「割戻し(リベート)」という言葉を単なる値引きの一種だと捉えていませんか。実は、割戻しは取引先との関係を強固にし、自社の売上を最大化するための強力な「戦略的投資」となり得ます。
本記事では、割戻しの基礎知識から、累進的・段階的といった具体的な計算方法、経理担当者も納得する会計処理までを網羅的に解説します。さらに、システム活用によって業務負荷を下げながら販促効果を高める成功事例もご紹介します。
この記事を読み終える頃には、割戻しを単なるコストではなく、競合他社と差をつけるための有効な武器として活用できるようになるはずです。ぜひ最後までご覧ください。
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この記事の監修者
神戸大学在学中にEC事業を立ち上げ、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行、広告運用、物流手配に至るまで、EC運営の全工程をハンズオンで経験。売上を大きく伸ばしたのち、事業譲渡を実現。
大学卒業後はW2株式会社に新卒入社し、現在は、ECプラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進を担う。一貫してEC領域に携わり、スタートアップから大手企業まで、あらゆるフェーズのEC支援に精通している。
割戻し(リベート)とは?
割戻しとは、一定期間の取引額や数量があらかじめ設定した「基準」を超えた際に、売り手が買い手に対して代金の一部を払い戻す仕組みのことです。一般的には「リベート」とも呼ばれ、現金や売掛金の相殺で支払われるケースが多く見られます。
割戻しを導入する主な目的は、販売促進と取引先との関係強化にあります。一定の取引基準を達成すれば仕入れコストが下がるというインセンティブを提示することで、買い手側の購買意欲を刺激します。継続的な取引や大量購入を促す効果が高いため、メーカーが卸売業者や小売店に対して行う施策として広く普及しています。
割戻し(リベート)と関連語との違い
「割戻し(リベート)」とよく似た言葉に「値引き」や「割引」があります。いずれも「支払う金額が安くなる」という結果は同じですが、ビジネス上の目的や会計処理における意味合いは明確に異なります。これらの違いを正しく理解しておくことは、経理担当者とのスムーズな連携や、取引先とのトラブル防止のために不可欠です。この章では、それぞれの定義と違いを整理して詳しく解説します。
| 割戻し(リベート) | 値引き | 割引 | |
|---|---|---|---|
| 意味合い | 販売促進の奨励金 | 事後的な減額請求 | 早期決済の利息免除 |
| 発生理由 | 契約条件の達成 (大量購入など) |
商品・サービスの欠陥 (品質不良・数量不足等) |
期日前の支払い完了 (キャッシュフロー改善など) |
| 買い手の メリット |
売上・仕入からの控除 (収益・費用のマイナス) |
売上・仕入からの控除 (収益・費用のマイナス) |
営業外収益・営業外費用 (会計上の損益) |
割戻し(リベート)と「値引き」の違い
「割戻し」と「値引き」は、代金が安くなるという結果は同じですが、その発生理由とタイミングが明確に異なります。
値引きとは、商品に傷があったり、品質が劣っていたり、あるいは納期が遅れたりした場合などに、その埋め合わせとして売価を減額することです。つまり、商品やサービスに何らかの欠陥があった場合に発生する「事後的な減額措置」といえます。英語では「ディスカウント(Discount)」と表現されます。
一方、割戻しは販売促進を目的とした「報奨金」としての役割を持ちます。商品の品質に問題がなくても、契約上の条件を満たせば支払われる点が大きな違いです。
割戻し(リベート)と「割引」の違い
「割引」もまた、割戻しと混同されやすい用語ですが、こちらは会計上の意味合いが異なります。
割引(売上割引・仕入割引)とは、代金の支払期日よりも前に決済が行われた場合に、その期間の利息相当分を免除することを指します。あくまで早期回収を促すための金融的な取引であり、販売促進を目的とする割戻しとは区別されます。
例えば、商品をたくさん買ったから安くなるのが「割戻し」、代金を早く支払ったから安くなるのが「割引」と整理するとわかりやすいでしょう。
割戻し(リベート)の種類と計算方法
割戻しにはいくつかの種類があり、自社の戦略や商材に合わせて最適な方式を選ぶ必要があります。ここでは代表的な3つの計算方法と、現金以外での支払いについて解説します。
割戻し(リベート)方法の比較
| 累進的割戻し | 段階的割戻し | 一律的割戻し | |
|---|---|---|---|
| 定義 | 取引高が増えるほどリベート率が上昇 | 目標額の超過分のみ高い率を適用 | 取引高に関わらず一定のリベート率 |
