テックメディア:イベントレポート

ECからのキャリアはどう進めるのか? 〜4℃デジタルマーケ部長が語るキャリア選択と組織づくり〜
2026.08.12

ECからのキャリアはどう進めるのか? 〜4℃デジタルマーケ部長が語るキャリア選択と組織づくり〜

「Commerce Hack」とは「commerceの常識をhackし、未来の顧客体験を創造する」ことを目指す EC・リテール向けメディアです。

毎月1回のライブ配信にメーカーや小売業・EC支援企業のキーパーソンをお招きし、企業戦略や成功体験を“裏話”とともに共有。従来の枠を超えた斬新なアイデアや視点、“現場にそのまま持ち帰れる”実務ノウハウなど多様なコンテンツを提供しています。

今回は、2026年4月15日に実施された「【Commerce Hack第19弾】ECからのキャリアはどう進めるのか? 〜4℃デジタルマーケ部長が語るキャリア選択と組織づくり〜」の配信コンテンツを記事にしてお届けします。

変化の激しいEC業界において、EC責任者はどこまで自分の役割を広げ、いつ次のキャリアへ踏み出すべきなのか。

そのヒントは、商品の魅力を生み出す「プロダクト視点」と、快適な購買体験を提供する「顧客視点」を融合させ、ブランド全体の価値を高めていくキャリアの歩み方にありました。

「4℃」をはじめとするジュエリーブランドを展開する株式会社エフ・ディ・シィ・プロダクツは、どのように人材を育成し、EC部門の枠を超えたデジタルマーケティング戦略を描いているのか?

今回は、営業や商品企画を経てEC部門へ異動し、現在はデジタルマーケティング部を統括する西川氏をお招きし、ご自身のキャリアの変遷から、これからのEC人材に求められるスキルやマネジメントについて詳しく伺いました。

ゲスト紹介

株式会社エフ・ディ・シィ・プロダクツ
第1事業部 デジタルマーケティング部 部長

4℃のデジタルマーケティングを統括し、EC人材育成を牽引する西川逸人氏
<経歴> 2008年入社。営業・商品企画・ブランド運営・新ブランド立ち上げなどブランドビジネスに従事。 2020年からEC担当へ。自社ECではフルフィルメント、デジタルマーケティングを担当。 2022年サイトリプレイスを行い、コンテンツ制作、開発業務などの内製化を推進。 直近はプロモーション、CRMを含むブランド全体のデジタルマーケティングを統括。

W2株式会社
マーケティング部 部長
樽澤 寛人

対談でデジタルマーケティングや顧客体験について語るW2株式会社の樽澤寛人氏
<経歴> 神戸大学卒業。大学在学中にEC事業で起業し、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行までを一貫して手掛け、事業規模を飛躍的に拡大後、事業譲渡を実現。 2022年大学卒業後、W2株式会社に新卒入社。現在は、マーケティング部部長として、プラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進をしている。

すべての女性に美しさとときめきを。4℃が展開する多彩なブランド戦略

樽澤(W2):本日はエフ・ディ・シィ・プロダクツの西川氏をお迎えしています。はじめに貴社のご紹介をお願いします。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):当社は1972年にジュエリーブランド「4℃」ブランドを世に送り出して以来、すべての女性に美しさとときめきをお届けすることを使命としてきました。

商品のデザインから製造販売までを一貫して手掛けるSPA事業を強みに、リアル店舗とECを掛け合わせながら、唯一無二の価値を届けるブランドを目指しています。

樽澤(W2): 非常に多くのブランドを展開されていますよね。各ブランドの特徴を教えていただけますか? 

