ムラサキスポーツの売上300%成長戦略のメソッドに迫る!〜デジタルマーケティング×OMO×組織改革のすべて〜
「Commerce Hack」とは「commerceの常識をhackし、未来の顧客体験を創造する」ことを目指す EC・リテール向けメディアです。
毎月1回のライブ配信にメーカーや小売業・EC支援企業のキーパーソンをお招きし、企業戦略や成功体験を“裏話”とともに共有。従来の枠を超えた斬新なアイデアや視点、“現場にそのまま持ち帰れる”実務ノウハウなど多様なコンテンツを提供しています。
今回は、「【Commerce Hack第4弾】ムラサキスポーツの売上300%成長戦略のメソッドに迫る!〜デジタルマーケティング×OMO×組織改革のすべて〜」の配信コンテンツを記事にしてお届けします。
EC売上を3倍に成長させ、EC顧客の半数以上が実店舗に来店するオムニチャネル戦略を実現したムラサキスポーツ。
その成功の背景には、ECと店舗のシームレスな購買体験の構築、SEO強化や購買導線改善といったデジタルマーケティング施策、そして社内の組織改革がありました。
スノーボード・サーフィン・スケートボードといったアクションスポーツ用品を全国140店舗規模で展開する同社は、どのように課題を解決し、成長を遂げたのか?
今回は、1992年からプロスノーボーダーとして同社に所属し、社員として入社後は店舗営業・商品部統括を経てEC事業責任者を兼任、現在は営業統括副本部長を務める佐藤 はじめ氏をお招きし、戦略から具体的な施策まで詳しく伺いました。
ゲスト紹介
株式会社ムラサキスポーツ 執行役員 営業統括本部副本部長
佐藤 はじめ

W2株式会社 執行役員 セールス&マーケティング本部 本部長
鴨下 文哉

「遊びで繋がる」をデザインする。ムラサキスポーツが向き合う世界

鴨下(W2):
本日はムラサキスポーツの佐藤氏をお迎えしています。最初に会社の紹介をお願いします。
佐藤(ムラサキスポーツ): 弊社は今年で創業52年目を迎えます。発祥は上野のアメ横で、実は喫茶店の経営からスタートした会社です。
創業者が「スポーツで社会貢献できないか」という思いからスポーツ用品販売を開始し、当初は野球・テニス・スキーを扱う総合スポーツ店でした。
30年ほど前から、スノーボード・サーフィン・スケートボードといったアクションスポーツにシフトしています。現在はムラサキスポーツ屋号で全国約140店舗、別屋号で10店舗を展開しています。
物販に加え、アクションスポーツイベントの企画運営、スクール、用具のレンタル・サブスク、スケートボードパーク運営、契約アスリートのマネジメントまで幅広く手掛けているのが弊社の特徴です。
パリ五輪で2大会連続金メダルを獲得した堀米雄斗選手も、弊社の契約アスリートの1人です。
鴨下(W2): 以前の対談でも「遊びで繋がるをデザインする」というキーワードが印象的でした。社員の方々も、そのコンセプトの延長で働かれているんですか?
佐藤(ムラサキスポーツ): サーフィン・スノーボード・スケートボードが好きで入社する人間もいれば、弊社主催のイベントに一参加者として来場したのがきっかけで入社する人もいます。
大人になると会社以外のつながりが持ちにくくなりますが、「遊び」という共通項を通じて多様な人が出会い、人生を豊かにしていく。そのきっかけを仕組みとして提供するのが、私たちの目指す姿です。