| 具体例 | 100万円まで1% 300万円まで3% 500万円以上で5% |
基準額まで2% 超過分5% |
全取引に一律2% |
| 買い手の メリット |
|
|
|
累進的割戻し
累進的割戻しは、取引高や数量が増えるにつれて、適用されるリベート率が高くなっていく方式です。
例えば、取引高が100万円までは1%、100万円を超えて500万円までは3%、500万円を超えると5%といったように段階的に料率を引き上げます。買い手にとっては、買えば買うほど単価が安くなるメリットがあるため、取引の拡大や特定メーカーへの囲い込みを促す効果が非常に高い手法です。
段階的割戻し
段階的割戻しは、あらかじめ設定した目標額を超えた部分に対して、異なるリベート率を適用する方式などが含まれます。
累進的割戻しと似ていますが、全額に対して高い料率を適用するのではなく、あくまで「超過分のみ」に高い料率を適用するケースなどで用いられます。売り手側にとっては、急激なリベート支払額の増加を抑えつつ、買い手の目標達成意欲を維持できるという利点があります。
一律的割戻し
一律的割戻しは、: 条件を満たせば、取引高の多寡に関わらず、一定の率や額を支払う方式です。
すべての取引に対して「一律2%」のように設定するため、計算や管理が容易であるというメリットがあります。しかし、たくさん購入してもリベート率が変わらないため、買い手側が増量購入する動機づけとしては、累進的割戻しに比べて弱くなる傾向があります。
割戻し(リベート)の会計処理と仕訳
BtoB取引に携わる以上、経理担当でなくとも割戻しが会計処理上どのように扱われるかを知っておくことは重要です。ここでは基本的な仕訳パターンと、インボイス制度導入後の注意点について解説します。
売り手側の仕訳(売上割戻)
商品を販売し、後に割戻しを行った場合、売り手側では「売上割戻」という勘定科目を使用するか、または売上高から直接減額処理を行います。

一般的には、売上高のマイナスとして処理することが多いです。例えば、10,000円の割戻しを行った場合、借方に「売上割戻(または売上)」10,000円、貸方に「売掛金」10,000円を計上し、売掛金を減らす処理を行います。売上割戻を独立した費用(販売促進費など)として計上するケースもありますが、財務諸表上は売上の控除項目として扱うのが基本です。
買い手側の仕訳(仕入割戻)
商品を仕入れ、割戻しを受けた場合、買い手側では「仕入割戻」という勘定科目を使用するか、仕入高から直接減額処理を行います。

売り手側と同様に、仕入れのマイナスとして処理するのが一般的です。10,000円の割戻しを受けた場合、借方に「買掛金」10,000円、貸方に「仕入割戻(または仕入)」10,000円を計上し、支払うべき買掛金を減らします。
割戻し(リベート)を導入するメリット
割戻しは、単に商品を安く提供するだけの施策ではありません。取引先との協力関係を強固にし、競合他社との激しいシェア争いに勝つための「戦略的な武器」となります。 実際に、多くのメーカーや卸売業者がこの仕組みを活用して流通網を盤石なものにしています。ここでは、売り手企業が割戻しを導入することで得られる、ビジネス上の主要な2つのメリットを深掘りして解説します。
取引先との関係を強固にする
最大のメリットは、取引先とのパートナーシップ強化です。
小売店や卸売業者にとって、リベートは利益に直結する重要な収入源です。目標達成に応じた魅力的なインセンティブを用意することで、「このメーカーの商品を売れば自社も儲かる」という強い動機づけが生まれ、店頭での棚割りを優遇してもらえたり、販促キャンペーンに積極的に協力してもらえたりするようになります。
また、継続的なリベート契約は、他社製品への切り替え(スイッチング)を防ぐ防壁としての役割も果たします。取引先にとって他社へ乗り換えることはリベート収入を失うことを意味するため、長期的な安定取引を維持しやすくなります。
短期的な売上を創出する
「あと少し仕入れればリベート率が上がる」という状況を作ることで、買い手側の購入意欲を強く刺激できます。特に、新商品の発売時に配荷率を一気に高めたい場合や、決算期前に在庫を減らして売上目標を達成したい場合など、特定のタイミングで短期的に数字を作りたい場面において、即効性のある施策として機能します。
割戻し(リベート)を導入するデメリット
メリットの大きい割戻しですが、安易な導入は禁物です。運用には相応の管理コストがかかり、設計を誤ると利益を大きく損なうリスクも伴います。 「導入してみたものの、現場が混乱してしまった」という事態を避けるために、あらかじめ把握しておくべき2つのデメリットと課題について解説します。
事務作業の手間が増大する
