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ChatGPT広告解禁でECは何が変わるのか?対話型コマース時代のLLMO集客戦略
2026.03.31
イベントレポート

ChatGPT広告解禁でECは何が変わるのか?対話型コマース時代のLLMO集客戦略

「Commerce Hack」とは「commerceの常識をhackし、未来の顧客体験を創造する」ことを目指す EC・リテール向けメディアです。

毎月1回のライブ配信にメーカーや小売業・EC支援企業のキーパーソンをお招きし、企業戦略や成功体験を“裏話”とともに共有。従来の枠を超えた斬新なアイデアや視点、“現場にそのまま持ち帰れる”実務ノウハウなど多様なコンテンツを提供しています。

今回は、2025年1月、OpenAIが発表したChatGPT広告プログラムについてです。現時点では米国の一部大手企業を対象にテストが進む段階だが、AI経由での購買行動はすでに始まっています。消費者はGoogleで検索する前にChatGPTへ相談し、AIが推薦した商品をそのまま購入する流れへと移行しつつあります。

この変化はEC・リテール企業にとって何を意味するのか?本記事は、W2株式会社が主催するEC・リテール向けメディア「Commerce Hack」に登壇した株式会社LANY代表・竹内氏の解説をレポートとして公開します。

ゲスト紹介

株式会社LANY 代表取締役CEO
竹内渓太 氏

<経歴> 株式会社リクルートホールディングスにデジタルマーケティング職で新卒入社。3年間デジタルマーケティングに従事。大規模サイトのSEOを中心に、デジタル広告運用やB2Bマーケティングなど多種多様な業務を経験。その後、株式会社LANYを創業し、Webメディア・サービスサイト・データベース型サイトなど幅広いモデルのSEO改善をプレイヤーとしてサポート。現在もプレイヤーとして多くの企業のSEOコンサルティングに取り組んでいる。著書『強いSEO』『強いBtoBマーケティング』『強いLLMO』などを出版。

W2株式会社 マーケティング部 部長
樽澤 寛人 (Tarusawa Hiroto)

<経歴> 神戸大学卒業。大学在学中にEC事業で起業し、自社ECサイトの構築から販売戦略の立案・実行までを一貫して手掛け、事業規模を飛躍的に拡大後、事業譲渡を実現。 2022年大学卒業後、W2株式会社に新卒入社。現在は、マーケティング部部長として、プラットフォーム事業とインテグレーション事業のマーケティング戦略の統括・推進をしている。

ChatGPT広告とは何か。リスティング広告とどう違うのか

樽澤(W2、以下「樽澤」):
ChatGPT広告について、まずリスティング広告と何が構造的に違うのか教えていただけますか?「キーワードを設定して入札する」という従来の運用とは別物なのでしょうか?

竹内氏(LANY、以下「竹内」):
まだ管理画面を実際に触れていないので仕様の詳細は確認中ですが、構造的にはかなり異なると思っています。リスティング広告は「このキーワードにこのLPを配信する」という設計でしたが、ChatGPTには無限に近いプロンプトが投げられます。キーワード単位の制御ではなく、ユーザーのコンテキストやインテント(意図)に合わせて広告が配信される世界になるはずです。

樽澤:
ということは、運用担当者がキーワードを細かく選定するテクニカルな作業は不要になりますか?

竹内:
そうなると思います。イメージとしてはDSA(動的検索広告)やP-MAXに近い。ページの中身をAIが読み込んで、コンテキストに合わせて自動で配信していく仕様になるのではないでしょうか。URLを入れてあとはAIに任せる、という形に近づく可能性が高いです。課金モデルもCPCではなくCPM(1,000インプレッション課金)で、現在のテスト段階では1,000インプレッションあたり約9,000円とされています。

樽澤:
CPMが9,000円となると、かなり高単価ですね。

竹内:
高いですね。ただ、ユーザーが「欲しい」というタイミングで対話の中に広告が出てくるので、CPAで見ると意外と悪くない可能性もあります。ただし現状のデータではまだ検証できていないので、冷静に判断すべきだと思っています。

購買ジャーニーは「AIとの対話」で完結する時代へ

樽澤:
カスタマージャーニーの設計自体も変わると思いますか?従来の逆三角形のファネルは機能しなくなるのでしょうか。

竹内:
少し考え直す必要があると思っています。今まではファネルごとに手を打つやり方でした。認知フェーズにはディスプレイ広告、ボトムのファネルにはリスティングで刈り取る、という設計です。ところがAIとの対話は認知からコンバージョンまで1本の流れで完結してしまいます。

