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アジアマーケット最前線!コーセー台湾が語る消費者・商習慣・ブランドのリアル
2026.08.08

アジアマーケット最前線!コーセー台湾が語る消費者・商習慣・ブランドのリアル

「Commerce Hack」とは「commerceの常識をhackし、未来の顧客体験を創造する」ことを目指す EC・リテール向けメディアです。

毎月1回のライブ配信にメーカーや小売業・EC支援企業のキーパーソンをお招きし、企業戦略や成功体験を“裏話”とともに共有。従来の枠を超えた斬新なアイデアや視点、“現場にそのまま持ち帰れる”実務ノウハウなど多様なコンテンツを提供しています。

今回は、2026年3月19日に実施された「アジアマーケット最前線!コーセー台湾が語る消費者・商習慣・ブランドのリアル」の配信コンテンツを記事にしてお届けします。

アジア市場は今、日本企業にとって大きなチャンスである一方、競争環境や顧客行動は急速に変化しています。

なかでも台湾は、「超親日」を追い風に日本ブランドが受け入れられやすい一方で、百貨店流通の圧倒的な強さ、まとめ買い文化、K-beauty(韓国コスメ)の台頭など、日本市場とは明らかに異なる独自の構造を持つマーケットです。

今回は、コーセー台湾(台湾高絲股份有限公司)の董事長兼総経理を務める石川 茂樹をお招きし、現地法人運営の経験から見えてきた台湾市場の捉え方、日本ブランドの強み、日本と台湾の商習慣や消費者意識の違いについて、現場視点と経営視点の両面から率直にお話を伺いました。

市場データだけでは見えない「現地での判断軸」、日本ブランドが持つ可能性と向き合うべき課題、そしてVIP戦略やプレミアム市場の作り方など、海外展開に限らず、これからのブランドづくりや顧客戦略を考える上での実践的な示唆が詰まったセッションです。

ゲスト紹介

ゲスト:
コーセー台湾(台湾高絲股份有限公司)
董事長 兼 総経理 石川 茂樹

台湾市場のリアルとマーケティング戦略を解説する、コーセー台湾(台湾高絲股份有限公司)董事長兼総経理の石川茂樹氏
<経歴> 新卒で株式会社コーセーに入社。国内営業を経て、本社企画部門に長く従事。その後シンガポール現地法人への駐在を経て、現在はコーセー台湾(台湾高絲股份有限公司)の董事長兼総経理として赴任中。2026年で台湾赴任3年目を迎える。

W2株式会社 マーケティング部
部長 樽澤 寛人

コーセー台湾の石川氏に対談のインタビューを行う、W2株式会社マーケティング部長の樽澤寛人氏
<経歴> 神戸大学卒業。大学在学中にEC事業で起業し、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行までを一貫して手掛け、事業規模を飛躍的に拡大後、事業譲渡を実現。 2022年大学卒業後、W2株式会社に新卒入社。現在は、マーケティング部部長として、プラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進をしている。

台湾は「プレミアム市場」が主役。百貨店文化が生む独自の構造とは

樽澤(W2): 本日は、現地でコーセー台湾を率いる石川様に、台湾市場のリアルについて伺っていきます。まず、現在の台湾と日本を比較したときに、最初に感じる一番大きな違いはどこにありますか?

石川(コーセー台湾): はい。まず前提として、弊社は台湾ですでに40周年を迎える比較的クラシカルな販売をしてきた会社ですので、その立場からお話しします。

化粧品マーケットという枠で見ると、台湾は「プレミアム市場」が非常に大きいというのがまず明確な特徴です。化粧品業界は、百貨店などで対面販売するプレミアム市場と、ドラッグストアなどでセルフ購入されるマス市場に大別されますが、日本・中国・韓国がマス中心であるのに対し、台湾はアジアで珍しくプレミアムが強い市場なんです。

それを支えているのが百貨店流通です。台北の信義エリア、市政府駅前の商圏には、百貨店が約10店舗ずらっと並んでいます。新宿や渋谷でも10店舗が徒歩圏に集中することは考えにくいですよね。しかもそれぞれが商売として成立している。つまり、それだけ「百貨店で買う」ことが台湾の消費者に根付いているということです。

樽澤(W2): たしかに日本とはかなり違いますね。百貨店特有のセールも大きいと伺いました。

石川(コーセー台湾):その通りで、年2回の大型セールは化粧品業界にとって非常に重要です。3〜5月の「母親節セール」、9〜11月の「周年セール」など、セール初日は仕事を休んで並ぶお客様がいるほど盛り上がります。

また年間の売上構成比で見ても、プレミアムブランドにとってセールは外せないタイミングです。プレミアムブランドの場合は価格を大きく下げるわけではないのですが、購入特典(GWP)などが充実するため、お客様側もこの時期に狙いを定めて購入されます。

GWPとは: Gift With Purchase の略で、一定金額以上購入したお客様にプレゼントする購入特典のこと。化粧品業界では、ポーチやサンプルセットなどが代表例。

中国インバウンド消失・K-beauty台頭・超円安市場を揺さぶる3つの変化

台湾市場を揺さぶる3つの逆風。中国インバウンド消失、K-beauty(韓国コスメ)台頭、日本へのアウトバウンド加速

樽澤(W2): 近年、台湾市場で「明確に変わった」と感じるポイントはありますか?