取引先ごとに異なるリベート条件や料率を設定している場合、集計作業は非常に複雑になります。特に、Excelなどを使った手動計算に頼っている場合、入力ミスや計算式の誤りが発生しやすく、請求書の再発行や修正対応に追われるケースが後を絶ちません。また、計算ルールが複雑になりすぎると、特定の担当者しか詳細を把握していない「属人化」が起こりやすく、担当者の異動や退職時に大きなトラブルになるリスクも潜んでいます。インボイス制度への対応も加わり、経理・営業双方の負担は増す一方です。
BtoB ECはこのような課題を解決するするシステムとなります。以下の記事ではBtoB ECに関して詳しく解説しています。是非合わせてご一読ください。
関連記事:【2025年最新版】BtoB EC(企業間取引)とは?市場規模・メリット・構築方法を完全解説
また、以下のお役立ち資料では、業務の効率化がいかに売上向上に直結するかを詳しく解説しています。是非合わせてご覧ください。
利益率の低下を招く
割戻し(リベート)は会計上、売上のマイナス(または費用)として扱われるため、当然ながら利益率を直接的に圧迫します。「売上目標は達成したが、リベートを増大しすぎて、最終的な利益率が想定を大きく下回ってしまった」という失敗は珍しくありません。特に薄利多売のビジネスモデルの場合、わずか数パーセントのリベート設定ミスが経営の致命傷になることもあります。導入前には、「どの程度の売上増が見込めれば、リベートコストを回収できるか」という綿密な損益分岐点のシミュレーションが不可欠です。
【業界別】割戻し(リベート)の慣行と活用事例
割戻しは業界によって商慣習が異なります。ここでは代表的な2つの業界を例に、具体的な活用シーンを見ていきましょう。
h3 食品・小売業界の事例

食品メーカーとスーパーマーケットなどの小売業との間では、古くからリベート取引が活発に行われています。
一定期間の仕入総額に対する「累進リベート」に加え、「夏のビール祭り」のように期間を区切って販売数を競わせ、目標をクリアした店舗にボーナスを支払う「達成リベート」も一般的です。また、物流センターの使用料として支払われる「センターフィー」も、広義の割戻しの一種として扱われることがあります。これらは、棚割りの確保や特売チラシへの掲載を有利に進めるための重要な交渉材料となります。
卸売業務のDX化やデジタルシフトを加速するポイントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
関連記事:卸売ECサイトとは?DX化やデジタルシフトを加速するシステム構築ポイントを紹介
h3 建材・住宅設備業界の事例

建材や住宅設備機器の業界では、メーカーから商社、販売店、工務店へと続く商流の中で、多層的なリベート構造が見られます。
例えば、工務店が特定のメーカーの製品を年間で一定数以上採用することを条件に、特別な掛け率を適用したり、事後的にリベートを支払ったりする契約が結ばれます。これによりメーカーは、工務店を組織化し、安定的な受注基盤を築くことができます。
割戻し(リベート)導入時に押さえておきたいポイント3選
割戻しは売上拡大に寄与する一方で、法律や税務上の複雑なリスクを伴います。安易に導入すると、法的なトラブルや予期せぬ税負担を招く恐れがあります。運用を開始する前に、特に押さえておきたい3つのポイントを解説します。
1.独占禁止法に抵触しない基準を設定する
割戻し条件を設定する際は、独占禁止法への配慮が不可欠です。
特定の取引先に対してのみ合理的な理由なく著しく有利なリベート条件を設定したり、差別的な取り扱いをしたりすることは、「不当な差別的取扱い」として問題視される可能性があります。また、競合他社の顧客を奪うために常識外れの高額なリベートを設定することも、「不当な顧客誘引」に該当するリスクがあります。
コンプライアンスを遵守するためには、担当者のさじ加減で決めるのではなく、あらかじめ明確かつ公平な算定基準を設け、透明性のある運用を心がけることが重要です。
2.現金以外の支払いは税務上の扱いに注意する
リベートは現金(振込や売掛金との相殺)で支払われることが一般的ですが、自社製品の現物支給や、成績優秀店の旅行招待といった形で実施されるケースもあります。これらは情緒的な結びつきを強める効果がある反面、税務処理が複雑になるため注意が必要です。
例えば、旅行招待などは、事業遂行上の必要性が薄いと判断されれば、売上割戻ではなく「交際費」とみなされ、損金算入ができなくなるリスクがあります。
また、受け取る側(買い手)にとっても、現金の授受がないため会計処理が漏れやすくなります。物品等の経済的利益を受けた場合は「雑収入」として計上する必要がありますが、これを失念すると税務調査で指摘される原因となります。実施の際は、双方の経理処理について事前に確認しておくことが望ましいでしょう。
参考:国税庁│No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
3.返還インボイスを交付して消費税を調整する