たとえば、肌の悩みを抱えたユーザーがAIに相談して、悩みを掘り下げてもらい、化粧水を比較して、そのまま決済まで完了する。将来的にChatGPTに決済機能が統合されれば、フルファネルがAIの中だけで動く世界が来ます。

樽澤:
そうなると、やるべきことが変わりますね。

竹内:
ファネルのどの層に何を当てるかという発想ではなく、「本当にいいプロダクトをAIに正しく学習させておけば、AIが適切なタイミングで適切な人に届けてくれる」という世界観になっていくと考えています。つまりファネル対策よりも、プロダクトの価値をAIに正確に伝える仕組みを作ることが先決です。

樽澤:
組織体制も変わりそうですね。広告担当だけでは対応しきれないと思いましたがいかがでしょうか?

竹内:
おそらく最初は広告担当がChatGPT広告を担うと思います。ただ途中で気づくはずです。「これはオーガニック側も一緒にやらないといけない」と。広告担当も、SEOの担当も、広報PRも入るAI検索最適化チームのようなプロジェクトが近未来の形ではないでしょうか。部署の壁をまず取り払うことが先決だと思います。

ChatGPT広告と相性のいい商材、相性の悪い商材

樽澤:
ChatGPT広告と相性がいい商材はどういったものになりますか。B2C全般が対象になるのか、商材のカテゴリによって向き不向きがありますか?

竹内:
AI検索全般と相性がいい商材として「高関与かつ理性的な意思決定が行われる商材」があります。じっくり比較検討するような商材はAIに向いています。逆にファッションや食品など、感覚や情緒で選ぶものは相性がよくありません。

具体的には、B2B向けSaaSプロダクト、不動産、白物家電、普通乗用車などが挙げられます。スペックや条件を比較しながら検討するような商材です。

樽澤:
ChatGPT広告は無料プランのユーザーに配信されるとのことですが、そこのターゲット層と高価格帯商材のユーザー層にズレが生じる可能性はありますか。

竹内:
そこはまだ見えていないポイントです。高価格帯の商材を買う層が無料プランユーザーに偏っているかというと、疑問もあります。CPM約9,000円という単価を考えると、高単価・高LTVの商材でないとROIが合わない可能性が高いです。ここの検証はこれからですね。

樽澤:
後からChatGPT広告を活用した場合のリスクはどう見ますか?

竹内:
広告は資産性がないので、後からでも基本的には大丈夫だと思います。ただ早期からPDCAを回した企業の方が最終的には成果を出しやすいのは言わずもがなです。

また、新しい広告プラットフォームが立ち上がる初期はCPAが取りやすいバブル的な状況になることが多いので、テスト投資の価値はあると思っています。

今からできるLLMO対策。AIに選ばれる商品ページの作り方

樽澤:
ChatGPT広告が日本で使えるようになる前に、今からできることは何でしょうか。

竹内:
結論、LLMO(Large Language Model Optimization)の対策です。AIに自社の商品を正しく認識させ、適切なコンテキストで推奨されるようにする取り組みです。これを今から積み上げておくかどうかで、ChatGPT広告が解禁されたタイミングのスタートラインが大きく変わります。

ステップ1:CEP(カテゴリーエントリーポイント)を特定する

まず、ユーザーがどんな入口でAIに問いかけてくるかを設計します。これをカテゴリーエントリーポイント(CEP)と呼びます。

たとえばダイソンの掃除機の場合、「掃除機が欲しい」という入口は当然取りに行きます。ただしAIの対話では、「ハウスダストがひどくて鼻がムズムズする」という悩みの入口からも掃除機の推薦につながります。そのエントリーポイントを事前に整備しておけば、AIがダイソンを推薦してくれる可能性が高まります。

CEPの洗い出しにはSEOキーワード分析が基本です。加えて、自社・競合のカスタマーレビューをAIに読み込ませて、実際のユーザーニーズを抽出する方法も有効です。

ステップ2:AIが重視するKBF(Key Buying Factor)を推察する

AIがあるプロンプトを受け取った時、どんな情報を根拠にして商品を推薦しているかを特定します。これがKBFです。

たとえばハーマンミラーのアーロンチェアは、「姿勢をよくする椅子が欲しい」というプロンプトに対してAIが推薦します。AIはその問いに答えるために「人間工学的に優れているか」というファクトを重視していることが推察できます。この「AIがどう考えているか」を読み解くことが次のステップです。

