KIRINの新規事業「YoKIRIN」 ECサイト活用でファンとクリエイターの新たなつながりを実現
キリンホールディングス株式会社
取材にご協力いただいた方
奥村 雄実 氏

目的/課題
新規事業のため短期間かつ低コストでサイト構築できるプラットフォームが必要だった
サポーターとクリエイター、パートナー企業とステークホルダーが多く、複雑なお金や商品の動きを実現できる必要があった
要件に対して柔軟に動けるシステム会社を探していた
導入効果
クリエイターとサポーターそれぞれでサイトの見え方を分けるなど、従来のECサイトとは異なる仕様も理想通りに実装
善意の輪(よきりん)を通じて、ファン、クリエイター、そして社会の三方に対して価値を産み出す仕組みを実現
1. アニメ業界への価値提供プロジェクト
普段ご担当されている業務について教えてください
現在所属しているヘルスサイエンス事業部では、健康領域における様々なプロジェクトや研究に取り組んでいます。
私自身はその中で新規事業グループに在籍しており、本サービス「YoKIRIN」を推進しています。
新規事業グループでは、各メンバーが自身のプロジェクトを持って活動しており、私も自分のプロジェクトである「YoKIRIN」だけではなく、複数のプロジェクトチームに参加しています。
また、新規事業の立ち上げの他にも、事業シナジーの獲得等に向けてベンチャー企業への投資を行う「コーポレートベンチャーキャピタル」に従事するメンバーもおります。
事業企画の立案・ディレクションから、営業・広報・渉外といった対外活動、そして予算管理・契約対応・品質管理・チーミングといった対内活動まで、事業推進に必要な業務を多岐にわたって担当しています。
新規事業を成功させるためには、ビジョンを明確に描き、仮説と意志をもって行動すること、そしてプロジェクトの進捗状況を常に把握し、必要なリソースを適切に配分・管理することが重要です。
事業責任者としては、関係者の意見を取り入れて柔軟に対応することも求められるため、日々業務に奔走していますが、その分やりがいも大きく感じています。
今回奥村様が企画を立案した「キリンビジネスチャレンジ」について教えてください
今回私が立ち上げた「YoKIRIN」は、「キリンビジネスチャレンジ」という企画に応募したことをきっかけに発足しました。
「キリンビジネスチャレンジ」は、キリンホールディングス内で行われているビジネスコンテストのような企画です。
キリングループ全体からビジネスアイデアを募集し、新規事業の創出を支援するプログラムとなっており、ボトムアップで世の中に新たな価値を創出することを目的としています。
基本的に年1回開催されており、キリングループの社員であれば誰でも応募することが可能です。
2017年から2023年の7年間で計1105件のビジネスアイデアが起案され、7件が事業化に至っています。

応募時に意識していたポイントがあれば教えてください。
特に、「キリングループでやる意味」があるかどうかについては、強く意識していました。
ビジネスである以上、一定の利益や規模が見込まれることはもちろん重要ですが、「キリンビジネスチャレンジ」では審査の際に、「キリンという会社でやる意味」が強く意識されます。
極端にいえば、とても儲かるビジネスであっても、キリングループでやる意味や提供できる価値がなければ評価されません。
今回の「YoKIRIN」は、アニメ業界への価値提供を行う事業ですが、いち個人としてできることには限界があること、キリングループのヘルスサイエンス事業が活かせることなどから、キリングループという企業でやる意味と提供できる価値があると考え応募しました。
プロジェクトの進行中も、「キリングループ」としてどんな価値が提供できるか、キリングループとしての理念に基づいているか、ということについては常に念頭において進行しました。
応募後は数度のプレゼンテーションを経て最終審査を通過し、事業検討が本格化しました。
その後、約1年の準備期間を経て、2024年春、ついに本サービスをリリースすることができました。
2. 心と体の健康を通じてアニメファンとクリエイターを繋ぐ「YoKIRIN」
「YoKIRIN」について詳しく教えてください

「YoKIRIN」は、アニメファンが直接クリエイターの健康をサポートできるサービスです。
このサービスは、弊社が提供する「YoKIRIN」をプラットフォームとして、アニメファンとアニメ制作会社・クリエイターをつなぐビジネスモデルとなっております。
ファンがサポーターとして登録し月額課金を行うと、登録している制作会社・クリエイターにポイントとして還元されます。
分配されたポイントは、サイト内で販売されている食品や飲料、サービスなど、健康をサポートするラインナップと交換が可能です。
このように、ファンが簡単・確実に制作会社・クリエイターの健康サポートに貢献できる仕組みとなっています。
また、制作会社・クリエイターからはサポートに対するリターンとして限定コンテンツが提供されます。
作品の舞台裏にまつわるコンテンツなど、ここでしか見られない情報を「YoKIRIN」サイト上で楽しむことができます。
また、制作会社・クリエイターに提供される健康サポート商品・サービスは、弊社キリングループをはじめとして、YoKIRINに込めた想いに共感いただいているパートナー企業から提供いただいています。
このように「YoKIRIN」は、アニメファン、制作会社とクリエイター、さらには健康サポートを提供するパートナー企業の3者を繋ぐ橋渡しを行うプラットフォームとなっています。

