常検知 年約3,600万円の効果を想定【試算】

早見表は、自社に近い業務を探すための入り口です。右端の数字は、事例ごとに「何と比べたか」が違うので、行どうしを並べて大小を比べることはできません。たとえば、パナソニック コネクトの「年78.8万時間」は国内の全社員約11,800人の合計を推計したもので、横浜銀行の「年最大1万9,500時間」は融資を担当する行員だけを対象にした見込み。人数も種類も異なります。

使い方は2通りあります。1つ目は、同じ業界の行から「AIの使い道」の列を見る方法です。業界が違っても、業務が同じなら応用できます。要約の作業は医療(東北大学病院・関西医科大学)、運輸(JR西日本カスタマーリレーションズ)、金融(横浜銀行)のどれにも出てきます。2つ目は、右端の【 】内の種類を先に見る方法です。【実績】は運用後に公表された数字、【試算】や【目標】はこれから期待される数字を指します。

本記事内では、業界ごとの詳しい内容は、「業界別のAI活用事例30選」、業務ごとの整理は、「業務別のAI活用事例:業務効率化につながった使い道」に載せています。

事例の数字の読み方:実績・実証・試算・目標の違い

AI活用事例の数字は、同じ「%」や「時間」でも、中身がまったく違うことがあります。運用を続けて得た数字もあれば、数十人で試した結果もあり、これから達成したい目標の場合もあるからです。種類を取り違えると、自社の計画に過大な期待を置くことになります。

数字の種類は7つに分けて読む

事例の数字は、次の7種類に分けて読みます。

種類 意味 30事例のうち 該当する事例
実績 導入後の運用で得た数字を、事業者が公表したもの。第三者の検証や算出式の公開とは限らない 15件 パナソニック コネクト、イオンリテール、パル、メルカリ、三菱UFJニコス、オイシックス・ラ・大地、竹内製菓、大林組、LIFULL、日本通運、JR西日本カスタマーリレーションズ、ソフトバンク、KDDI、まつがく、グレイプ
実証 検証用のデータや、限られた店舗・人数で試した結果 3件 日立製作所、マルイ、東北大学病院
ABテスト 2つの案を同じ期間に並べて比べた結果 1件 オンワードデジタルラボ
試算・見込み 利用回数などから計算した推計、または導入後に見込まれる効果 5件 横浜銀行、関西医科大学、横須賀市、都城市、大隅ファーム
目標 これから達成をめざす数字 1件 三菱UFJ銀行
実感 担当者の感覚や、アンケートに基づく数字 3件 損保ジャパン、別府市、当別町
数字なし AIによる効果の数字が公表されていない。旭鉄工は全社の成果のみ 2件 旭鉄工、ENEOS

30件のうち、運用後の実績にあたるのは半数の15件です。ただし「実績」と書かれていても、比較の基準になる期間や算出式まで公表されているものは一部にとどまります。残る15件は、実証が3件、ABテストが1件、試算・見込みが5件、目標が1件、実感が3件、数字なしが2件でした。

大切なのは、種類に優劣をつけることではなく、使い道が違うと理解しておくことです。実績は「自社で期待できる水準の目安」、実証とABテストは「試す価値があるかの判断材料」、試算や目標は「社内で投資を検討するときの前提の置き方」として役に立ちます。実感は、方向をつかむ材料にとどめるのが安全です。

AI活用事例の数字を、実績・実証・ABテスト・試算・目標・実感の種類に分けて読む方法と、30事例の内訳を示した図解

数字を読み違えやすい8つの場面

事例の数字は、書かれている内容を正確に読むと、印象が変わることがあります。この記事で取り上げた事例から、読み違えやすい場面を8つ挙げます。

読み違いの場面 該当する事例 実際の中身
「最大」の値を平均と読む イオンリテール、オンワードデジタルラボ、横浜銀行、LIFULL 予測精度は「最大40%」の向上(イオン)。説明文の作成時間は「最大約5割」の短縮(オンワード)。削減時間は「最大1万9,500時間」(横浜銀行)、「最大月28時間」(LIFULL)
短くなったのは作業の一部 JR西日本カスタマーリレーションズ、日本通運 54%減は通話後の「要約」の時間で、通話全体ではない。日本通運の数字は予測の「計算時間」で、的中率ではない
比べる基準がそろっていない マルイ、イオンリテール、東北大学病院 前年比(マルイ)、既存システム比(イオン)、「ゼロから作成」と「AIの文を参考に作成」の比較(東北大学病院)
AI単独の効果ではない 旭鉄工、別府市、まつがく IoTと改善活動の全体の成果(旭鉄工)、RPAとの併用(別府市)、指導モデルの転換と同時期の変化(まつがく)
単位が違う パル セッションあたりのCVRは約2倍、ユーザーあたりは約1.6〜1.7倍
掛け算で検算できない パナソニック コネクト 利用回数361万回×1回33分は約199万時間で、公表の78.8万時間と一致しない
1回の例を平均と読む 竹内製菓 「72時間が2時間に」は復旧した1回の例で、平均ではない
想定値を実測と読む 大隅ファーム 死亡牛が14頭から9頭(約36%減)は導入後の想定で、実測ではない

表の中身を、場面ごとに補足します。

基準がそろっているかを最初に見る:マルイの和日配は、売上が前年比102%、ロス率が前年比97.5%と公表されています。前年比なので、天候や販促の違いもその中に含まれます。イオンリテールの発注時間・在庫の数字は、既存システムとの比較です。東北大学病院の47%は、紹介状や退院サマリの要約を「ゼロから書く」場合と「AIが作った文を参考に書く」場合の比較で、医師10名が2023年10〜11月に試した結果でした。同じ「短縮」でも、何と比べるかで意味が変わります。

短くなった範囲を確かめる:JR西日本カスタマーリレーションズでは、介助申込の通話後の要約が1件あたり14.1分から6.5分に、約54%短くなりました。ただし、短縮されたのは通話後の要約の時間で、電話に出ている時間は含まれません。日本通運の出荷予測も同様に、1品目の予測を計算する時間が約1〜2時間から約5分になった、という意味であり、予測が当たる割合は公表されていません。

検算できるかを試す:パナソニック コネクトは、2025年度に78.8万時間を削減したと発表しました。一方で、利用は361万回、1回あたりの削減は33分と公表されています。この2つをかけると約199万時間になり、78.8万時間とは一致しません。78.8万時間は生成AIの利用データを分析した推計とされ、33分の定義や算出方法は公表されていないため、差の理由は読み取れません。時間削減の数字は、公表された数字どうしを掛け合わせれば再現できるとは限らない、という例です。

想定を実測と取り違えない:大隅ファームの数字は、総務省の実証報告書にある導入後の想定値です。二次情報のなかには、死亡牛の減少を「38%」と記載する例がありますが、報告書の数字は14頭から9頭で、約36%です。孫引きの記事に出てくる数字は、原典で確かめる習慣をつけると、こうした取り違えを避けられます。

1人あたりに直すと、数字の大きさが比べやすくなる

「年78.8万時間」と「年最大1万9,500時間」は、そのままでは比べられません。対象人数がわかる事例に限り、1人あたり・月あたりに直してみます。

事例 数字の対象 1人あたり(月換算) 種類
パナソニック コネクト 国内の全社員約11,800人 約5.6時間(78.8万時間÷11,800人÷12か月) 実績・推計
横浜銀行 融資を担当する行員 最大で約8時間 試算
大林組(法令確認) 法令確認をする担当者(人数は非公表) 約12.6時間(週2.9時間×52週÷12か月) 実績
LIFULL CD BOOST CAMPの初期参加者(人数・期間は非公表) 最大28時間 実績

全社員の平均では月5.6時間ほどですが、特定の業務を担う人に絞ると、月8〜28時間と桁が変わります。「全員の平均」なのか「その業務の担当者」なのかで、社内で見込める削減時間は大きく違うということです。自社の試算を立てるときは、対象になる人数と、その人たちの作業量から組み立てると、現実に近づきます。なお、この表の月換算は、公表された数字を使った本記事の計算です。大林組の人数、LIFULLの人数と期間が非公表のため、あくまで目安として読んでください。