石川(コーセー台湾):大きく3つあります。

1つ目は中国インバウンドの消失です。コロナ禍以前は、中国大陸から台湾を訪れるお客様による売上比率がかなり大きかったのですが、現在も団体旅行での渡航が再開しておらず、このボリュームは戻ってきていません。この規模感の消失を現地需要だけで埋めるのはかなり大変です。

2つ目はK-beauty(韓国コスメ)の急伸です。ここ1〜2年、特に2025年は顕著でした。K-POPの人気と連動する形で、韓国ブランドのポップアップや韓国系流通そのものが台湾に次々と進出しています。ただし、ターゲットが若年層にフォーカスされているため、市場が伸びているのはマス寄りの中低価格帯が中心で、韓国の百貨店ブランドは苦戦気味といえます。

3つ目が超円安によるアウトバウンドの加速です。2025年1月だけでも台湾から日本へ渡航した人数は約68万人で、年間では延べ800万人規模となります。これは台湾の人口約2,300万人のおよそ3分の1が日本を訪れる計算で、当然、日本滞在中に化粧品も購入されるため、台湾現地の売上にも影響が出ています。

アウトバウンド/インバウンドとは: 小売・観光業界では、自国民が海外に出て消費することをアウトバウンド、海外から自国に来た消費者の購買をインバウンドと呼ぶ。

「まとめ買いが正義」合理的な台湾の消費者行動

日本と台湾の消費者行動の違い。台湾進出では「まとめ買い」を促す合理的な販促設計が正解であることを示す図解

樽澤(W2): 台湾の消費者行動で、日本と明確に違う点はありますか?

石川(コーセー台湾):台湾はとにかく「まとめ買い文化」が強いです。「1枚買うより2枚、2枚買うより3枚の方が安い」という訴求に、消費者が非常に合理的に反応します。

身近な例で言うと、ドリンクスタンドでM/Lを選ぶとき、日本人は無意識にMを選びがちですが、台湾の方に聞くと「絶対にLを買え、Mは損だ」と口を揃えて言うんです。確実に使うものはお得なタイミングでまとめて買うという判断が合理的に働いています。

この行動は百貨店のセールでも顕著で、普段愛用している美容液や化粧水を1年分まとめて購入するお客様が珍しくありません。日本ではなかなか想定しにくい購買行動ですよね。

樽澤(W2): たしかにそうですね。まとめ買いといえば、コストコも日本より売れていると聞きました。

石川(コーセー台湾):はい、台湾にもコストコが10数店舗ありますが、1店舗あたりの売上が日本よりも高いそうです。大容量まとめ買い前提の業態と、台湾消費者の購買志向がぴったり合っているわけですね。日本では大容量商品を小分けしてくれる代行業者なども人気ですが、台湾の消費者は大容量のままで買っていきます。

つまり台湾でビジネスを行う企業は「その瞬間に最大限買っていただく」設計で販促を組むのがもっとも合理的な戦略です。一般のセルフドラッグストアでも「2個買うと1個プレゼント」のような施策が日常的に行われており、こうした訴求に対する反応速度と確度が非常に高いのが台湾市場の特徴です。

編集部コメント

台湾には特有の合理的で旺盛な「まとめ買い」文化が根付いています。この大きな購買意欲を確実な売上へと繋げるためには、現地の商習慣に即した複雑なキャンペーン施策を、デジタル上でスムーズに再現できるシステム基盤が不可欠です!「セットプロモーション」や「購入金額に応じた特別なプレゼントの付与」といった現地のニーズに合わせた販促を、現場のオペレーションに負担をかけることなく自動化する仕組みが求められます。各国の多様な購買行動に柔軟に適応しつつ、常に安定した顧客体験を提供できる「拡張性の高いコマース基盤」を構築することこそが、国境を越えてブランドの成長を牽引する絶対条件と言えるでしょう!

【見せ方・気候・IPタレント】台湾向けの調整ポイントとは

台湾市場に向けた化粧品プロダクトとプロモーションの最適化。高湿度な気候、タレント起用、キャラクターIPの3つのポイント

樽澤(W2): 台湾向けの商品の見せ方やブランディングで、日本と異なる点や調整すべき点はありますか?