鴨下(W2):
5つの成果のなかで、まず「EC顧客の半数以上が実店舗に来店する」というOMOの実装について伺います。これは具体的にどのような仕組みなのでしょうか。
| OMOとは: Online Merges with Offline の略で、オンラインとオフラインを分けずに一体として顧客体験を設計する考え方。顧客データや在庫情報を連携し、どちらのチャネルを経由しても同質のサービスを提供することを目指す。 |
佐藤(ムラサキスポーツ): 2023年6月にW2でECサイトをリプレースしたのですが、その最大の目的が「ECとリアル店舗をどうシームレスにつなぐか」でした。
その中核となるのが、店舗受け取り・店舗取り寄せの仕組みです。
ムラサキスポーツの魅力の源泉は、商品知識の豊富な店舗スタッフ、スケートボードパークやスノーリゾートといったフィールド、そこで開催されるイベントにあります。
ECに注力するからこそ、このリアル体験とECを分断しないことが重要でした。
鴨下(W2): 店舗受け取り自体は多くのリテール企業が導入していますが、運用面での苦労はありましたか?
佐藤(ムラサキスポーツ): 一番のハードルは、ECチーム側のモチベーションでした。
弊社の場合、店舗の多くがデベロッパー(商業施設)さんに入っているため、ECで決済した商品の売上はいったん店舗側に付ける仕組みになっています。ECでは決済完了せず、商品を店舗に送るだけ。
導入当初はECチームから「なぜ自分たちの手を動かして他部署の売上を作るのか」という反発もありました。
ただ、サーフボードやスノーボードは梱包に特殊な技術が必要で、外部のサードパーティに委託しにくい商材です。だったら店舗スタッフとの接点を活かして、直接商品をお渡しするほうがいい、と徐々に腹落ちしていきました。
店舗スタッフ側のモチベーション設計としては、店頭受け取りで取り戻した売上を金額ランキング化し、毎月社内で公表するようにしました。
さらに、年間1位をサプライズで社長表彰する仕組みも導入しました。
その結果、店頭受け取りを選択されるお客様は、サーフボードで約7割、スノーボードで約3割にものぼっています。
お客様が単にモノを取りに来るのではなく、スタッフとの会話やアフターメンテナンスの説明、あるいは関連商品の相談など、「買うついでに得られる体験」を求めて来店されているのが大きな特徴です。
編集部コメント
中古買取サービスが生んだ思わぬシナジー
鴨下(W2):中古買取サービスも展開されていますが、店舗受け取りとの関係性を教えてください。
佐藤(ムラサキスポーツ): 中古買取は、SDGsの観点と、高額商品の購入ハードルを下げる目的で始めました。
近年は新品の価格高騰もあり、中古の需要が新品の供給を上回るほど高まっていて、良質な中古在庫をどう確保するかが課題になっています。
ここで効いてきたのが、ECの店頭受け取りサービスです。
ECでサーフボードを注文し、店頭で受け取る際に、今使っているボードをそのまま中古買取に持ち込むお客様が非常に多いです。「家のサーフボードは常に1本」といった微笑ましい会話もよく聞きます。
現在、サーフボードの年間販売本数の10%以上が中古で、これは店頭受け取り導入前には想定していなかったシナジーでした。
編集部コメント
EC化率3%から15%へ。「自分ごと化」させた組織改革

鴨下(W2): EC化率を3%から15%へ、約5倍に押し上げた要因を伺えますか。
| EC化率とは: 総売上に占めるECチャネル(オンライン販売)の売上比率。業界によって水準は異なり、ギア中心のスポーツ用品はアパレルに比べて低めに出やすい傾向がある。 |
佐藤(ムラサキスポーツ): 大きく2つの軸があります。組織の話とサイトの作り込みです。
まず組織の観点からお話しできればと思います。
弊社のEC事業は14年前にスタートしましたが、5年前まではグループの別会社で運営していました。
そのため、本体から見るとどうしても「他人ごと」で、販売施策も在庫も店舗と連動していませんでした。EC化率が3%に留まっていたのは、ある意味で当然の結果です。
しかし5年前、EC事業をグループ会社から本体に統合し、商品部の中に組み込み、これが転機となりました。
当時、商品部の責任者だった私自身、ECに関しては完全な素人でした。だからこそ、まずは社内の多くの人にEC事業を「自分ごと化」してもらうことから始めたのです。
具体的な施策としては、まず商品ページのモデルに店舗スタッフを起用しました。
さらに、ECに掲載する商品の選定と値付けをバイヤーに委ね、同時にEC事業に関わりたい人材を社内で公募しました。
当時はちょうどコロナ禍でリアル店舗が動きにくく、バイヤーたちが仕入れた商品の売り先に困っていた時期です。そこにECという活路を提供したことで、彼らは非常に夢中になって取り組んでくれました。
2024年春には再び組織を動かし、EC事業をリアル店舗を管轄する部門の傘下に配置しました。
お客様の購買行動が「オンラインとオフラインの行き来」を前提とするものに変わってきたため、リアルとECを同じ指揮系統で動かすべきだと判断したからです。
鴨下(W2): 組織構造そのものを動かして「関わらざるを得ない」状態を作るのは、非常に思い切った改革ですね。
佐藤(ムラサキスポーツ): そうですね。ただ、人間の行動範囲や思考範囲は、想像以上に「所属している組織」に縛られています。
社内周知で認知を上げるよりも、組織としてEC事業に関わらざるを得ない構造を作るほうが、はるかに効きました。
ちなみに現在のECチーム約40名は、全員が店舗経験者で、ECプロパーで採用した人間は1人もいません。
だからこそ店舗の気持ちを分かったうえでサイト設計や施策を考えられる。これも5倍成長の見えにくい背景だと思います。
編集部コメント
サイト作り込みにもこだわる、カタログ思考と独自のレコメンド機能

鴨下(W2): もう1つの軸、サイトの作り込みについて伺えますか。
佐藤(ムラサキスポーツ):はい。 サーフボードやスノーボードは決して安価ではなく、お客様は購入前にかなりの時間を情報収集に使います。
だったら、ムラサキスポーツのサイト自体がその情報源になれば一番いい、という発想でサイト構造を設計しました。
具体的には、カテゴリやアイテムごとにカタログ的なページを用意し、スペックを横並びで比較できる機能を実装しました。さらに、身長・体重・キャリア年数を入力するとおすすめのサイズが算出されるレコメンド機能も開発しました。
サーフボードに関しては、日本国内でこの比較・レコメンド機能を提供しているサイトは弊社だけだと認識しています。
面白いのは、この機能を店頭のスタッフが接客で活用していることです。
お客様に身長・体重を伺って、「このサイズが合いそうです」と画面を見せながら説明する。ECのために作った機能が、リアル店舗の接客クオリティも底上げしています。
鴨下(W2): まさにコマーステクノロジーをリアル店舗に持ち込んでいる状態ですね。我々としても非常に勉強になる発想です。
広告に頼らないSEO=「見たいサイト」を徹底して作る