事例は成功した話が中心:調査が示す現実

事例集に載る数字は、うまくいった組織の発表が中心です。全体像をつかむには、調査もあわせて見る必要があります。

総務省の令和8年版情報通信白書によると、日本企業のうち、生成AIを「積極的に活用する」または「活用する領域を限定して利用する」方針を持つ割合は68.9%でした。前年度の企業調査の49.7%から上昇し、大企業は74.0%、中小企業は58.1%です(総務省『国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究』、2025年度企業向け調査。総務省|令和8年版 情報通信白書)。方針を持つ企業は増えています。

では、成果はどうでしょうか。パーソル総合研究所の「生成AIとはたらき方に関する実態調査」では、生成AIを使ったタスクの所要時間を、使わなかった場合と比べると、平均で16.7%(週あたり26.4分)短くなりました。一方、実際に業務時間が減った人は、利用者の約25.4%、およそ4人に1人でした(調査の発表)。16.7%は「タスク単位」、25.4%は「人単位」の数字なので、直接は比べられません。調査対象は全国の就業者とされていますが、人数や調査期間は発表の本文からは確認できないため、傾向をつかむ材料として読むのが妥当です。

この調査から言えるのは、AIで1つ1つの作業が短くなっても、それが一人ひとりの業務時間の減少にまで届くとは限らない、という点です。浮いた時間が別の仕事で埋まれば、残業時間や人件費は変わりません。事例の「削減時間」を見るときは、浮いた時間を何に使うのかが決まっているかも、あわせて確かめてください。

業界別のAI活用事例30選

ここからは、12の業界ごとに、30のAI導入事例を取り上げます。各事例は、使い道、成果の数字(種類つき)、読むときの注意、出典の順に整理しました。数字は出典に書かれている範囲だけを使い、比較の基準や期間が書かれていないものは「公表されていません」と明記しています。

製造・エネルギー業界のAI活用事例

製造業のAI活用は、社内の事務を支える生成AIと、設備や品質を見る予測・判定のAIで、成果の測り方が分かれます。前者は削減時間、後者は検出率や復旧時間のような率で示されることが多い分野です。

事例1|パナソニック コネクト:全社員が使う生成AIアシスタント

パナソニック コネクトは、国内の全社員約11,800人が使える社内向けの生成AIアシスタント「ConnectAI」を運用しています。2023年2月に生成AIの業務利用を始め、いまは議事録の作成、コード生成、ログ分析、提案書の作成支援、設計書・仕様書の作成など、個人の業務で使われる場面が広がりました。

2025年度の利用は361万回で、前年度の1.6倍。月間ユニーク利用率は61%(前年比12ポイント増)です。会社は、AIの活用で2025年度に78.8万時間(年間総労働時間の3.4%)を削減したと発表しました。今後は、経理や営業などの業務データとつないだAIエージェントを広げ、2030年には総労働時間の10%をAIで削減することをめざすとしています。

  • 成果の数字【実績・推計】:2025年度の削減時間は78.8万時間(前年の約2倍)で、総労働時間の3.4%。1回あたりの削減は33分(前年の1.2倍)
  • 読むときの注意:78.8万時間は、生成AIの利用データを分析した推計です。公表された361万回×33分は約199万時間になり、78.8万時間とは一致しません。社員数で割ると、1人あたり年約67時間(月約5.6時間)にあたります
  • 出典:パナソニック ニュースルーム(2026年7月29日)

事例2|旭鉄工:毎朝、約200ラインを判定する「AI製造部長」

旭鉄工は、自社開発のIoTシステム「iXacs」に集まる設備のデータをAIが読み取り、問題の可能性と確認すべき点を示す「AI製造部長」を使っています。毎朝、約200ラインの前日のデータを見て、ラインごとに○△×で状態を示す仕組みです。この取り組みは2024年12月の講演で語られ、マイナビ TECH+ が2025年1月に伝えました。

  • 成果の数字【数字なし】:AIだけの効果は公表されていません。全社の成果として、人件費が2015年比で年4億円減、電力使用量が2013年比で26%減と紹介されています
  • 読むときの注意:この2つは、IoTの導入と改善活動の全体の成果で、「AI製造部長」だけの効果ではありません。基準年も2015年・2013年と古いため、AI活用の効果としては読めません。データの判定をAIに先に任せる使い方を知る事例です
  • 出典:マイナビ TECH+(2025年1月8日)

事例3|日立製作所 大みか事業所:圧着端子の外観検査を画像AIで検証

日立製作所の大みか事業所は、圧着端子(電線の先端に取り付ける金具)の品質確認に、Google Cloudの画像検査AI「Visual Inspection AI」を使えるかを、概念実証(PoC)で確かめました。検証では、不良の検出率が100%、問題のないものを不良と誤る過検出が13%、判定時間は1個あたり4.5秒でした。判定時間の要件は2秒以内だったため、時間の面には課題が残っています。

  • 成果の数字【実証】:不良の検出率100%、過検出13%、判定時間4.5秒/個
  • 読むときの注意:検出率100%は検証用データでの結果で、件数は公表されていません。過検出13%を測ったテストデータには、判定が難しい例があえて含まれています。判定時間は要件の2秒以内に届いておらず、実運用の成果ではありません
  • 出典:Google Cloud ブログ(2023年3月22日)

事例4|ENEOS 川崎製油所:蒸留装置をAIが自律運転

ENEOSは川崎製油所で、原油を処理する常圧蒸留装置の運転にAIを使っています。Preferred Networks(PFN)が開発したAIが、2024年1月から連続して自律運転を行う仕組みです。重要な運転因子24項目(センサーは最大930個)を監視しながら、13のバルブを同時に調整します。他の製油所への展開も予定されています。

  • 成果の数字【数字なし】:効果の数字は公表されていません
  • 読むときの注意:数字のない事例は、規模と範囲で読みます。24項目の監視と13のバルブの同時調整は、AIに任せる範囲の広さを示す情報です。省エネや収益への効果は、この発表からは読み取れません
  • 出典:Preferred Networks(2024年5月24日、英語ページ)

小売業のAI活用事例

小売では、店舗の発注と価格、通販サイトの検索と商品説明、会社全体の開発や業務と、AIの置きどころが3つに分かれます。ここでは5社を取り上げます。

事例5|イオンリテール:発注と価格の提案を約380店舗で

イオンリテールは、約380店舗で、日本IBMと開発した2つのAIを使っています。「AIオーダー」は2023年から約1,000品目の発注数を提案し、「AIカカク」は2021年5月から約1,200品目の価格面の提案を担います。AIは案を出すだけで、最終的に決めるのは担当者です。

  • 成果の数字【実績】:AIオーダーで、発注時間が平均50%減、在庫が平均30%減、予測精度は最大40%向上。AIカカクで、ロス率が導入前から1割超低下
  • 読むときの注意:AIオーダーの数字は既存システムとの比較で、期間は公表されていません。予測精度は、来店客1,000人あたりの販売数量(PI値)の予測差で比べた「最大」の改善率です。AIカカクの比較期間も公表されていません
  • 出典:日本IBM ニュースルーム(2024年5月7日)

事例6|マルイ:日配品の需要予測を5店舗で試し、全店展開へ

マルイは、日本IBMのAI需要予測を使い、日配品の予測と発注を見直しています。2023年11月から2024年2月までの4か月の実証を経て、2024年3〜7月に一部の店舗で本稼働させ、2024年9月に全店への展開を決めました。実証の対象は5店舗の和日配・洋日配の2カテゴリです。

  • 成果の数字【実証】:客数の予測精度が月平均で90%超。和日配の販売数量の予測精度は96.3%。発注にかかる時間は50%減。和日配の売上は前年比102%、ロス率は前年比97.5%
  • 読むときの注意:発注時間50%減は、発表のなかで「店舗あたり」と「カテゴリあたり」の表記が揺れており、単位を元の発表で確かめる必要があります。売上とロス率は前年比なので、天候や販促などAI以外の要因も含みます。5店舗・2カテゴリでの数字で、全店の結果ではありません
  • 出典:日本IBM ニュースルーム(2024年9月17日)