「YoKIRIN」の企画に至ったきっかけや出来事、事業に込めた思いについて教えてください
「YoKIRIN」立ち上げのきっかけは、私がいちアニメファンとしてアニメ業界、特に制作に携わる方々へサポートや恩返しをしたいと感じていたことにあります
例えばアニメ制作は複数の工程を複雑に積み重ねながら進むため、現場の労働負荷が高まりやすい構造です。
働き方改革なども踏まえ、近年改善が進みつつあるとはいえ、健康面では依然として高負荷な状態が珍しくありません。
そのような状況を知るにつけ、ファンとして何かできることはないかと考えるようになりました。
しかし、やはり個人としてできることには限界があります。
サポートする側もされる側もなるべく低負荷で持続的に参加できるような仕組みを実現するためには、企業として取り組むことが必要だと感じていました。
一方で、制作会社・クリエイター側にヒアリングを繰り返す中で、健康を維持できないと、あるいはそうした仕組みがないと制作を続けられない、ということは自覚しつつも、時間や余裕がなかったり、方法が分からなかったりといった背景から、なかなか対応できていないという問題があることがわかってきました。
そこで、ファンがクリエイターの健康をサポートし、クリエイター側は作品やリターンでファンに応えるという仕組みを考えたのが「YoKIRIN」の出発点であり、善意(よき)の輪(りん)、という想いを込めたサービス名にもなっています。
「YoKIRIN」は、企業やサポーターをつなぐプラットフォームですが、お金や商品を通じたつながりだけでなく、共感といった気持ちのつながりも重視しています。
新規事業として進める中で方向転換や改善を繰り返しながらも、根本的な思いである「相手のために何かをしたいという気持ち」は、事業の軸として一貫して持ち続けています。

また、キリンの経営方針であるCSV(Creating Shared Value)という概念も、「YoKIRIN」プロジェクトの根幹に深く根付いています。
CSVとは、自社の取り組みによって社会に価値を提供し、その結果として自社も利益を得るという考え方です。
例えば、弊社が提供している飲料「午後の紅茶」でも、持続可能な農園を目指した認証取得を支援したり、農園の子どもたちが通う学校への図書寄贈をしたりなど、人と社会に寄り添う事業活動の実現を目指しています。
「YoKIRIN」ももちろん、こうした理念に基づいており、社会貢献を意識したビジネスとして成立させていくことを目指しています。
クリエイターの体の健康をサポートすることで新たな作品が生まれる機会が増え、サポーターであるファンの皆さんの心の健康に寄与する。そしてその仕組みを様々な企業の連携を通じて展開していくことで、作品・クリエイター・社会に対して価値創出することを目指しています。
3. 豊富な機能でコストを抑えつつ、柔軟に対応できる「W2 Repeat」を採用
「YoKIRIN」の実現にあたり、どのようなシステムを求めていましたか
「YoKIRIN」は、アニメファン側と制作会社・クリエイター側の2つのサポーター層が利用するため、それぞれのサイトの見え方を分けることができ、かつプラットフォームとして1つの基盤にまとめることができる必要があります。
さらに、サブスクリプション型の課金の仕組みや、制作会社・クリエイターから提供されるコンテンツが蓄積できる仕組みも必要です。
このように、「YoKIRIN」はサービスの特性上、サイトの見え方やバックエンドでのお金・商品の動きが複雑でした。
また、既存のサービスと類似するものではなく、新しいプラットフォームとして作り上げることを重視していたため、どのようなシステムであれば実現できるのか苦慮しました。
W2を含むECカートシステムの他にも、記事・ブログ系のプラットフォームでの実現を考えたり、フルスクラッチ開発での実現も視野に入れていましたが、コストやローンチまでのスピード間などを考慮し、SaaS型のECカートシステムで実現することに決まりました。