鴨下(W2): SEOでも成果を出されています。ビッグキーワードで1位獲得、サイト流入1.5倍。広告運用に関しては、どの程度運用されていますか。
佐藤(ムラサキスポーツ): 自社サイトに関しては、広告は一切行っていません。お客様が本当に見たいサイトになることを優先していて、そこに取り組みきる前に広告費をかけるべきではないと考えています。
施策の柱は、先述のデジタルカタログ的なページ群、契約アスリートによる商品レビューブログ、検索上位キーワードを軸にした特集ページの構築などです。
特集ページは、キーワードの下に関連商品をぶら下げていく構造で、カテゴリを横断する導線を作っています。

もう1つ大きかったのが、3つあったドメインの統合です。以前はEC、コーポレートサイトを兼ねた情報サイト、中古商品サイトの3つが並立していて、「ムラサキスポーツ」で検索するとお客様がどこを見ればいいか迷う状態でした。
しかし、2024年11月にコーポレートサイトを完全リニューアルし、消費者が触れる情報をECに集約したことで、お客様が迷わず目当ての情報に辿り着ける環境が、流入1.5倍の土台になっています。
編集部コメント
ムラサキスポーツらしさと、次なるプラットフォーム構想
鴨下(W2): EC売上300%成長という数字の背景には、「何を目指すか」の判断軸もありそうですね。
佐藤(ムラサキスポーツ): 社内では「ムラサキスポーツらしさ」という言葉をよく使います。他社を模倣するのではなく、商品MDもサービスもECコンテンツも「そこにムラサキスポーツらしさがあるか」で判断する。
お客様が検索結果で弊社サイトに辿り着いたときに
「ここはなんか面白そうだ」
「情報量が豊富で、商品ページ以外のコンテンツも読み応えがある」
と感じてもらえることを目指しています。商品ページは現在2万を超えていますが、効率だけを追わず「面白さ」を残すことを意識しています。
鴨下(W2): 今後の構想についても教えてください。
佐藤(ムラサキスポーツ): ECサイトを、アクションスポーツの総合プラットフォームに育てたいと考えています。
現在も商品情報やニュース、契約アスリート情報、スタッフのスタイリング動画を掲載していますが、今後はレンタルの事前予約、サブスク申し込み、スクール・イベント申し込み、リフト券販売といった「コト消費」のカテゴリを集約した新しいページを構築していく予定です。

すでに運用しているスノーボードレンタルは、丸沼の1号店で事前予約・事前決済・当日ピックアップのみという仕組みを実現しています。
各スキー場で2〜3時間待ちが当たり前のレンタルを、事前に済ませられるのが大きな特徴です。レンタル先進国の海外事例も視察し、さらに進化させていく予定です。
もう1つ、一定のトラフィックに到達した段階で取り組みたいのが、マーケットプレース的な展開です。
取引先のBtoCサイトから商品情報をAPIで連携してムラサキスポーツのサイトに出品し、注文が入ったら物流を簡素化するために、ドロップシッピングで取引先から直接お客様に配送します。
| ドロップシッピングとは: 販売サイトが商品在庫を持たず、注文が入った時点でメーカーや卸業者が直接顧客に商品を配送する販売形態。在庫リスクを抑えられ、大型商品の二重輸送コストも回避できるメリットがある。 |
編集部コメント
鴨下(W2): OMO、組織改革、サイト設計、SEO、そして未来のプラットフォーム構想まで、非常に濃いお話をありがとうございました。
本配信のアーカイブ動画はYouTubeにて限定公開しています。
以下リンクから是非ご視聴ください!
ありがとうございました。
「Commerce Hack」は、commerce の常識を hack し、未来体験を創造することを目指す EC・リテール業界向けメディアです。メーカーや小売業、EC 支援企業のキーパーソンをお招きし、企業戦略や成功体験を“裏話”とともに共有します。開始から約1年でリアルタイム参加1,000名を超え、多くの視聴者から高い評価をいただいています。
「Commerce Hack」アーカイブ動画配信中
Commerce Hackでこれまで公開してきたセッションを、アーカイブで順次ご覧いただけるようになりました。EC・リテールの最前線で挑戦を続ける企業のリアルな戦略や、成長を生み出す仕組みづくりを、いつでも好きなタイミングでインプットできます。
過去のアーカイブ動画はこちら:https://www.w2solution.co.jp/enterprise/commerce_hack_archives/