事例7|オンワードデジタルラボ:商品検索と商品説明文にAI

オンワードデジタルラボは、通販サイト「ONWARD CROSSET」に、Google Cloudの「Vertex AI Search for commerce」を導入して商品検索を改善し、生成AI「Gemini」で商品説明文の作成を支援しています。サイトの検索は月間10万回を超えます。

  • 成果の数字【ABテスト】:検索1回あたりの購入金額が+14.2%。商品説明文の作成時間は最大約5割短縮。画像の再撮影の削減で年約200万円(試算)
  • 読むときの注意:+14.2%はABテストの結果ですが、期間とサンプル数は公表されていません。「最大約5割」は最も短くなったケースの値です。200万円は試算で、実際の削減額ではありません
  • 出典:Google Cloud ブログ(2025年12月8日)

事例8|パル:フリーワード検索の改善でCVRが約2倍

ファッション通販「PAL CLOSET」を運営するパルは、Google Cloudの「Vertex AI Search for commerce」で、フリーワード検索を改善しました。

  • 成果の数字【実績】:フリーワード検索を使ったセッションのCVR(購入に至った割合)が約2倍。ユーザーあたりでは約1.6〜1.7倍
  • 読むときの注意:比較の基準になる期間と、測り方は公表されていません。セッションは訪問1回、ユーザーは1人を単位にした数え方で、同じ改善でも倍率が変わります。どちらの単位の数字かを確認してください
  • 出典:Google Cloud ブログ(2025年12月9日)

事例9|メルカリ:全従業員がAIツールを使う開発体制

メルカリは、2026年8月5日の2026年6月期決算説明で、約2,000人の全従業員がAIツールを使っていると説明しました。エンジニア1人あたりの開発量は2年前の7.6倍、AI活用による生産性向上は49.5万時間分とされています。出品を助けるAI出品サポートなど、サービス側の機能にもAIを取り入れています。同期の売上収益は2,292億円(前期比19%増)でした。

  • 成果の数字【実績】:エンジニア1人あたりの開発量が2年前の7.6倍。生産性向上が49.5万時間分。全従業員のAIツール利用率100%
  • 読むときの注意:7.6倍と49.5万時間の算出方法は、公表されている範囲では示されていません。売上増に対するAIの貢献分も、切り分けて公表されていません
  • 出典:ITmedia ビジネス(2026年8月6日)

小売の5事例を並べると、見る指標の違いがわかります。店舗の発注と価格は「時間」と「率」(発注時間、在庫、ロス率、予測精度)、通販サイトの検索は「購入金額」と「CVR」、会社全体の開発は「開発量」と「時間」で測られています。同じ小売でも、AIを置く場所で成果の測り方が変わるため、自社でどこから試すかを決めてから、近い指標の事例を探すのが近道です。

小売・ネット通販のAI活用を、さらに詳しく知りたい方へ

金融・保険業界のAI活用事例

金融では、AIの使い道が「不正を見つける」「書類を作る」「社内の知識を探す」に集まっています。不正検知のように損失を直接測れる分野は、数字が率で出やすい一方、書類作成は削減時間で示されます。

事例10|三菱UFJニコス:カードの不正検知にAI

三菱UFJニコスは、クレジットカードの不正使用を見つけるAIを、2023年4月から本格稼働させています。2023年2月の発表では、PKSHA Technologyの不正検知AI「PKSHA Security」(SCSKがカスタマイズ)の導入が示されました。AIは、モニタリングチームが不正と判断した取引を学習する仕組みです。2020年に始まったプロジェクトには、約30名が参加しました。

  • 成果の数字【実績】:不正被害の件数と金額が、AI導入前と比べて3割以上減り、2期連続で減少
  • 読むときの注意:「3割以上」は、MUFGの紹介ページ(2025年2月現在の記載)にある数字で、2023年2月のプレスリリースには載っていません。比較の期間や対象範囲の詳細も示されていません。同じページは、業界全体では不正利用が増え続けていると述べており、その中での減少という点が判断材料になります
  • 出典:MUFG|三菱UFJニコスの不正検知、PR TIMES(2023年2月8日)

事例11|三菱UFJ銀行:提案書の知識共有と、全行向けの対話AI

三菱UFJ銀行には、性格の違う2つの取り組みがあります。1つは、LayerXの文書処理AI「Ai Workforce」を使った「提案書データレイク」です。顧客情報をマスキングして自動でタグを付け、行内で提案書の知識を共有する仕組みで、後からAIエージェントがスライド単位で情報を探して示す機能が加わりました。三菱UFJ銀行はAi Workforceの最初の導入先で、2025年9月にはLayerXに出資しています。

もう1つは、ChatGPTをベースに独自開発した対話AI「AI-bow」です。全行で利用が始まり、本部内の利用率はリリースから8か月で3倍以上になりました。

  • 成果の数字【目標】:行全体で、年間20万時間の業務量削減をめざす。AI-bowは、本部内の利用率が8か月で3倍以上
  • 読むときの注意:20万時間は「めざす」目標で、実績ではありません。対象期間と算出方法も示されていません。AI-bowの「3倍以上」は利用率の伸びで、削減時間ではありません
  • 出典:MUFG|LayerXとの取り組み(2025年12月15日)、MUFG|AI-bow(2025年10月21日)

事例12|横浜銀行:融資稟議書の作成を生成AIで支援

横浜銀行は、日本IBMと、融資の稟議書(承認を求める書類)の作成を支援する生成AIのプロトタイプを作り、6週間の検証を行いました。実際に導入した場合の削減効果は、年間で最大1万9,500時間、融資を担当する行員1人あたりでは最大で月に約8時間と見込まれています。

  • 成果の数字【試算】:年間最大1万9,500時間(行員1人あたり最大で月約8時間)の削減見込み
  • 読むときの注意:検証で測った実績ではなく、実装した場合に見込まれる最大の値です。自社に当てはめるときは、融資担当者の人数と1件あたりの作成時間から、自社の数字で計算し直す必要があります
  • 出典:IT Leaders(2024年11月8日)

事例13|損保ジャパン:機械学習の実験をAIエージェントが自動化

損保ジャパンは、機械学習モデルを改善する実験の工程に、AIエージェントを使っています。対象は、検索用のモデル「おしそん LLM」です。実験の工程をAIエージェントが自動化し、一部の実験では最大1週間かかっていた1サイクルが、約1日で回るようになりました。

  • 成果の数字【実感】:一部の実験で、最大1週間かかっていた1サイクルが約1日に
  • 読むときの注意:現場の実感に基づく所要時間の変化で、条件をそろえた比較ではありません。モデルの精度がどれだけ上がったかは、公表されていません。実験が速く回ることと、成果物の質が上がることは別の話です
  • 出典:Google Cloud ブログ(2026年7月27日)

医療のAI活用事例

医療では、診療記録から紹介状や退院サマリなどを作る「要約」が先行しています。医師や看護師の確認が欠かせない分野なので、数字と一緒に「誰がどう確認するか」を見ておく必要があります。

事例14|東北大学病院:紹介状・退院サマリの要約をNECの生成AIで支援

東北大学病院とNECは、電子カルテの情報をもとに治療経過の要約を生成AIが作り、医師が紹介状や退院サマリなどを書くのを支援する仕組みを検証しました。NECが開発した医療テキストの分析AIが、症状、検査結果、経過、処方などを時系列に整理し、NECのLLMが要約文を生成します。生成された要約には、引用元の電子カルテの記載が結びつけて表示されるため、医師は根拠をすぐに確認できます。

  • 成果の数字【実証】:要約文の作成時間が平均47%短縮。文章の表現と正確性は「高い評価」
  • 読むときの注意:2023年10〜11月に、一部の診療科の医師10名で試した結果です。「ゼロから新規に作成する」場合と「AIの要約を参考に作成する」場合の比較で、AIの文章を医師が修正した件数や内容は、発表に記載がありません
  • 出典:東北大学 プレスリリース(2023年12月13日)