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): はい。長年お客様に寄り添ってきた主力ブランド『4℃』をベースに、若い世代にも日常的に楽しんでいただける『Canal 4℃』や、洗練された大人の女性に向けた『EAU DOUCE 4℃』を展開しています。

さらにコロナ禍前後には、サステナビリティを意識したD2Cブランド「cofl by 4℃」や、ジェンダーレスをコンセプトにした「4℃ HOMME+」、天然石の個性を楽しむ「カケラ」、そしてオンライン限定で復刻した「ルジアダ」など、細分化するお客様の価値観やニーズに合わせた多様なブランドを立ち上げています。

多様な顧客体験を提供する4℃のジュエリーブランドラインナップ

商品企画からECへの異動で見えた「プロダクト視点」と「顧客視点(UX)」の違い

樽澤(W2):それでは本日のメインテーマである「キャリア」について伺います。西川さんは営業や商品企画を経て、大きく毛色の異なるEC部門へ異動されたとお聞きしました。その背景と、感じたギャップについて教えてください。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): 2008年の入社後は営業職を経験し、その後商品企画で「Canal 4℃」のMD(マーチャンダイジング)や新ブランド立ち上げに長く携わりました。その後、自分自身の興味と、キャリアの変化を求めていたタイミングが重なり、2020年にEC部門へ異動しました。

商品企画からEC、デジタルマーケティング部へと続く4℃西川氏のキャリア変遷

異動して一番のギャップは「専門用語」でしたね。毎週のミーティングでCPAなどの横文字が飛び交い、最初は何を言っているのかまったく理解できませんでした(笑)。 

樽澤(W2): 他部署からの異動ならではの苦労ですね。EC部門での経験を通じて、最も視点が変わったのはどのような部分でしょうか?

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): 「顧客視点」と「購入体験(UX)」への意識です。 商品企画の時は「どんな良いデザインのものを作るか」というプロダクト視点が中心でしたが、ECでは「お客様にいかに心地よく買ってもらえるか」が問われます。

特にコロナ禍で店舗が閉まっている中、ECでギフトを購入されるお客様の気持ちに触れたことが大きかったです。

ジュエリーは日用必需品ではありませんが、だからこそ「気持ちを伝えたい」という想いに応え、商品を無事にお届けするまでの体験全体を丁寧に作り上げることがECの役割だと強く実感しました。

編集部コメント

作り手の熱量やブランドの世界観をデジタル上で棄損することなく顧客に届けるためには、目に触れるフロント側のデザインだけでなく、受注から配送に至るバックエンド(フルフィルメント)のシームレスな連携が不可欠です。現場の担当者が「お客様の感情にどう寄り添うか」という本質的な価値創造に100%向き合える柔軟なシステム基盤を構築すること。それこそが、ブランドの情緒的価値を最大化し、LTV(顧客生涯価値)の向上を牽引する絶対条件と言えるでしょう。

変化の激しい業界を生き抜く「EC人材」に必要な好奇心と一次情報

樽澤(W2): ECの責任者や担当者には、今後どのようなスキルや資質が求められるのでしょうか。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): 一番必要なのは「好奇心」ですね。日々新しいサービスやAIなどの技術がものすごいスピードで出てくるため、それを早くキャッチアップし、自社の状況に応じてどう導入・設定するかを考える力が必要です。また、自ら施策の手を動かし、現場で何が起きているかの理解度が高いほど、スピード感を持った判断ができると感じています。

樽澤(W2): 多忙な中で、どのように新しい情報をキャッチアップされているのですか?

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):あまり強く意識しているわけではないですが、営業の電話にはとりあえず出て話を聞いたり、打ち合わせにも行ってみるようにしています。記事などの二次情報を見るよりも、支援会社さんから直接「このサービスの違いは何なのか」「今何が流行っているのか」といった一次情報を聞き出し、色々と考えを巡らせることを重視しています。

プロダクト視点×顧客視点——部署間の壁を越えるコミュニケーション術

樽澤(W2): 商品企画とECの両方を経験された西川さんから見て、それぞれの視点の違いや連携についてどうお考えですか?

