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トライアル、デジタル前提の「小売DX」で流通を変革——西友買収で都市部へ拡大し、業界横断のサプライチェーン最適化へ
2026.03.31
戦略・マーケティング

トライアル、デジタル前提の「小売DX」で流通を変革——西友買収で都市部へ拡大し、業界横断のサプライチェーン最適化へ

デジタル前提の経営で25期連続増収、西友買収で都市部へも拡大

九州発のディスカウント店を運営するトライアルホールディングスは、郊外の大型商業施設を中心に全国357店舗(2025年8月時点)を展開し、25期連続の増収を達成している。2025年6月期の連結売上高は8038億円に達した。さらに2025年7月には西友を完全子会社化し、関東を中心とする都市部でも事業基盤を大きく強化している。

25期連続増収を達成したトライアルの売上高推移グラフとIT発祥の企業構造

同社の成長を支えるのは、1980年代の創業当初から培ってきたIT技術である。「流通小売事業」と「リテールAI事業」を二本柱に掲げ、従来のアナログ業務を後からデータ化するのではなく、最初からデジタルを中核に据えてリアル店舗の仕組みを構築している。執行役員グループ経営企画部長の小林大悟氏は「テクノロジーで流通を変革する点に強みがあり、これが他社との差別化要因になっている」と語り、全てのデータを把握しながら経営判断を行う姿勢を鮮明にしている。

編集部コメント

トライアルの強さは、単に「スーパーがITを導入した」のではなく「IT企業がスーパーをやっている」という根本的な違いにあります。今回の西友買収によって、これまで郊外型が中心だった同社が都市部の膨大な顧客接点とデータを手に入れたことは、日本の小売業界の勢力図を大きく塗り替える可能性があります。都市部でのデジタル前提の店舗運営がどう展開されるか、既存の伝統的な小売企業にとって大きな脅威となるでしょう!

「Skip Cart」とAIカメラが実現する究極のデータ活用とデジタルツイン

トライアルのデジタル戦略の核となるのが、IoTデバイスを活用したスマートストアテクノロジーである。その代表例が、タブレット端末を搭載した「Skip Cart」だ。

トライアルの小売DXを象徴するタブレット搭載レジカート「Skip Cart」での買い物風景

顧客が自分で商品をスキャンしながら買い物をし、専用ゲートを通るだけで会計が完了するため、レジ待ちがほぼ解消される。タブレット端末には顧客に応じたクーポンやレコメンド情報が表示され、購買体験の向上とデータ取得を同時に実現している。導入店舗ではレジのスループット(処理能力)が1.7倍に向上し、買い物時間の短縮による駐車場の回転率アップが売り上げ増加につながっているという。 

さらに、店内に設置されたAIカメラにより、来店客の行動や棚の状況、欠品などをリアルタイムに取得している。これにより、仮想空間上に店舗レイアウトを再現して顧客の行動をシミュレーションする「デジタルツイン」のような活用も可能となり、現場の負担を増やさずにデジタル上で高速にPDCAを回す環境を実現している。

編集部コメント

「Skip Cart」とAIカメラの組み合わせは、オンラインショッピング並みの顧客行動トラッキングをリアル店舗に持ち込んだと言えます。「どの棚の前で立ち止まったか」といったプロセスデータは、これまでPOSデータ(買った結果)しか見えなかった小売業にとって宝の山となり得ます。この解像度の高いデータを持つことが、メーカーとの交渉や独自のマーケティング施策において圧倒的な優位性につながります!

リテールメディアと省人化を融合した新業態「トライアルGO」

最新のテクノロジーを詰め込んだ新業態が「トライアルGO」だ。既存店の周辺にサテライト型の小型店舗として展開されるこのモデルは、大きく3つの特徴を持つ。

第一に徹底した「省人化」だ。顔認証によるセルフ決済やAIカメラによる自動発注を組み込み、オペレーションコストを抑えた30人時での運用を可能にしており、将来的には無人店舗に近い運用を目指している。

第二に、店内のサイネージを活用した「メディア収益」の獲得である。サイネージを企業向けの広告媒体として提供するとともに、AIカメラで広告効果を測定し、店舗内マーケティングに活用している。

第三に、一般的なスーパーと同等の品ぞろえや職人監修の惣菜などを提供する「商品力」だ。

少人数運営とリテールメディアを融合した小売DX店舗「TRIAL GO」の5つの特徴

デジタル活用と店舗経営を一体で設計することで、人手不足という小売業の構造的課題をクリアしながら、リテールメディアという新たな収益源を開拓している。

編集部コメント

「トライアルGO」は、人手不足が深刻化する業界に対する一つの明確なアンサーです。少人数で店舗を回せるだけでなく、サイネージ広告で「売る」以外の収益源を確保している点が秀逸です。メーカーにとっても、広告を見た直後に商品を買えるリテールメディアとしての価値は高く、今後こうしたフォーマットが全国の都市部に広がれば、新たなメディアプラットフォームとして成長していくかもしれません!

企業の枠を超えるサプライチェーンDX「リテールテックタウン」

トライアルの視野は自社の店舗運営にとどまらず、流通業界全体の変革へと向かっている。国内の流通市場に残る約40兆円規模の「ムダ・ムラ・ムリ」を解消するためには、企業間でデータを共有し、業界全体で最適化を図る必要があると提唱している。

その実証の場として、同社は福岡県宮若市に「リテールテックタウン」を整備した。ここにはIoT開発センターやAI活用の開発拠点が集積し、隣接する「トライアルGO脇田店」で最新技術の実証実験が行える。

毎月開催される「宮若ウィーク」には、小売り、卸し、メーカー、IT企業などから多くの関係者が集い(2025年5月時点で48社305名が参加)、トライアルのリアルなデータを基にした売場改善や棚割りのワークショップが継続的に実施されている。

福岡県宮若市でのトライアルの小売DX実証実験「リテールテックタウン」の構造図

「単独企業でのDXから、業界横断のDXへ」——トライアルが主導するこの取り組みが、日本のサプライチェーンをどう変革していくのか注目される。

編集部コメント

福岡県宮若市の取り組みは、トライアルが単なる小売業から「流通業界のプラットフォーマー」になろうとしていることを示しています。メーカーや卸し、さらにはIT企業までも巻き込み、オープンな場でデータを共有・実証するエコシステムを作り上げた行動力は驚異的です。一企業によるDXのフェーズを超え、日本全体のサプライチェーン効率化のハブとして機能し始めている点に、同社の真の恐ろしさと可能性を感じます!


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Commerce Hackメディア編集部