事例15|関西医科大学:看護サマリーなどの作成を3病院で補助

関西医科大学は、日本IBMと、電子カルテの情報から看護サマリー、退院サマリー、外来サマリーの作成を補助する文書作成AIを導入し、3病院で実運用を始めました(2026年7月8日発表)。看護サマリーの作成は、従来の約30分から約5分に短縮できるとされています。

  • 成果の数字【試算・見込み】:看護サマリーの作成が、約30分から約5分へ
  • 読むときの注意:記事は「短縮可能」という表現で、実測値か見込みかは判別できません。測定の条件や対象件数も示されていません。医療従事者が出力文をどう確認・修正するかも、記事には書かれていません
  • 出典:MONOist(2026年7月28日)

食品業界のAI活用事例

食品では、販売側の文章づくりと、製造現場の設備の保全という、性格の違う2つの使い道を取り上げます。

事例16|オイシックス・ラ・大地:メルマガの作成と校正を生成AIで

オイシックス・ラ・大地は、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」で、メールマガジンの作成ツールと校正ツールを、2024年7月から10月にかけて構築しました。稼働後は、月間の作業時間が作成で133時間、校正で200時間減っています。稼働前には、AIが書いた文面と人が書いた文面を、約5万通の配信で比べるABテストを行いました。

  • 成果の数字【実績】:月間の作業時間が、作成で133時間、校正で200時間減(合計333時間)。稼働前のABテストでは、AI作成の文面のCVRが人の約2倍
  • 読むときの注意:削減の基準になる稼働前の作業時間は公表されていません。CVR約2倍は稼働前の検証(約5万通)の結果で、運用後の数字ではありません
  • 出典:AWS 導入事例|オイシックス・ラ・大地

事例17|竹内製菓:コンベアの音で故障の予兆を検知

竹内製菓は、約10本のチェーンコンベアの稼働音をAIに学習させ、故障の予兆を検知する仕組みを2023年4月から本格稼働させています。異常の正解データを用意せずに音のパターンを学ばせる「教師なし学習」を使い、設備が止まる前に手を打てるようにしました。復旧にかかる時間は「72時間から2時間」になったと紹介されています。

  • 成果の数字【実績・単一事例】:故障からの復旧が、約72時間から2時間に
  • 読むときの注意:約3日かかると見込まれた復旧が、予兆の検知によって約2時間で済んだ1回の例です。平均や、全体の削減率ではありません
  • 出典:AWS 導入事例|竹内製菓

建設・不動産業界のAI活用事例

建設と不動産では、法令や図面、社内規程のように「読んで確認する」仕事にAIが入り始めています。確認の時間が測りやすいので、時間の数字が出やすい分野です。

事例18|大林組:法令の確認と、BIMの問い合わせ対応

大林組には、AIを使った建築分野の取り組みが2つあります。1つは、Tektomeと取り組んだ法令・条例の確認です。確認にかかる時間が、1人あたりの週平均で4.3時間から1.4時間に、約67%短くなりました。

もう1つは、BIM(建物の3次元モデルを使う設計・施工の手法)ソフトのRevitに関する社内の問い合わせに、AIエージェントが答える仕組みです。約1.5か月で最小限の試作版(MVP)を作り、最初の回答の精度は約8割。いまは試験運用の段階です。

  • 成果の数字【実績】法令確認:週平均4.3時間が1.4時間に(約67%減)。【試算】BIM問い合わせ:Revit利用者300人を想定して、年間約19,000時間の削減を見込む
  • 読むときの注意:法令確認の対象人数と期間は公表されていません。年約19,000時間は利用者数を仮定した試算で、試験運用中の数字です。回答精度の約8割は、残りの約2割を人が補う必要があるとも読めます
  • 出典:BUILT(2026年8月24日)、BuildApp News(2026年7月8日)

事例19|LIFULL:全社の生成AI活用と、現場主導の業務改善

不動産・住宅情報サービスを運営するLIFULLは、生成AIの利用率が96%に達しています(2025年12月の発表)。2026年2月からは、全従業員の生成AI活用度を測る指標「LIFULL AI Compass(LAIC)」、現場で業務改善を主導する人材を認定する「シチズンデベロッパー(CD)認定制度」、課題の企画から効果測定までを実践する育成プログラム「CD BOOST CAMP」を、本格的に運用しています。半年間で約5万時間を生み出したとしています。

  • 成果の数字【実績】半年で約5万時間を創出。CD BOOST CAMPの初期参加者は、業務時間を31〜88%削減(最大で月28時間)。【試算】認定開発者が100人いれば、月7,380時間(年88,560時間)。【目標】3年で業務効率を2倍に
  • 読むときの注意:「約5万時間」と「31〜88%」は、対象人数と期間が公表されていません。月7,380時間は「認定開発者100人」という仮定を置いた試算、業務効率2倍は目標です。1つの発表のなかに実績・試算・目標が並んでいるので、数字ごとに種類を分けて読みます
  • 出典:LIFULL プレスリリース(2026年3月25日)

運輸・物流業界のAI活用事例

運輸・物流では、荷物の量を予測する仕事と、お客様対応の記録を作る仕事という、2つの使い道を取り上げます。

事例20|日本通運:AIで出荷量を予測するサービス

日本通運は、AIで出荷量を予測するサービス(DCXの「Business Insight」)を、2025年4月から提供しています。品目ごとの出荷予測にかかる計算時間は、従来の約1〜2時間から約5分になりました。予測できる期間は最長6か月です。

  • 成果の数字【実績】:予測の計算時間が、約1〜2時間から約5分に。予測期間は最長6か月
  • 読むときの注意:短くなったのは「計算時間」で、予測の精度ではありません。精度と導入先の企業名は公表されていません。物流の需要予測は、精度の数字が出てはじめて、実務上の比較ができます
  • 出典:日本通運 プレスリリース(2026年5月14日)

事例21|JR西日本カスタマーリレーションズ:通話の要約を生成AIで

JR西日本カスタマーリレーションズは、同社に月約7万件寄せられる電話の内容を、ELYZAの生成AIで要約しています。通話後の要約の作業は月約4.9万件、時間にして月約1,700時間(4〜8月の平均)にのぼります。1件あたりの要約時間は、区分によって次のように変わりました。

通話の区分 従来の要約時間 AI利用後 短縮率
介助申込 14.1分 6.5分 約54%
意見・要望 13.4分 10.6分 約21%
問い合わせ 2.2分 1.8分 約18%

3つの区分を並べると、元の所要時間が長い区分ほど、短縮率が高くなっています。もとの時間が14.1分と長かった介助申込は、AIの下書きで削れる時間が大きく、2.2分で済んでいた問い合わせは、短縮が0.4分にとどまりました。自社で要約や記録の業務にAIを入れるときは、まず「元の所要時間が長い区分」から試すと、数字の差が見えやすくなります。

  • 成果の数字【実績】:区分ごとの通話後の要約時間(上の表)。月約4.9万件・約1,700時間の要約作業が対象
  • 読むときの注意:短縮されたのは通話後の要約の時間で、電話対応の全体時間ではありません。要約時間の短縮が、顧客満足度や応答率にどう影響したかは、この発表には書かれていません
  • 出典:ITmedia NEWS(2023年9月29日)

通信・IT業界のAI活用事例

通信では、全社員に一斉にAIを使わせる取り組みと、お客様対応の改善が中心です。社内の利用の広がりと、対応時間の短縮が、別々の数字で示されます。

事例22|ソフトバンク:全社員が1人100個のAIエージェントを作る

ソフトバンクは、2025年6月から、全社員が1人100個のAIエージェントを作ることを目標にしています。2025年8月末までに作られたAIエージェントは250万を超えました。同年9月のアンケート(回答9,207人)では、約9割が「AIへの理解が深まった」と答えています。

  • 成果の数字【実績】:AIエージェントの作成数が250万超(2025年8月末)。アンケートで約9割が「理解が深まった」と回答
  • 読むときの注意:時間の削減や売上への効果は、この発表では公表されていません。エージェントの作成数とアンケートの回答は、活用の広がりを示す数字で、成果そのものではありません
  • 出典:SBニュース(2025年12月4日)