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): 商品企画は「どんな良い商品を作るか」に焦点が当たりますが、ECでは「それがどうお客様に届くか」という視点が欠かせません。例えば、箱のデザインを変えて少し大きくした結果、発送サイズが変わり無駄なコストがかかるといった、EC(届ける側)ならではの視点があります。

商品企画
(プロダクト視点)
EC
(顧客体験視点)
焦点どんないいモノを作るかお客様が同購入体験をするか
評価軸デザイン、トレンド、コンセプト買いやすさ、UX、顧客の不満点

樽澤(W2):部門間のコミュニケーションは意図的に作られているのでしょうか。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): はい。EC部門からは、お客様からの問い合わせや不具合のデータを、商品企画や生産部門に積極的にフィードバックしています。

また、ブランド担当者は自分の担当ブランドを中心に考えがちですが、ECメンバーは全ブランドを総合的に見ているため、「どうサイトで表示すれば各ブランドの価値が伝わるか」を商品部とディスカッションする機会も増えました。

編集部コメント

こうした部門間の連携を個人の経験やコミュニケーションに頼るのではなく、組織として再現できる仕組みにするには、顧客データや商品・在庫データを一元管理し、全部門で共有できるシステムが欠かせません。企画、販売、カスタマーサポートが同じ情報をもとに迅速に判断・実行できる環境を整えることで、一貫した顧客体験を提供し、ブランドの成長を支える基盤となるでしょう。

「誰に・何を・どう伝えるか」を徹底するマネジメント

樽澤(W2):デジタルマーケティング部門を統括される中で、チームのマネジメントとして意識されていることは何ですか。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):シンプルですが、「誰に・何を・どう伝えるのか」を強く意識して物事を進めることです。というのも、日々の業務の中では、どうしても「この施策をやりたい」という手段が先に決まってしまいがちだからです。そのため弊社では、特集ページを作る際も、まずはメンバーに「誰に」「何を」伝えたいのかを書き出してもらうようにしています。ターゲットが決まれば、商品の見せ方も、SEOで狙う検索キーワードも自然と定まってくるからです。

最適な顧客体験を創出するための「誰に・何を・どう伝えるか」という思考プロセス

樽澤(W2):なるほど、ターゲットを起点に考える文化が根付いているんですね。ちなみに、メンバーの「キャリア」や「やりたい事」も把握した上で施策を任せているのですか?

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): そうですね。各メンバーのキャリアの志向や今足りていないスキルを踏まえて、「ここができるようになったから、次はこの領域もやってみようか」と、柔軟に役割分担をしながら任せています。

物流からCSまで一気通貫で理解する。市場価値の高いEC人材の育成

樽澤(W2): 若手の育成やマネジメントにおいて、特に重視している視点を教えてください。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): 現在のECチームは20代の若手が中心ですが、彼らには、まずEC全体の流れを理解してもらうことを強く意識しています。サイトでお客様を集めるところから、物流、そしてカスタマーサポートまで、全体のフローで何が起きているかを把握することが重要です。

集客から顧客対応まで一気通貫で理解する次世代EC人材育成の図解

樽澤(W2): 一部の業務だけでなく、全体を横断的に理解できる人材は業界でも貴重ですね。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):はい。業界内では業務が分業化されていることが多いですが、一連のバリューチェーンを理解できる人材は非常に強みになります。将来的に他の部署や環境に出ても活躍できるような、普遍的なスキルを持ったメンバーに育ってほしいと強く思っています。

思い描いていたキャリアとのギャップと、全社を巻き込む次なる挑戦

樽澤(W2): 西川さんが当初思い描いていたキャリア像と、現在ご自身が歩まれているキャリアに違いはありますか?また、今後の挑戦についても教えてください。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): 元々は商品企画の道を究め、ブランドの責任者としてブランドを成長させるのが目標でした。 しかしEC部門へ異動し、デジタルを中心に「どうやってお客様にブランドの価値を伝えていくか」を考えることに楽しさを感じるようになりました。ブランドを主役として引っ張るよりも、ブランドをサポートする立場でこうした役割を担っていく方が、自分自身の性格にも合っていると感じましたね。

今後の挑戦としては、デジタルとマーケティングの基礎知識を、一部の専門部署だけのものにせず、商品企画や店舗運営、生産部門など「全社の下地」として浸透させていくことです。

樽澤(W2): デジタル領域での挑戦という文脈では、AIの活用なども推進されているのでしょうか?