W2を選定した決め手はなんでしたか?
構築までのスピードやコスト面はもちろん選定理由となりましたが、標準で搭載されている機能が多く、「YoKIRIN」の複雑な仕様の多くが標準機能で解決できた部分が大きな決め手となりました。
ご提案の際、営業担当の方が、「YoKIRIN」で実現したいことについて1つずつどの機能をどう使えば実現できるのかを明確に提示してくださったため、安心して依頼することができました。
また、新規事業として進めるにあたって、柔軟に対応いただけるサポート体制は必要だと考えていました。
W2では導入中のサポートの他、導入後もサポートが充実していることを弊社の別事業で導入していたことから知っていたため、サポートへの安心感も選定理由の1つとなりました。
4. キリンとアニメの融合で拡がる多方向のサービス展開
導入後について教えてください

「YoKIRIN」のローンチ後、最初に感じたのは、自身が企画したサービスが想像通り実現し、それが実際にサービスとして世に送り出すことができたという感動でした。
ありがたいことに、社内外から多くの反響がありました。
アニメファンからは「キリンがアニメの取り組みをするのが面白い」という意見や、「こういう形でサポートできる仕組みがあって嬉しい」という嬉しいお声を頂きました。
また、制作会社やクリエイターからは、アニメ業界外からの新しいアプローチであるとして、様々な形で賛同頂いています。
特に、ファンと一緒に取り組む仕組みである点に価値を感じていただいており、この事業を立ち上げる上で大切にしてきた「共感や気持ちのつながり」が伝わっていることを嬉しく思います。
また、ECのシステムを活用したことで、このサービスの仕組みを理解してもらいやすかったです。これは意外な効果でしたが、利用者に分かりやすく伝わる結果となり良かったと感じています。
一方で、ここからがスタートだとも感じています。
「なぜキリンがこんなサービスを?」という疑問が、「なるほど、いいね!」という理解・共感に転換されるよう、このサービスの意図やキリングループが取り組む意義を社内外に伝えながら、事業を成長させていくことが大切だと感じています。
サービス内容についても、まだまだ実現したいことがあるため、継続的な改善を行い、よりよいサービスにしていきたいと考えています。
現在のサービスのご状況について教えてください。

2025年6月現在、制作会社・健康サポート提供パートナーのいずれも6社にご参加頂いており、今後もサービスの認知とあわせ更なる拡大に取り組みます。
制作会社から提供されるコンテンツは、作品の設定資料やスタッフインタビュー、返礼メッセージなどを中心に配信しており、クリエイター側の意向も汲みながら、今後更に幅を広げていきたいと考えています。
その他にも、ご要望があれば随時追加していく予定です。
健康サポート商品は、主に飲料、サプリメント、食品、サービスの4種類を取り扱っております。
飲料とサプリメントに関しては、弊社の商品を中心に取り扱っており、食品については、パートナー企業の新規事業と連携して、常温保存可能な宅配食品の提供などを実施しています。
サービスでは、スポーツクラブのワンタイムチケットを提供するなど、物品に限らず健康に関連したサービスを多方面からご提供できるように取り揃えています。
今後も形式を問わず、あらゆる角度から健康を促進する商品やサービスを追加していきたいと考えています。
5. 業界を超えて、良い作品が生まれる豊かな土壌を目指す
今後の「YoKIRIN」の展望について教えてください
サービスの認知拡大により、サポーターや、サポーターである制作会社の参加数を増やし、サービスを拡大していくことが直近の目標です。
特に、制作会社の参加数を増やしていくためには、「YoKIRIN」がアニメ制作において最も重要な「人」に対するサポートであり、ファンとともに取り組むことで様々な可能性に繋がるサービスであることを知って頂くことが何より重要であると考えています。
サービスとして拡大していくことで、制作会社や、ひいては作品の権利を有する権利者・製作委員会の皆様にとっても「YoKIRIN」に参加するメリットが大きくなりますし、その結果リターンコンテンツが充実すればファンにとってもより価値を提供できるようになります。
そしてサポーター数が増加すればさらに大きな取り組みの機会が生まれると同時に、クリエイターサポートを拡大していくことにもつながります。
こうした好循環の実現に向け、今後も新たな取り組みを随時実施していく予定です。
サービス認知拡大や、提供価値向上に向けた施策はもちろん、リターンコンテンツと健康サポートについても試行錯誤を行いながら幅を広げていきたいと考えています。

また、「YoKIRIN」は現在国内のアニメ制作領域に絞った取り組みとなっていますが、領域やエリアを拡大していくことも可能だと考えています。
「善意の輪(よきりん)を通じて、ファン、クリエイター、そして社会の三方に対して価値を産み出す仕組み」が機能する領域はまだまだある、と感じています。取り組みを広げていくべく、固定観念に囚われず、様々な可能性を模索していきたいと考えています。
今後も「YoKIRIN」は、健康を通じて中長期的に文化を支えながら市場を活性化させ、新たな作品が芽吹くための豊かな土壌づくりに貢献していきます。