例えば、GeminiのThinking機能でAIの思考プロセスを観察したり、AIがRAGで走らせる検索クエリとアクセスしているページを確認したりすることでKBFを推察できます。

ステップ3:自社サイトと外部メディアに一貫した情報を配置する

AIはWebの情報を総合的に見て商品を判断します。自社ECサイトの商品ページを整備するだけでは片手落ちです。

第三者メディアの比較記事、価格.com・Amazon・楽天の商品掲載ページ、カスタマーレビューも含めて、一貫したメッセージが世の中に広がっている状態を作ることが必要です。ここで鍵を握るのが広報PR担当者です。自社サイトとEC担当だけで完結するプロジェクトではなく、PRを含めた横断チームが必要な理由がここにあります。

レビューも量だけでなく質が重要です。「最高でした」という感想ではなく、KBFに触れた内容、たとえば「人間工学的な設計のおかげで腰痛が改善した」といった具体的な根拠を含むレビューがAIの学習に効きます。

ステップ4:定点観測で効果を測る

対策プロンプトを事前に100件設定し、毎日AIに投げ続けて定点観測します。自社商品が推薦されているか、推薦される文脈に変化はあるかを継続的にログで追います。

LLMOはSEOと比べて効果が出るスピードが速いです。AIはリアルタイム検索を走らせて取得した情報をそのまま回答に使うので、対策を打てば比較的早く回答が変わります。「やっても成果が出ない」という状況になりにくいフィールドだと感じています

ChatGPT広告とLLMOは「補完関係」。統合戦略の設計

樽澤:
広告とLLMOは競合するのでしょうか。それとも組み合わせて使うものですか。

竹内:
完全に補完関係です。イメージはLPOとリスティング広告の関係に近い。LLMOでオーガニック枠に自社商品を露出させた状態を作り、その上に広告を乗せてコンバージョンを取りに行く。この組み合わせが効きます。

LLMOで自社商品がオーガニックの回答に出てこない状態で広告だけ配信しても、クリック率が落ちてCPMの無駄遣いになりかねません。オーガニックの面を押さえていることが広告効果の前提になると見ています。

樽澤:
将来的に広告管理画面でデータが取れるようになれば、LLMOにも活用できますよね。

竹内:
そうなります。どのコンテキストで広告が表示されたか、クリック率や購入率はどのコンテキストが高かったか、そのデータがCEPの優先度付けに直接使えます。SEOとリスティングでよくある「リスティングでCVRが高かったクエリをSEO対策に活かす」という鉄板手法のAI版です。広告とLLMOのデータを相互に活用する設計を今から考えておく価値があります。

今日持ち帰るべき一つのこと

ChatGPT広告がいつ日本で使えるようになるかは、まだわからないです。仕様も固まっていないので、そのような状況で「いつ広告を出稿するか」を考え始めることよりも、今やるべきことがあります。

竹内:
結論、AIに正しく選ばれる状態を作ることが最大の準備です。誰のどんな悩みに対してこの商品が選ばれるのかを整理して、その情報をAIが学べる場所に置いていく。これは本質的なマーケティングそのものです。

今まではお金をかけて広告を出せば顧客を獲得できた。ところがAIとの対話を通じて人が物を選ぶようになると、広告の獲得効率は構造的に悪化していきます。本質的なマーケティング、つまりプロダクトの価値をきちんと言語化して世の中に届けるという活動が、改めて重要になるフェーズに入ったと思っています。

樽澤:
プロダクトチーム・広報PR・ECが連携してプロジェクトチームを作り、まずLLMO対策から着手する。そこから始めるのが現実的な第一歩ということですね。

竹内:
そうです。部署をまたぐ再編には時間がかかります。まずはプロジェクトチームという形で動き始めることを勧めます。ChatGPT広告が解禁された時に準備が整っている企業と整っていない企業では、スタートラインが大きく変わるはずです。

まとめ:変化はすでに始まっている

ChatGPT広告はまだ日本では使えないですが、消費者のAI活用はすでに進んでいます。検索エンジンではなくAIに相談して商品を選ぶ購買行動は、今この瞬間も広がっています。

今回竹内氏が一貫して語ったのは、「広告の仕様を追いかけるより先に、本質的なマーケティングを再構築せよ」というメッセージでした。

カテゴリーエントリーポイントの特定、KBFの推察、外部メディアも含めた情報の一貫した配置、そして定点観測による継続的な改善。この取り組みはChatGPT広告の有無にかかわらず、今日から始められます。

樽澤:
本日は長時間にわたり、ありがとうございました。

竹内:
ありがとうございました!

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