事例23|KDDI:LINE問い合わせと応対品質管理を生成AIで

KDDIは、お客様対応で生成AIを使っています。LINEの「auサポート」では、生成AIが問い合わせの内容を要約し、足りない情報があれば聞き返します。対応時間は約5分、割合では約20%短くなりました。応対品質の管理にも、音声認識と自動評価を組み合わせたAIを使い、年約24,000時間の工数削減と、顧客満足度の3.6ポイント上昇(84%)が報告されています。

  • 成果の数字【実績】:LINE問い合わせの対応時間が約5分(約20%)短縮。応対品質管理で年約24,000時間削減。顧客満足度が3.6ポイント上昇して84%
  • 読むときの注意:「約5分」「約20%」は短縮した幅で、もとの対応時間は示されていません。年約24,000時間の算出方法と、満足度の測定期間・比較の対象も示されていません
  • 出典:MUGENLABO Magazine(2025年12月3日)

教育のAI活用事例

教育は、AIを「教える側の資料づくり」に使う例と、「生徒の学習そのもの」に使う例に分かれます。ここで取り上げるのは後者です。

事例24|超個別指導塾まつがく:AI教材で個別学習

長野県を中心に29教室を運営する「超個別指導塾まつがく」は、AI教材「atama+」を2019年に導入しました。2020年からは、定額型の個別指導へ指導モデルを切り替えています。atama plusの発表(2024年6月11日)では、国公立大学の合格者数が2020年度の6名から2024年度は42名に、生徒数は2020年から2023年にかけて18%増えたとされています。

  • 成果の数字【実績・因果は未検証】:国公立大学の合格者が、2020年度6名から2024年度42名に。生徒数は2020〜2023年で18%増
  • 読むときの注意:教材会社による発表です。合格者数の増加には、生徒数の増加と、2020年からの指導モデルの切り替えも影響しているため、AI教材だけの効果とは言えません。6名と42名が、延べ人数か実人数かの定義も示されていません
  • 出典:atama plus ニュース(2024年6月11日)

メディア業界のAI活用事例

メディアでは、記事を書くこと以前の「校正」や「分類」のような下流の作業で、AIの内製が進んでいます。

事例25|グレイプ:校正とタグ付けのツールを数日〜2週間で内製

Webメディアを運営するグレイプ(月間約1.8億PV)は、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」とClaude 3.5 Sonnetを使い、記事の校正ツールを約2週間、記事に付けるタグの選定ツールを約3日で作りました。

  • 成果の数字【実績・自己申告】:校正の工数が60%減、タグ選定の工数が20%減
  • 読むときの注意:自社の申告で、工数の測り方や比較した期間は公表されていません。一方、ツールを数日から2週間で内製できた点は、小さく始めるときの参考になります
  • 出典:AWS ブログ(2025年1月27日)

自治体のAI活用事例

自治体の事例は、総務省がまとめた「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<別冊付録> 先行団体における生成AI導入事例集」(令和6年7月)が基本の資料です。この資料の数字は、見込み、推計、職員の実感が混在しているため、ここでも種類を分けて読みます。

事例26|横須賀市:ChatGPTを全庁で本格導入

横須賀市は、2023年6月に、生成AI(ChatGPT)を全庁で本格的に導入しました。文章の作成や企画立案、Excelの関数、システム連携用のコードの作成などに使います。市の発表(2023年6月5日)によると、実証の期間に約半数の職員が活用し、最終アンケートの回答者の約8割が「効率が上がる」と感じ、継続して使いたいと答えました。

事例27|都城市:文書の作成・校正・要約に生成AI

都城市は、2023年7月から、文章の作成・校正・要約、アイデア出し、Excelの関数やマクロの作成に生成AIを使っています。全庁で年間約1,800時間の削減を見込んでいます。

  • 成果の数字【試算・見込み】:全庁で年間約1,800時間の削減を見込む
  • 読むときの注意:実際の利用状況からの推計です。横須賀市は「利用人数×1件あたりの効果」で計算しており、算出の考え方が違います。2市の数字を並べて、規模の大小を比べることはできません
  • 出典:総務省 先行団体における生成AI導入事例集(令和6年7月)

事例28|別府市:市民意見メールの要約・分類にRPAと生成AI

別府市は、2023年11月から、文章案やアイデア出しに加え、RPAと組み合わせた市民意見メールの要約・分類に生成AIを使っています。約2,600件の分類作業が、従来の約2週間から約2日になったとされています。実証後のアンケートでは、87%の職員が効率の向上を見込むと答えました。

  • 成果の数字【実感】:約2,600件の分類が、約2週間から約2日に。アンケートで87%が効率向上を見込む
  • 読むときの注意:作業時間は職員の実感で、RPAとの併用の結果です。AI単独の効果は切り分けられていません。87%はアンケートの回答割合で、実際に測った削減率ではありません
  • 出典:総務省 先行団体における生成AI導入事例集(令和6年7月)

事例29|当別町:議事録の作成を生成AIで

北海道の当別町は、2023年10月から、AIによる議事録作成とChatGPTによる議事録の要約、広報文書の作成に生成AIを使っています。議事録の作成にかかる時間は、2〜3時間から約30分になったと職員が実感しています。実証期間中のアンケートでは、8割以上が継続して使いたいと答えました。

  • 成果の数字【実感】:議事録の作成が、2〜3時間から約30分に。8割以上が継続利用を希望
  • 読むときの注意:議事録の作成時間は職員の実感で、測定した値ではありません。「継続して使いたい」は庁内アンケートの結果です。町の規模でも使えた例として、導入のハードルを考える材料になります
  • 出典:総務省 先行団体における生成AI導入事例集(令和6年7月)

自治体の4事例は、規模も使い方も似ていますが、数字の出し方は市ごとに違います。横須賀市と都城市の「年間の削減時間」は見込みとして、別府市と当別町の「作業時間の短縮」は実感として扱うのが妥当です。自治体で導入を考える場合は、総務省の事例集が「見込み」「推計」「実感」を表に分けて載せているため、数字の前提を確かめながら、近い規模の団体を参考にできます。

農業・畜産のAI活用事例

農業・畜産では、人手が足りない見回りの仕事にAIカメラを使う実証が進んでいます。

事例30|大隅ファーム:牛舎のAIカメラで異常を検知

鹿児島県の大隅ファームは、総務省の令和4年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」で、牛舎のAIカメラによる異常検知を試しました。牛房ごとにIPカメラ(大隅ファームで1,008台、18棟)を置き、AIが映像を分析して、起立困難の牛などを見つけます。検知後は、見回りロボットが遠隔で詳しい状況を確認します。

  • 成果の数字【試算・想定】:死亡牛が、人による見回りの14頭から、導入後は9頭へ(約36%減)。見回り費用の軽減約2,400万円と、死亡・緊急出荷の回避約1,200万円で、年間約3,600万円の効果を想定
  • 読むときの注意:すべて導入後の想定値で、実測ではありません。AIの検知率は、この実証では測定されておらず、令和5年度に精度を高める予定とされています。二次情報には死亡牛の減少を「38%」と記載する例がありますが、原典の数字は約36%です
  • 出典:総務省 令和4年度 開発実証 成果報告書 概要版(令和5年3月)

業務別のAI活用事例:業務効率化につながった使い道

業界別に見てきた30事例を、AIに任せた「業務」で並べ直します。業界が違っても、同じ業務なら数字の出方が似ているためです。AIによる業務効率化の事例を探している方は、自社で時間のかかっている業務の行から読んでください。