石川(コーセー台湾):いえ、基本的には超親日国なので、見せ方自体は無理に変える必要はありません。ただし、いくつか押さえておきたい調整ポイントがあります。

1つ目は気候への対応です。台湾は一年を通して日本の梅雨時期並みの高湿度のため、日本人が「しっとりしていて良い」と感じるコスメの質感は台湾の方からは「べたつく」と感じられることがあります。さっぱりした使用感の商品を主軸に据えるなど、訴求ラインナップのチューニングは必要です。

2つ目はタレント起用の考え方です。日本では有名な芸能人を起用しても台湾で爆発的に反響することは正直ほとんどありません。一方で韓国アイドルは現在も非常に強いんですね。音楽やカルチャーの影響力分布が以前とは変わっているため、起用対象は冷静に見極める必要があります。

3つ目がキャラクターIPの強さです。サンリオや「ちいかわ」のようなキャラクターIPは年齢性別を問わず非常に人気です。ポップアップが開催されると整理券が数十秒で完売することも珍しくないほどで、キャラクターIPとのコラボは、台湾市場でビジネスチャンスを生む有効な選択肢です。

成功事例に学ぶ~VIP施策とローカル登用

樽澤(W2): ここまで台湾市場の特徴を解説していただきましたが、その知見を活かしてコーセー台湾で取り組まれた成功事例や、他の日本企業の事例などを教えていただけますか?

石川(コーセー台湾):はい。まず弊社で行ったのが、高級ブランド「DECORTÉ(コスメデコルテ)」のVIP向けキャンペーンです。1個約13万円のシンボリックな高級クリームを対象に、VIP層へ丁寧にアプローチし直したところ、前年比約400%(約4倍)の売上を記録しました。価格を極端に下げたわけではなく、対象を絞り込み、特別なご案内を届けたことが奏功した形です。

個人的な取り組みとして、VIPのお客様に中国語で手書きのレターもお送りしています。文面はスタッフに作ってもらい、最後のサインは私自身が書いて感謝を伝える。対象は数十名規模ですが「会社の責任者が直接感謝を伝える」行為そのものが、プレミアム市場における顧客との関係性を深めてくれると感じています。

もう1つの取り組みは、ローカルスタッフの経営層登用です。昨年、企画営業部門のトップとしてローカル人材を副総経理(副社長)に登用しました。すると、その効果で部門の一体感が増し、現地スタッフ全体のモチベーションも大きく上がりました。日系企業としてはやや踏み込みが必要な判断ですが、結果的に、組織運営において非常に重要な転換点になったと考えています。

そのほか、マスブランドではドン・キホーテ台湾の成功事例があります。日本のドンキで台湾の方がよく購入している売場を分析し、それをそのまま台湾のドンキでも再現したところ、売り上げが伸びたという事例があります。ワンフェイスずつ並べるのではなく、売れ筋を抽出して大量陳列するというドンキの業態に合わせた販売提案が成功につながりました。

今からでもチャンスはある。”超親日”を追い風にする戦略

台湾進出におけるPIF制度などの参入障壁と、親日の追い風、現場の一次情報を重視するマーケティングの鍵

樽澤(W2): 最後に、今後の台湾市場を、日本ブランドにとってどのような成長機会と捉えているか聞かせていただけますか?

石川(コーセー台湾):そうですね、台湾はすでに成熟市場なので「2倍3倍に伸びる市場」とは捉えていません。ただ、超親日というスタンスは間違いなく日本ブランドの追い風です。日本製・日本ブランドに対する信用度は、今後も大きく揺らぐことはないでしょう。

また、ビジネス上の商習慣についても、日本企業が戸惑うような大きなハードルはほぼありません。強いて言えば、化粧品業界では近年本格化した「PIF制度」への対応が必要です。法規制対応の手間は増えましたが、日本語対応可能な現地の代行業者も存在するため、準備さえ整えれば乗り越えられるハードルです。

PIF制度とは: Product Information File(製品情報ファイル)の略称。台湾で販売する化粧品について、成分情報・安全性評価・ラベル情報などをまとめた情報ファイルの作成・保管を義務付ける制度。

ただし気をつけておきたいのは「日本ブランドだから」という理由だけで売れるわけではない、という点です。

ゼロから知ってもらう苦労は少ない一方、顧客化するための継続的なブランディングは日本市場同様に欠かせないものです。これは、日本のラーメン店が台湾で成功する店と撤退する店に分かれるのと同じ構造といえます。

そして、日本ブランドの海外展開で最も強調したいのが、一次情報の大切さです。台湾は私自身が生まれ育った場所ではないので、どうしても日本の常識というフィルターを通して物事を見てしまいがちです。

だからこそ、二次情報に頼らず、必ず自分の目で現地を見て、お客様の会話を聞き、売場を肌で感じるようにしています。この姿勢が、失敗のリスクを確実に下げてくれるはずです。

編集部コメント

グローバル展開や新規市場の開拓において、「データ(定量)」と「現場の肌感(定性)」のどちらか一方に偏ることは大きなリスクを伴います。現地の売場で得られる一次情報を「仮説」として捉え、それをECや店舗から得られる顧客データで検証し、実際の施策へと素早く落とし込んでいく仕組みが不可欠です!実店舗とデジタル上の行動データを統合して一元管理できる強固なシステム基盤は、この仮説検証のサイクルを飛躍的に加速させます!それこそが、変化の激しい市場においてブランドが常に最適解を出し続けるための、最大の武器と言えるでしょう!

樽澤(W2): 本日は、台湾市場の構造から消費者行動、具体的な成功事例まで、非常に濃いお話をありがとうございました。

石川(コーセー台湾):ありがとうございました。

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