割戻しは、消費税法上「売上に係る対価の返還等」に該当します。そのため、割戻し額に含まれる消費税額を計算し、売上げにかかる消費税額から控除する調整が必要です。
特に注意が必要なのが、2023年10月から開始されたインボイス制度への対応です。売り手が買い手に対して割戻しを行う際、「適格返還請求書(返還インボイス)」を交付する義務が生じました。
割戻しの明細、適用税率、消費税額などを正確に記載した書類を発行しなければ、買い手側が仕入税額控除を受けられなくなってしまいます。従来の支払通知書や請求書のフォーマットでは要件を満たさない可能性があるため、書類の整備と業務フローの見直しが不可欠です。
参考:国税庁│インボイス制度の概要
割戻し(リベート)の効果を最大化する設計と運用
割戻しを単なる「慣習としての支払い」で終わらせず、戦略的な投資に変えるためにはどうすればよいのでしょうか。重要なのは「目的の明確化」と「仕組み化」です。
目的とKPIを明確にする
ただ漫然とリベートを出し続けるのではなく、「何を達成するためのリベートか」を明確にする必要があります。
「新商品の導入店舗率を◯%にする」「前年比売上を◯%アップさせる」といった明確な目的とKPIを設定し、その達成に対する対価としてリベートを設計します。取引先に対しても、「何をすればリベートが増えるのか」という条件をクリアに示すことで、両社が同じ目標に向かって走れるようになります。
購買データを活用した分析方法や戦略については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:EC事業者が購買データの管理でできることとは?分析方法も解説
h3 アナログ管理からの脱却とシステム化を検討する
複雑な割戻し条件をExcelや手計算で管理することには限界があります。計算ミスによる信用失墜のリスクや、担当者しか計算ロジックがわからないという属人化の問題を解決するには、システムの導入が最も効果的です。
近年では、BtoB専用のECシステムを導入し、受発注業務とリベート管理などの繁雑な業務を一本化する企業が増えています。システム上で会員ランクや取引先ごとの掛け率を自動設定できるほか、ポイント機能などを活用してデジタル上でリベートに代わるインセンティブを付与することも可能です。
BtoB EC導入の完全ガイドや持続的成長のロードマップについては、以下のお役立ち資料にまとめています。ぜひ無料ダウンロードしてご一読ください。
まとめ
割戻し(リベート)は、単なる値引きではなく、取引先とのパートナーシップを強化し、売上を拡大させるための戦略的な手段です。
しかし、その効果を最大化し、かつ利益を確保するためには、累進的・段階的といった計算方法の適切な使い分けや、法規制への対応、そして正確な会計処理が求められます。さらに、複雑化する管理業務を効率化し、データに基づいた戦略を実行するためには、アナログ管理から脱却し、BtoB ECシステムなどを活用した「仕組み化」を検討する時期に来ていると言えるでしょう。
正しい知識と適切なツールをもって割戻しを活用し、貴社の営業戦略を次のステージへと引き上げてください。
とはいえ、新たなシステムの導入やECサイトの構築は、一筋縄ではいかない一大プロジェクトです。「思ったような機能がなかった」「現場が使いこなせなかった」といった事態は絶対に避けなければなりません。
そこで、実際にEC事業者から聞いたリアルな失敗談を100個集め、そこから導き出される成功法則をまとめた資料をご用意しました。システム選定のチェックポイントも網羅していますので、プロジェクトを成功に導くための「転ばぬ先の杖」として、ぜひ無料でダウンロードしてご活用ください。
割り戻し(リベート)に関するよくある質問
Q. 割戻しとキックバックの違いは何ですか?
A. 基本的な意味合いは同じですが、使われる文脈が異なります。「割戻し」は会計や税務上の正式な用語として使われる一方、「キックバック」はより広い意味で使われ、場合によっては担当者個人への不正なバックマージン(賄賂)を指すネガティブなニュアンスを含むことがあります。ビジネス上の正規の取引としては「割戻し」や「リベート」と呼ぶのが適切です。
Q. 割戻しはいつ計上すべきですか?
A. 原則として、売上が計上された事業年度内に計上します。ただし、算定基準が年間取引高など長期にわたる場合は、期末に見積額を計上し、確定した時点で差額を調整するといった処理が認められるケースもあります。詳しくは税理士や会計士にご確認ください。
Q. インボイス制度で割戻しの処理はどう変わりましたか?
A. 売り手が買い手に割戻しを行う際、「適格返還請求書(返還インボイス)」の交付が必要になりました。これにより、従来の請求書や支払通知書のフォーマット変更や、消費税額の端数処理などの厳格な対応が求められます。
