業務 該当する事例 数字の例 主な指標
文書の作成・要約 東北大学病院、関西医科大学、JR西日本カスタマーリレーションズ、横浜銀行、グレイプ、オイシックス・ラ・大地、当別町 要約時間が平均47%減(東北大学病院)、14.1分が6.5分に(JR西日本)、月333時間減(オイシックス・ラ・大地) 作業時間、短縮率
問い合わせ・顧客対応 KDDI、JR西日本カスタマーリレーションズ、別府市 LINE対応が約5分(約20%)短縮、応対品質管理で年約24,000時間(KDDI) 対応時間、満足度
需要予測・発注 イオンリテール、マルイ、日本通運 発注時間が平均50%減(イオンリテール)、和日配の予測精度96.3%(マルイ) 発注時間、予測精度、ロス率
検査・異常検知・監視 日立製作所、竹内製菓、旭鉄工、ENEOS、三菱UFJニコス、大隅ファーム 不良検出率100%・過検出13%(日立製作所)、不正被害が3割以上減(三菱UFJニコス) 検出率、過検出率、被害額、復旧時間
調べもの・分析・開発の補助 大林組、損保ジャパン、三菱UFJ銀行 法令確認が週4.3時間から1.4時間に(大林組) 確認時間、実験の所要時間
検索・販売促進 オンワードデジタルラボ、パル 検索あたり購入金額+14.2%、CVR約2倍 購入金額、CVR
全社での利用拡大 パナソニック コネクト、メルカリ、LIFULL、ソフトバンク、横須賀市、都城市 年78.8万時間(推計)、利用率61%・96%・100% 利用率、削減時間、作成数

表の右端にある「主な指標」の列に、業務ごとの違いが出ています。文書や問い合わせは「時間」、予測や検知は「率」、検索は「金額とCVR」で測られています。自社の業務で何を測るかを決めるときは、この列が出発点です。以下では、業務ごとに、数字の読み方と確認したい点を整理します。

文書の作成・要約:数字が出やすく、始めやすい

文書の作成と要約は、この記事の30事例のうち10件以上に登場する、もっとも多い使い道です。元になる文書があり、AIが下書きを作り、人が直す。入力と出力がはっきりしているため、前後の時間を測りやすく、数字も出やすい業務です。

東北大学病院は、要約の作成時間が平均47%短くなりました。JR西日本カスタマーリレーションズは、介助申込の要約が14.1分から6.5分になっています。オイシックス・ラ・大地のメルマガ作成・校正は、月に合計333時間の削減です。医療でも金融でも自治体でも、同じ型の業務で数字が出ています。

確認したいのは、短縮の中に「人が直す時間」が入っているかどうかです。東北大学病院は「ゼロから書く」場合と「AIの要約を参考に書く」場合を比べています。AIの要約を参考に文書を仕上げるまでの時間と比べているので、実際の作業に近い比べ方です。一方、関西医科大学の「約30分が約5分」は、測定の条件が示されていません。自社で試すときは、AIの出力を人が確認して直し終わるまでを、1件の所要時間として測ります。

問い合わせ・顧客対応:全体の時間か、一部の時間かを見る

問い合わせ対応では、KDDIがLINEの「auサポート」で、対応時間を約5分、割合で約20%短縮しました。もとの対応時間は公表されていませんが、約5分が約2割にあたることから、25分前後だったと逆算できます(本記事の計算で、公表された数字ではありません)。JR西日本カスタマーリレーションズの54%は、通話後の要約の時間です。

JR西日本の数字には、電話に出ている時間は含まれません。KDDIの「対応時間」は、どの工程の時間なのかが公表されていません。短縮の対象が、お客様とやり取りする時間なのか、前後の作業なのかで、サービスの質への影響は変わります。お客様の満足度を落とさずに時間を縮められたかは、別に確かめる必要があります。KDDIは、応対品質管理の取り組みで顧客満足度が3.6ポイント上昇して84%になったと報告しており、時間と満足度を一緒に見る設計の参考になるでしょう。

需要予測・発注:精度の測り方が事例ごとに違う

イオンリテールは発注時間が平均50%減、在庫が平均30%減、マルイは和日配の販売数量の予測精度が96.3%でした。日本通運は、出荷予測の計算時間を約1〜2時間から約5分にしています。イオンリテールは、AIが案を出し、決めるのは担当者という運用です。

注意したいのは、「予測精度」の定義が事例ごとに違うことです。イオンリテールは来店客1,000人あたりの販売数量(PI値)の予測差、マルイは月平均の客数予測精度と販売数量予測精度で、日本通運は精度そのものを公表していません。単純に数字を並べて比べても意味がなく、自社のデータで同じ定義の精度を測り直す必要があります。向いているのは、品目数が多く、毎日の判断が必要な業務です。品目数が少なく、発注が週1回で済むような業務では、削れる時間そのものが小さくなります。

検査・異常検知・監視:「見逃し」と「誤報」を両方見る

日立製作所の画像検査は、不良の検出率が100%でしたが、問題のないものを不良と誤る過検出が13%ありました。検出率だけを見ると申し分ない数字でも、過検出が多ければ、人が再確認する手間が増えます。異常検知の事例を読むときは、「見逃さない力」と「誤報の少なさ」を必ず組みで確認してください。

大隅ファームは、AIの検知率そのものを実証では測っていません。竹内製菓の「72時間が2時間に」は、予兆の検知が復旧時間を縮めた1回の例にとどまります。三菱UFJニコスの不正検知は「被害の件数と金額が3割以上減」という損失の数字で、業界全体では不正利用が増えている中での結果です。検査や検知の効果は、検出率、誤報、復旧時間、被害額のうち、自社が守りたい指標を決めてから、事例を選ぶのが近道です。

全社での利用拡大:利用率と削減時間は別の指標

パナソニック コネクトの利用率は61%、LIFULLは96%、メルカリは100%です。ソフトバンクは、全社員が1人100個のエージェントを作ることを目標にしています。全社に広げる事例では、まず「使われているか」が数字になります。

ただし、利用率が高いことと、時間が減ったことは別の話です。パナソニック コネクトは、利用率、利用回数、1回あたりの削減時間、年間の削減時間を別々に公表しています。この分け方は、どこまでが事実でどこからが推計かを見分ける手がかりです。自社で全社展開を進めるときも、利用率と削減時間を別の指標として追い、浮いた時間をどの業務に回すのかを決めておくと、02で触れた「利用者の4人に1人しか時間が減らない」状況を避けやすくなります。

生成AIと予測・判定AIで、測る指標が違う

業務別に見ると、AIの種類によって、事例で使われる指標がはっきり分かれます。

AIの種類 主な使い道 事例で使われた指標 該当する事例
生成AI 文書の作成・要約、問い合わせ、社内アシスタント 作業時間、削減時間、利用率 東北大学病院、JR西日本、パナソニック コネクト、KDDI
予測・判定のAI 需要予測、不正検知、外観検査 予測精度、検出率、被害額、ロス率 イオンリテール、マルイ、三菱UFJニコス、日立製作所
検索・推薦のAI 商品検索 購入金額、CVR オンワードデジタルラボ、パル
自律運転・AIエージェント 設備の運転、実験の自動化、社員による作成 実験の所要時間、作成数 ENEOS、損保ジャパン、ソフトバンク

生成AIは、人の作業を置き換える性格が強いため、「時間」で測られます。予測・判定のAIは、人の判断を支える性格が強く、「精度」や「被害額」で測られます。この違いを知らずに、予測AIの事例に「時間削減」を求めたり、生成AIの事例に「精度」を求めたりすると、見たい数字が見つかりません。

30事例を種類で分けると、生成AIを使った主な事例は、パナソニック コネクト、オンワードデジタルラボ(商品説明文)、三菱UFJ銀行(AI-bow)、横浜銀行、東北大学病院、オイシックス・ラ・大地、LIFULL、JR西日本カスタマーリレーションズ、KDDI、グレイプ、横須賀市、都城市、別府市、当別町です。予測・判定のAIは、日立製作所、イオンリテール、マルイ、三菱UFJニコス、竹内製菓、日本通運、大隅ファーム。旭鉄工とENEOSは、データの判定や設備の運転をAIが担う使い方です。「生成AIの活用事例」を探している方は、前者の事例から読み進めてください。