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ): はい、昨年から全社で海外製のAIサービスを導入し、活用と浸透を模索しています。 現在の中高生が社会に出る頃には、AIを使いこなすのが当たり前になっています。

かつて「それググれないの?」と言われた時代があったように、10年後には新入社員から「AIも使えないの?」と言われる時代が必ず来ると思っています。その時のスピード感のギャップを生まないためにも、今から我々世代がAI活用の下地を作っておくべきだと強く危機感を持っています。

全社の共通基盤としてデジタルマーケティングとAIリテラシーを浸透させる構想

EC責任者の枠を超える。全チャネルを横断する「顧客体験のブリッジ」と究極のパーソナライズ

樽澤(W2): 確かに、テクノロジーの変化のスピードを考えると、待ったなしですね。最後に、今後のEC責任者やマネージャー陣に求められる役割について、西川さんのお考えを教えてください。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):ECはあくまで、お客様が自身のニーズに合わせて選ぶ「利便性の高い購入場所の1つ」にすぎません。ですから、EC担当者は「どうやってECの売上をあげるか」というテクニックだけに特化すべきではありません。

店舗であってもECであっても、ブランドとして変わらない購買体験をどう作るか。 店舗の接客で見える「お客様の表情」などの定性情報と、デジタルで取れる行動履歴の定量データを掛け合わせ、顧客体験をブリッジ(橋渡し)していく総合力が求められていると感じます。

樽澤(W2): 顧客体験を高める上で、今後エフ・ディ・シィ・プロダクツとして目指している理想のサイト構想はありますか?

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):そうですね。ジュエリーは、女性がご自身のために買われることもあれば、男性がギフト目的で購入される比率も非常に高い商材です。 しかし現状は、ニーズも見る視点も異なるはずのお客様に対して、同じデザイン・同じ購買導線のサイトを届けてしまっています。

理想を言えば、女性が入ってきたときと、男性がギフトを探しに来たときとで、サイトのデザインや購買導線が「動的に変わる(パーソナライズされる)」仕組みを作りたいです。 すぐに実現できるものではありませんが、時間をかけてでも必ず達成したい面白い挑戦だと思っています。

樽澤(W2): 最後に、今後のEC責任者やマネージャー陣に求められる役割について、西川さんのお考えを教えてください。

西川(エフ・ディ・シィ・プロダクツ):ECはあくまで、お客様が自身のニーズに合わせて選ぶ「利便性の高い購入場所の1つ」にすぎません。ですから、EC担当者は「どうやってECの売上をあげるか」というテクニックだけに特化すべきではありません。

編集部コメント

この「究極のパーソナライズ(顧客の意図に合わせた動的なサイト変化)」を絵に描いた餅で終わらせないためには、フロントエンド(UI/UX)の高い柔軟性と、それを裏で支える顧客データ(定量・定性)のリアルタイム統合が不可欠です。一人ひとりのコンテキストを瞬時に読み取り、最適な接客をデジタル上で自動展開できる「拡張性の高い統合コマース基盤」を持つこと。それこそが、チャネルの壁を越えてお客様の心を動かし続ける、これからの時代のトップブランドの条件と言えるでしょう。

樽澤(W2):OMO、キャリア構築、組織づくりから、未来のパーソナライズ構想まで、これからのEC人材にとって非常に学びの多いお話をありがとうございました。

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