生成AIは作業時間、予測・判定のAIは精度や被害額で効果を測ることを、事例の指標とあわせて示した図解

30事例から見える、成果が出た導入の共通点

数字の読み方と業務別の整理を踏まえて、30事例に共通する進め方を5つに絞りました。どの点も、公表された内容から確認できる範囲だけを根拠にしています。

共通点 該当する事例 自社への置き換え
対象を絞って始め、広げている マルイ(5店舗・2カテゴリで4か月の実証、その後に全店展開を決定)、東北大学病院(医師10名)、関西医科大学(3病院)、大林組(MVPを約1.5か月で作成し、試験運用)、竹内製菓(約10本のコンベア) 1つの業務・1つの拠点から始め、数字が出てから範囲を広げる
比べる基準を先に決めている イオンリテール(既存システムとの比較)、オンワードデジタルラボ(ABテスト)、オイシックス・ラ・大地(約5万通のABテスト)、東北大学病院(ゼロから作成との比較)、JR西日本(区分別の前後比較) 導入前の数字と、測り方を先に記録する
人の確認が仕組みに入っている イオンリテール(AIは案を出し、決めるのは担当者)、東北大学病院(引用元の電子カルテの記載を併記)、三菱UFJニコス(AIがモニタリングチームの判断を学習) AIの出力を、誰が、何を見て確認するかを決める
利用率と削減時間を分けて追う パナソニック コネクト(利用率61%、利用回数、1回33分、年78.8万時間)、LIFULL(利用率96%、活用度の指標LAIC) 「使われているか」と「時間が減ったか」を別の指標にする
数字がなくても範囲を明確にしている 旭鉄工(約200ラインを毎朝判定)、ENEOS(24項目を監視し、13のバルブを調整) AIに任せる範囲と、人が見る範囲を言葉にする

表の1行目から順に補足します。

対象を絞る点は、失敗の影響を小さくする意味があります。マルイは5店舗の2カテゴリで4か月試し、結果を見て全店展開を決めました。大林組のBIM問い合わせ対応は、約1.5か月で試作版を作り、試験運用に進んでいます。

基準を先に決める点は、数字の信頼性に直結します。オンワードデジタルラボやオイシックス・ラ・大地はABテストで、東北大学病院は「ゼロから作成」との比較で、同じ条件の2つを並べて測っています。基準を後から探すと、前年比のように、AI以外の要因が混ざる比べ方になりがちです。

人の確認を組み込む点は、東北大学病院のように、間違いの影響が大きい分野ではっきり設計されています。東北大学病院は、生成された要約に引用元の電子カルテの記載を結びつけて表示し、医師が根拠を確認できるようにしました。AIの出力を人が確認する手順が、成果の数字と同じくらい重要な設計要素です。

利用率と削減時間を分けて追う点は、全社に広げた事例で目立ちます。パナソニック コネクトは、利用率61%と利用回数、1回あたりの削減時間、年間の削減時間を別々に公表しました。LIFULLは利用率96%と活用度の指標、メルカリは利用率100%と開発量、ソフトバンクは作成数とアンケートでの理解度を示しています。「使われているか」と「成果が出たか」を分けて追うことが、数字の読みやすさにもつながっています。

数字がなくても、旭鉄工は約200ラインを毎朝判定すること、ENEOSは24項目を監視して13のバルブを調整することと、AIに任せる範囲を具体的に示しています。数字のない事例は、この範囲の書き方を参考にできます。

この30事例から読み取れないこと

最後に、30事例だけでは分からないことも挙げておきます。

  • うまくいかなかった事例:公表されるのは成功した話が中心で、中止や縮小になった取り組みは含まれません。02で見た調査(利用者の約25.4%しか業務時間が減っていない)のような、全体の実態とあわせて読む必要があります
  • 費用と投資回収:参照した公表資料は、導入費用の総額や回収期間まで示していないものがほとんどでした。削減時間が人件費でいくらになるかは、自社の単価で計算します
  • 業界ごとの優劣:金融が製造より成果が出やすい、といった比較はできません。事例の数も、基準も、対象業務も揃っていないためです

AI活用の始め方と、導入後の確認方法

事例を読み終えたら、自社で最初に試す業務を決めます。事例に共通していた進め方を、5つの手順にまとめました。

AI活用を始める5つの手順(業務の書き出し、絞り込み、基準値の記録、小さな検証、広げる判断)を事例の注記つきで示した図解

手順1:時間のかかっている業務を書き出す

業務ごとに、「月の件数」と「1件の所要時間」を書き出し、かけ合わせて月の総時間を出します。JR西日本カスタマーリレーションズは、月約4.9万件の要約作業が月約1,700時間に達していました。件数が多く、総時間が大きい業務ほど、AIで短縮できる時間の絶対量も大きくなります。

手順2:条件に合う業務を1つに絞る

最初の業務は、次の4つの条件でふるいにかけます。

条件 理由 事例での例
件数が多い 1件の短縮が小さくても、合計で効果が見える JR西日本の通話要約(月約4.9万件)
結果を数字で測れる 効果を判断し、続けるかを決められる イオンリテールの発注時間・在庫
間違えても人が確認できる 誤りが出ても、お客様や取引先に届く前に直せる 東北大学病院の引用元つきの要約
扱うデータの範囲を決められる 個人情報や機密の扱いを、先に決められる 三菱UFJ銀行の提案書データレイク(顧客情報をマスキング)

4つがそろわない業務は、後回しにして構いません。反対に、件数が月に数件しかない業務は、AIで短縮できる総時間が小さく、検証の手間が効果を上回りやすくなります。

手順3:導入前の基準値を取る

AIを入れる前に、同じ業務の所要時間を、導入後と同じ測り方で記録します。平均だけでなく、区分ごとの数字も取っておくと、効果の出る場所が見えます。JR西日本は、通話を3つの区分に分けて前後を比べたことで、元の時間が長い区分ほど短縮率が高い、という傾向を読み取れました。

測る単位もそろえます。パルのように、セッションとユーザーで倍率が変わる指標は、どちらで測るかを先に決めます。AIの出力を直す時間も、所要時間に含めて測ってください。

手順4:小さく検証する

対象の人数と期間を決めて、小さく試します。事例で確認できる検証の期間は、横浜銀行が6週間、東北大学病院が2023年10〜11月の約2か月、大林組のBIM問い合わせ対応が試作版の約1.5か月、マルイが4か月でした。

検証を始める前に、続けるかどうかの条件も決めておきます。たとえば「所要時間が2割以上短くなり、人が直す量が増えていなければ続ける」といった形です。基準を先に置くと、結果が思わしくなかったときも、感覚ではなく数字で判断できます。比べ方は、オイシックス・ラ・大地のようなABテスト、前後比較、前年同期比のうち、AI以外の要因が混ざりにくいものを選びます。

手順5:広げるかどうかを判断し、結果を確認する

検証の結果が出たら、対象を広げるかを判断します。広げたあとは、次の項目を定期的に確認します。

確認項目 見る数字 事例での測り方
使われているか 利用率、利用回数 パナソニック コネクト(利用率61%、361万回)、LIFULL(利用率96%)
1回あたりの効果 作業時間の前後 JR西日本(区分別)、東北大学病院(ゼロから作成との比較)
全体の効果 対象人数×回数×1回の効果 パナソニック コネクト(年78.8万時間の推計)
品質は保たれているか 修正の量、誤報、見逃し 日立製作所(過検出13%)、東北大学病院(正確性の評価)
浮いた時間の行き先 他の業務への配分、残業や費用の変化 パナソニック コネクト(2030年に総労働時間の10%削減が目標)
AI以外の要因 前年比や季節の影響 マルイ(前年比の数字)、まつがく(指導モデルの切り替え)

表の最後の2行は、見落とされがちな項目です。時間が減っても、その分が別の仕事で埋まれば、組織としての負担は変わりません。また、売上や合格者数のように結果に多くの要因が絡む指標は、AIの効果だけを切り出すのが難しくなります。AIの効果として報告するときは、「AI以外の要因が混ざっている」と書き添えるほうが、社内での信頼を得やすくなります。

AI導入後に、利用率・1回の効果・全体の効果・品質・浮いた時間・AI以外の要因を定期確認するサイクルを示した図解

W2のAI活用:W2 Commerceのコンテンツ・検索・分析

ここまでの事例のなかには、商品検索(パル、オンワードデジタルラボ)、記事やメルマガの制作(グレイプ、オイシックス・ラ・大地)のように、ネット通販の運営でも使える領域があります。W2は、コマースプラットフォーム「W2 Commerce」で、AIを組み込んだ1,000以上の機能を標準で搭載しています(W2のAI活用ガイド)。必要に応じて、AI関連の拡張プラグインを追加できる構成です。

AI関連の拡張プラグイン6種

W2の拡張プラグインのページでは、AI関連の6つが紹介されています(拡張プラグインの一覧)。

プラグイン 領域 主な機能(ページの記載)
Co-Media コンテンツ管理(CMS) 通販サイトと同じドメインで記事を管理し、SEO評価の分散を防ぐ。記事に商品ブロックを埋め込み、記事と商品ページの間で相互に送客する。生成AI検索向けの構造最適化にも対応
Reco-Media レコメンド 協調フィルタリング、ニューラルエンジン、コンテンツベースの3つのAIロジックを組み合わせ、訪問者ごとの商品を表示する。最大5パターンのABテストと、売上・ROASの計測に対応
Media-DRIVER コンテンツ運用(SEO・GEO最適化) キーワードの推薦から構成案、本文までをAIで制作する。公開済み記事のSEO診断とリライト案の生成、AI検索での自社の引用・言及の分析に対応
UGC intelligence UGC・レビューの統合 購入後のレビュー投稿を促すメールの自動送信、SNSからのUGC収集、AIによるレビューの採点と優先表示、VOC・NPS分析に対応
Data Insight BI・データ分析 売上・顧客・商品・在庫の分析テンプレートを標準搭載。次に取るべき施策を提案し、売上・利益への影響を試算する
Finedee AI検索・購買支援 「防水で軽いもの」のような曖昧な表現でも商品を検索できる。検索結果がゼロの場合は、類似商品を代替候補として示す。ABテストと、UIパーツごとの成果測定に対応

本記事の事例と近い領域を対応させると、次のようになります。検索の改善はパルやオンワードデジタルラボと同じ領域で、W2ではFinedeeが該当します。訪問者ごとの商品表示はReco-Media、記事や商品説明文の制作はグレイプやオイシックス・ラ・大地の使い方に近いMedia-DRIVERの領域です。数字を見て次の施策を決める点は、Data Insightの役割にあたります。

ただし、事例の成果は、それぞれの会社の条件で得られた数字です。W2の機能を使って同じ結果になることを示すものではありません。1つの業務に絞って基準値を取り、小さく検証する進め方が、どの製品でも出発点になります。

W2 Commerceの製品と、AIの相談先

W2 Commerceは、BtoC、定期販売、BtoB、海外ECに対応するコマースプラットフォームです。BtoC向けのW2 Commerce Unified、サブスク・定期通販向けのW2 Commerce Repeatなど、事業の形に合わせて選べます。W2 Commerce Repeatの紹介ページでは、顧客の属性や行動履歴をAIが解析して最適なコンテンツを提案する機能も案内されています。

自社の課題に合わせたAI施策の設計から、開発・導入まで進めたい場合は、AIカスタマイズ開発 AI buddyも用意されています。W2 Commerceの上で、データとAIをつなぐAIエージェント基盤「W2 SmartHub」は、2026年9月15日に正式にリリースされました(W2 SmartHubのプレスリリース)。

AI活用事例に関するよくある質問

Q. AI活用事例のなかで、もっとも成果が大きかったのはどれですか?

順位はつけられません。数字の対象も基準も、事例ごとに違うためです。パナソニック コネクトの「年78.8万時間」は全社員約11,800人の推計、大林組の「週4.3時間が1.4時間」は法令確認をする担当者1人の平均で、規模が違います。1人あたり・月あたりに直すと、約5.6時間(パナソニック コネクト)、最大約8時間(横浜銀行)、約12.6時間(大林組)、最大28時間(LIFULL)と、対象が絞られるほど数字が大きくなります。自社に近い業務と規模の事例を選び、数字の種類と基準を確かめて参考にしてください。

Q. 中小企業や小さな組織でも、AIを活用できますか?

対象を絞った使い方なら、始められます。総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIを「積極的に活用する」または「領域を限定して活用する」方針を持つ企業の割合は、大企業が74.0%、中小企業が58.1%でした。事例では、北海道の当別町が議事録の作成に使い、2〜3時間かかっていた作業が約30分になったと職員が実感しています。竹内製菓は、約10本のコンベアの音を対象にしました。小さな組織でも、対象を絞れば始められることは、これらの事例が示しています。

Q. 生成AIと従来のAIは、事例ではどう使い分けられていますか?

文書の作成・要約・問い合わせ対応では生成AI、需要予測・不正検知・外観検査では予測・判定のAIが使われています。測る指標も、生成AIは作業時間、予測・判定のAIは予測精度や被害額と、異なります。

Q. AIを導入しても、業務時間が減らないのはなぜですか?

パーソル総合研究所の調査では、生成AIを使ったタスクの所要時間は平均16.7%短くなった一方で、実際に業務時間が減った人は利用者の約25.4%でした。タスク単位で短くなっても、浮いた時間が別の仕事で埋まれば、業務時間の合計は変わりません。導入の前に、削減する時間をどの業務に回すのかを決め、「浮いた時間の行き先」を定期的に見てください。

Q. 導入にはどのくらい費用がかかりますか?

この記事で参照した公表資料は、導入費用の総額まで示しているものがほとんどありませんでした。費用は、対象にする業務の量やツールの種類によって変わります。検証の段階(6週間から4か月ほど)の費用と、本番運用の費用を分けて見積もり、手順1で出した月の総時間と、社内の人件費の単価から、削減額の目安を計算して比べるのが現実的です。

Q. 事例の数字を社内資料に使うときは、何に気をつければよいですか?

数字の種類(実績・実証・試算・目標)、比べた基準、出典、公表日を併記してください。「最大」の値は「最大」と書き、平均と混ぜないようにします。孫引きの記事は避け、原典で確かめるのが安全です。たとえば、死亡牛の減少は、二次情報で「38%」とされる例がありますが、総務省の報告書では約36%の想定値です。三菱UFJニコスの「3割以上」は、2023年2月のプレスリリースではなく、MUFGの紹介ページに載っています。

Q. 小売業やネット通販の事例を、もっと詳しく知りたいのですが。

ネット通販サイトでのAI活用の全体像は【2026年版】ECサイトのAI活用完全ガイドで、小売業の事例の深掘りは小売のAI活用事例で扱っています。W2のAI活用例は、拡張プラグインの一覧からご覧いただけます。

まとめ:次にとる行動

AI活用事例は、製造・小売・金融・医療・食品・建設・物流・通信・教育・メディア・自治体・農業の12業界で、成果の数字が出ています。ただし、30事例のうち運用後の実績は15件で、残りは実証、ABテスト、試算、目標、実感、数字なしです。「最大」の値、前年比、AI以外の要因が混ざった結果、作業の一部だけが短くなった数字など、読み違えやすい場面も多くありました。

業務別に見ると、文書の作成・要約が最も数字を出しやすく、予測・判定のAIは精度や被害額で、全社展開は利用率と削減時間で、それぞれ測られています。成果が出た事例に共通するのは、対象を絞って始めたこと、比べる基準を先に決めたこと、人の確認を仕組みに入れたこと、利用率と削減時間を分けて追ったことでした。

次にとる行動は、次の3つです。

  1. 早見表から、自社に近い業務の事例を2〜3件選ぶ:数字の種類と、比べた基準を確認する
  2. 自社の1つの業務について、月の件数と1件の所要時間を書き出す:導入前の基準値として記録する
  3. 6週間から数か月の小さな検証を行う:同じ測り方で前後を比べ、続けるかを数字で決める

AIコマースの全体像はAIコマースとは?、ネット通販でのAI活用はECサイトのAI活用完全ガイドで、それぞれ整理しています。

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この記事の監修者

この記事の監修者
樽澤寛人 マーケティング部 部長

神戸大学在学中にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行、広告運用、物流手配に至るまで、EC運営の全工程をハンズオンで経験。売上を大きく伸ばしたのち、事業譲渡を実現。
大学卒業後はW2株式会社に新卒入社し、現在は、ECプラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進を担う。一貫してEC領域に携わり、スタートアップから大手企業まで、あらゆるフェーズのEC支援に精通している。

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